学校は海外で大学まで卒業している秀才らしい。
幼い頃日本で過ごし、いったんはスイス、英国と移り住んだが、やはり日本で過ごしたいと、単身日本に戻ってきたとのことだ。
なので日本での知人が皆無なのを幸いとして、彼の方に花嫁役をと言うことらしい。
「俺はかまへんのやけど…相手の子よお承知したなぁ…。
それに…無理あるんちゃいます?
俺より2歳年下言うても18の男に女装って……」
「いえいえ、彼はその辺の女性より美女ですよ。
線がすごく細いので、パットいれれば体格もどうとでもなりますしね」
何故かキラキラした目で言う本田。
「ただ…花婿の側に理解がないと撮影が難しいですから。
写真とは言え、男性相手に結婚を演じるわけですし…」
「あ~それは別にかまへんけど…」
正直アントーニョ的にはなまじ女性で情を移されるよりは恋愛に発展しようがない男性の方がありがたい。
(親分にはあーちゃんおるしな…)
と、そこで心の中で浮かべるのは遥か昔に将来を約束した幼馴染の姿だった。
本名は覚えてないが、あーちゃんと呼んでいた天使のように可愛らしい女の子。
光に透ける金色の髪に真っ白な肌。
目は淡い緑色で、それを縁取る金色のまつげが、まるで新緑の間から零れ落ちる春の木漏れ日のように綺麗だった。
小さく整った鼻に可愛らしい唇にいたるまで、まるで人形のように美しいのに、目の上の眉毛だけが妙に太くて、それが返って冷たい印象を与えがちな整った容姿に愛嬌をもたらしていた。
花がいっぱい植えられていた隣の洋館に住んでいて、体が弱かったので窓際のベッドで童話の本を読んでいるか、ぬいぐるみを抱きしめて花を眺めているのが常だった。
わんぱくで壁にあいたわずかな隙間から隣に忍び込んだアントーニョは、ぬいぐるみに話しかけていた可愛らしいあの子を一目見て恋に落ちたのだ。
それからは日々あーちゃんに会いに言って、色々な話をした。
彼女の方は自分の事はほとんど話さなかったが、アントーニョが話す外の世界、幼稚園や友達、公園や近所の野良猫の話まで、本当に楽しそうに聞いていた。
幼稚園の年長の頃に出会って入学式の直後くらいまで…。
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