寮生はプリンセスがお好き1章_1

プロローグ


――アーサー・カークランド、銀狼寮。副寮長。

ざわざわと和やかな空気がただよう昼食時のランチルームに初老の教師の声が響き渡った。
そこは入学したばかりの中学生達が楽しく食事をする場所である。


そんな新入生の1人アーサーが入学したこの学校は全寮制で、最初の3日間は新入生全員ウェルカムエリアと呼ばれる特別寮で過ごし、二つの寮のどちらかに振り分けられる事になっていた。

ということで入学してすぐこの特別寮に来て早3日目の昼食時。

教師が次々新入生の名前と寮を言い渡していく。

もちろんアーサーも例外ではない。
若干どきどきしながら自分の名前が呼ばれるのを待っていると、教師が淡々と告げていく寮名。

しかしながらアーサーの番になった時、他は名前と寮名で終わっていたところ最後に一言、意外な言葉がついていた。

――副寮長

その言葉を教師が口にした時、同級生…特に小等部からこの学校に通っている良家の子弟達の視線が一斉にアーサーに向かって注がれた。


寮は3つ上の学年と一緒になるので、アーサー達中1は今の高1と同じ寮になる。

そして寮長は高1の中の成績優秀者10名の中から何故か武道で競い合ってその優勝者がなり、副寮長はその寮の高校生達の総意で決まると聞いていた。

つまり…同じ寮の高校1年の先輩達に選ばれた形になるのだが、アーサー本人ですら『何故だ?!』と思う。

普通なら3日前に初めて学園に来た人間よりは今の高1が小等部だった頃に3学年下にいてよく見知った小等部出身者を選ぶのではないだろうか?

ざわめく室内。
集まる視線。

だが何故かそこからは敵意のようなものは感じられず、むしろすでに同じ寮と告げられた生徒達からは納得したというような空気が漂っていて、どちらかというと別の寮にと告げられた同級生達からのほうが、厳しい視線が注がれているような気がする。

脳内で思い切りハテナマークを飛ばして首をかしげていると、その厳しい視線を遮るように大きな影がアーサーの前に立ちはだかった。

視線をテーブルの上の食事のプレートに落としていてすら感じる威圧感。

しかし明らかに自分の前に立つその影にアーサーは恐る恐る顔をあげた。

デカイ…厳つい…が第一印象。

ここにいるのだから中1なのは確かなはずだが、とても同年齢に見えないその少年は、どうやら笑うのが得意ではないらしい。

少し困ったように眉尻を下げてわずかに口の端が上にあがる、なんとも不器用な笑みを浮かべて、アーサーとは違い、もうしっかりと声変わりをしているらしい低く男らしい声で

「ルートヴィヒ・バイルシュミット。
ルートと呼んでくれて構わない。
あなたと同じ銀狼寮の寮生で、今年度の寮長、ギルベルト・バイルシュミットの実弟だ。
プリンセスが寮長の元に辿りつくまで護衛しろと兄から言いつかってきたので、今この時よりあなたを護衛させてもらう。
よろしく頼む」

と、これもアーサーより一回りは余裕で大きいのではないかと思われるようなゴツイ右手を差し出してきた。


護衛?プリンセス??
一体これから何が起こるんだ??

何から突っ込んでいいやら、聞いて良いやら悪いやらもわからず、しかしながらおそらくこれから自分をフォローしてくれるのであろうルートの大きな手を、アーサーは恐る恐る握り返した。

これがアーサー・カークランド12歳。
名門私立シャマシューク学園での波乱の学園生活の始まりであった。



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