ギル&アーティ、ライブパニック2


――敵だ…あいつは俺の…いや、世の男の敵だ。

きらきらとライトに照らされたステージ。
その上でどこか退廃的な雰囲気の衣装を身にまとって歌う男。

乙女達の黄色い歓声を浴びて、なのに男は同じステージで歌う同性のパートナーにばかりまとわりついて、客である乙女達に視線を向ける事すらしない。

なのに女性達はそれを見て男に夢中になる。


まるで彫刻のように美しくも男らしいラインを描く体躯に悪魔をコンセプトにした衣装を身につけて、ある種魔的な雰囲気すらある気味の悪いほど整った顔の男は不敵に笑う。

対するパートナーは白地に金を施したまばゆいばかりの衣装で、まるで光を体現したようなそれはそれで心を苛立たせた。


『みんな、今日は本当にありがとな~』
と、抽選で当たった非常に幸運なファンのためのこのコンサートが終了間近なのを告げる、甘くハスキーな声。


――人気ユニット【Eden's wings】のギルベルト・バイルシュミット…

大勢の女達をたぶらかす極悪人が目の前にいる。



売れっ子俳優で売れっ子歌手、イケメンでスタイルが良くて運動神経すらとてつもなく良い。
さらに頭も良くて金もあるというおまけつきだ。

そんな風に世の男が切望するたくさんの物を独り占めしている男…。
…奴は全てを持っている。

なにもかも持っているくせに、たった一つしか持たない人間から、そのたった一つを取り上げて行くのだ。


そう…ごくごく普通に生まれ、イケメンから遥かにかけ離れた容姿。

子どもの頃から走ればビリ、試験は落ち、告れば振られてきた洋一がずっと片思いをしている天野優華。

彼女は同じコンビニのバイト仲間だ。
一昨年に洋一から1カ月遅れで入ってきた。

おばちゃんの中で唯一の若い女の子。

洋一を散々バカにしてきた学生時代のクラスメートの女たちと違って、ストレートの黒髪の清楚系の女性だ。

一か月とはいえ先輩だからと、きちんと洋一をたててくれてる。
バイトのシフトもだいたい同じ。
いつも隣にいる。

これはもう、運命なのではないだろうか…洋一がそう思ったのはおかしくはない、当たり前のことのはずだ。


――おはようございます。益子さん

涼やかな声。

いくら洋一で良いと言っても、仕事関係の方ですから…と、頑なに名字でさん付けなのが少しよそよそしい気がするが、おそらく生真面目な性格なのだろう。

きっと“仕事関係の方”じゃなくなれば、その距離もいっきになくなるに違いない。
彼女だってその方がいいだろう。

そう思って、店内に客がいなかった時に彼女に言った。

「優華ちゃん、今更だけど…俺らつきあわない?
そうしたらさ、君も俺の事、気軽に名前で呼べるよね」

洋一がそう言うと、ポカンとされた。
口を小さく開けて目を丸くして固まっている様子は可愛かった。

これは…次の瞬間真っ赤になるパターンだな…と、洋一は前夜も自宅でやっていたギャルゲーを思い出して内心小さく笑う。

しかし彼女の反応は予想に反したものだった。




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