「そういえばこの部屋…」
英一の状態はどうやら落ち着いたらしくフランシスが付き添っていて、英二は何故かその隣でひどくうなだれている。
「なんで俺らだけ蚊帳の外なんでしょ?」
と、さすがにこの状況での放置状態に黒井が不満気に言うのに、王も表情は穏やかながらも同じことを思うのか、
「そうですね…」
と同意して頷いた。
水木はどこの輪にもなんとなく入りづらいのか、とりあえず後輩であるアントーニョとアーサーの方に来ようとするが、アントーニョの露骨に嫌そうな表情を見て躊躇する。
そんな微妙な空気の中、アーサーはとりあえずここが安全圏とばかりにアントーニョの腕の中からは抜け出さないものの、クルリと周りを見回して口を開いた。
「壁の絵とかアレだよな、白雪姫。
そういえばテーブルクロスの刺繍もリンゴだし…」
「あ、ほんまや~。白雪姫だけに毒りんごで毒薬ですか?」
と、いい加減暗い緊張した空気が辛かったのか黒井がそれに乗って、隣の王に
「それは…少し不謹慎かと思います。」
と注意される。
「でもま、ほんま白雪姫やったら、毒で死にかけたあとは王子が来はってめでたしめでたしで終わるし、ええんちゃいますか」
と黒井がやはりどうしてもこの空気を変えたいのか補足をすると、アーサーも同じ事を考えていたのか、
「そうだよな。あとはハッピーエンドだ」
と微笑んだ。
「何故かはわからんけど、加瀬兄弟をここに連れて来たかったって事かもしれませんな。
有名人やから何かで恨み妬みでも買いはったって事やろか」
「そ、そうだよね」
と、黒井の言葉に今度はようやく話の輪に入れてホッとしたとばかりに水木が乗ってくる。
最初は寒さに暖炉に張り付いていた面々も、今は広いリビングで奥の広いソファには英一を寝かせ、英二とフランシスがついていて、窓際にはギルベルトとマシュー。
ドア側を背にして黒井と王、その左側の暖炉を背にしたソファにはアーサーとアントーニョ、その正面に当たる右側のソファに水木が座って、テーブルを囲んで話している。
「とりあえず…家主を探して本土に連絡を取ってもらうか船で送ってもらうのが先決ですね」
王がハァ~っとため息をつきながら眼鏡をクイッと押し上げてそう言うと、ん?というように一点に視線を止めた。
ポツン…と降って来た雫がテーブル中央に置かれた花瓶に活けてあった白い花の花びらを赤く染めてさらに水に落ち、水をも赤く染めていく。
「…っ!!!」
目を見開いて息を飲み、恐る恐る雫の落ちてくる天井を見上げて、声にならない悲鳴をあげる王。
その様子にソファに座っている面々が一斉に天井を見上げて、一部が悲鳴をあげた。
白い天井の下に設置されたガラスに赤く血で浮かび上がる文字…
『白雪姫の継母は毒りんごを差し出し、ハートの女王は叫んだ――首を刎ねておしまいっ!…と……』
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