ギル&アーティ、ライブパニック1

会場は光に溢れている。

「アルト、準備OKか?」

と黒地に銀色の装飾を施した衣装に身を包んだギルがベースをいじりながら小さく声をかければ、

「おう。ギルこそ突っ走りすぎんなよ?
まあ、走りすぎても俺が合わせるけど」

と言いつつ、普通は逆だけどな合わせるの…と、アーサーがやはりギュイ~ンとギターを鳴らしながら苦笑した。



2人が初めて映画のオーディションで出会って3年。
一緒に暮らし始めてからも同じ年数。

正式に恋人同士になったのはその1年後で、2人がレギュラーの番組【ギルとアーティのファンの皆様の仰せのままに】を持ったのは同時期。

それからさらに半年後…ファンの希望を2人が叶えると言うその番組から端を発して、2人で音楽ユニット【Eden's wings】を組み始めた。


テーマは天国と地獄の間の人間界で歌う悪魔と天使のユニット。

それもファンの希望で本当は番組内で一度きりのはずだったのが、思いがけず人気が出て、今では役者業よりもそちらがメインになりつつある。


元々がゲイが主役の映画での恋人同士という役柄で共演したせいもあって、ほぼ公認の2人が、ギルは毎回悪魔をイメージした衣装、アーサーは天使をイメージした衣装で歌いながら、時に寄りそい、興が乗ると濃厚な口づけを交わしたりするコンサートは、一部の特殊な趣味のお姉様達の熱狂的な支持を受けて毎回満員御礼だ。


白い天使の羽を模した愛用のギターを手に軽く音を奏でるアーサーを横目に、ギルはシンプルな黒の自分のベースを手に、チラリと会場の客席を映すディスプレイに視線をむけた。


その日はいつもより随分と小さな会場でのライブコンサート。

なるべく近い距離で2人が見たいというファンの希望により開かれた。


ファンクラブ内で抽選で選ばれた200名の観客で満席。ほぼ女性ファン。

バンドのイメージに合わせたのか、ややクラシカルで退廃的な雰囲気のゴシック・アンド・ロリータファッションを身につけたファンもちらほら見かける。


そんな中…ギルベルトは前方2列目の中央あたりにふと視線を止めた。
そして眉根を寄せる。

「…どうした?ギル。
そろそろ幕があがるぞ?」

と、そこでアーサーが不思議そうな顔で声をかけて来たので、

(ま…考えすぎか…)

と、ギルベルトは

「おう、今行く」
と、ステージ中央に向かって駆けだした。



>>> Next (2月25日0時公開)


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