フェイクのマリアベールに真実の愛はあるのかっ?!1_1



「ブッキングっ?!今更?!」

某有名ホテルで募集していたイメージモデル。

若い世代のウェディングの企画ということで、全国から18歳~25歳までの男女で募集していたそれに応募したアントーニョは、募集人数数千人の難関を乗り越え、見事その座を射止めたはずだった。


なにしろ条件が破格だ。

1年間専属契約で報酬は700万。
撮影は週に1,2回。
その他春夏秋冬、1つの季節に1週間ほど撮影のために拘束される。
もちろん諸経費はすべてホテル側持ちだ。

さらにその間はホテルでの宿泊、ホテル内もしくはホテルの系列のレストランでの食費は無料である。


そりゃあ今のご時世にこんな話があれば、少し自信のある若者はどっと押し寄せる。

大学3年生になって、学生生活には慣れ、講義は減り、就職にもまだ間があって若干暇を持て余していたアントーニョもそんな若者の一人だった。


書類審査に通り、3度の面接。
そして最終審査を乗り越えて、見事モデルの座を射止めたとの連絡が来たのは1週間前。

しかし今日、詳細説明と正式な契約を結ぶためにホテルの本社を訪ねたアントーニョは、ホテル側の手違いでもう一人男性に合格通知を出してしまっていたことを明かされた。


「もう一度…面接ということですか?」
と訊ねる声は自然と沈む。

なにぶん条件が条件だけに、合格通知をもらってから1週間は浮かれ放題浮かれて、友人達からも思い切り祝われた。

ここでやっぱり…と言われては、どうにもやりきれない。


「ん~…それなんですけどねぇ…」

営業本部長、本田菊…と名刺にある目の前の人物は、下手をするとアントーニョとそう年齢が変わらないようにもみえる。

が、面接にも何度か顔を見せた彼は、実はもう30をとうに超えているという。

確かに年齢不詳なレベルでの童顔は置いておいて、声や話し方、話す内容とかは年相応に(?)落ち着いていて、それが事実であると納得せざるを得ない。


そしてこのアントーニョからすれば青天の霹靂ともいえる事態にも彼は意外に落ち着いていて、手にしたペンをクルリクルリと指先で回しながら、

「今更それは出来ないんです。
もっとはっきり言うと…男性を一人に絞る事は出来ても、落とした女性にもう一度…と言う事は出来ないという上の命令なんですよねぇ…」
と、そう言うと、困ったもんです…と呟き、苦笑した。


「…はぁ……」
アントーニョにはそう言うしかない。

わざわざ事情を話すということは、即お帰りを…にはならないと思うが、正直、何が言いたいのかわからない。
ぽかんとするアントーニョに、本田はにこりと読めない笑みを浮かべて問いかけた。

「そこでご相談なんですが……アントーニョさん、秘密を守れます?」
「はあ??」

「相手の子は日本に来たばかりなんですよ。
元々は日本に住んでいたらしいんですけどね、幼い頃に病気療養で海外に移り住んで、でも最終的にはこちらで暮らしたいということで、日本に戻ったらしいんですが……」
「はあ……」

別室に待たせてあるというもう一人の合格者に会う前にと、さきほどから本田が事情を説明するのに、アントーニョは曖昧な相槌を打ち続けている。
もうそれ以外どうして良いかわからない。

それでも…どうしてもこのモデルの仕事が欲しかった。
なので、了承したのである。

本田の
「もう一人の子の方に花嫁役のモデルをやってもらおうと思うんですよ。
もちろん男性と言うことは極秘で。
なので、花婿役のアントーニョ君にはそのフォローもして頂ければと思いまして…」
という飛んでもない提案に……。


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