号泣するマカオを抱きつかせたままソファに落ち着いたポルトガル。
スペインがトポトポとワイングラスにワインを注ぐ横でイギリスが事の次第を説明し始めた。
「お前がいつも俺の事ばかり優先するから、本当に愛されてるのかマカオが不安に思ってるってのは本人から聞いてただろ?
だから本当に同じ条件でどちらか選べるとしたらお前がどちらを選ぶのか、マカオを選んだなら安心できるんじゃないかって思ってな」
「…それ…もし俺がイングランド選んどったら?」
正直…今回の事がなければ迷わずイギリスを選んでいた気がする。
…というか、イギリスを選んでもマカオを無くすという考えが脳内になかった。
なので一応…と思って聞くと、イギリスがすごく良い顔で微笑んだ。
「そりゃあ…まだガキの頃からマカオに手ぇ出しといて他を選ぶなんて事しやがったら、もちろんその元凶のナニをこの前プロイセンにもらったドイツ製のよく切れる包丁で切り落としてお前蹴りだして、マカオの良さがわかってマカオも好きになれる相手がみつかるまでは、俺やスペインや香港や日本、みんなでマカオが寂しくないように誰かしらが一緒に過ごすようにするつもりだった」
うああああ~~!!!!
セーフッ!ぎりぎりセーフである。
冷や汗をかくポルトガル。
しかし不意にクスンクスンとまだシャクリをあげているマカオに気づくと、ポンポンと頭をなでた。
思えばスペインを思って泣くイングランドにはよくこうしてやったが、泣くことも落ち込むこともなく、いつも笑顔だったマカオにはしてやった事がなかった気がする。
「…自分……もしかしていつも一人で泣いとったん?」
というポルトガルの問いに、少し硬直するマカオ。
それで悟った。
「ああ、そうやったんか。堪忍な。自分は平気やって思うとってん。
でも平気やなかったんやなぁ…」
これからはちゃんと言うてや、と、やはり頭を撫でながら苦笑すると、少し気まずそうに、それでもようやく笑みを浮かべて頷くマカオ。
ああ…この子の方が危ういやん。言わへんし。
と、そこでようやく気持ちが完全にそちらに向くポルトガル。
「とりあえずまあめでたしめでたしって事で乾杯しようぜ」
と、グラスを配るイギリスからワイングラスを受け取ると、皆で乾杯。
しかし一気にそれを飲み干してポルトガルはマカオの腕を掴んだまま立ち上がった。
「ほな、そういう事で、俺ら帰るわ」
「へ?」
これから歓談が始まるとばかり思っていたイギリスが目を丸くする前でポルトガルはきっぱり
「このところずっとロンドンでホテル取っとるから。
もうずっとしてへんし」
と断言する。
「お…まえは~~!!それだけかああ~~!!!!!
節操なしのラテンがあああ~~!!!!」
叫んでポルトガルに向かってクッションを投げつけるイギリスと真っ赤になるマカオと苦笑するスペイン。
「やって、好きやったらしたいやん」
と、悪びれずにマカオをひょいっと抱きかかえて逃走するポルトガル。
それを追おうとするイギリスを、今度はスペインがひょいっと抱き上げた。
「お、おい、何してっ…」
焦ってバタバタと暴れるイギリスに、スペインはにっこり
「親分もラテンなんやけど?
マカオの事でずいぶん待たされたことやし、そろそろ解禁して欲しいわ」
と、パチコ~ン☆とウィンク。
「え?え?あ、あの、ちょっと待ったっ」
「これで数百年の待ち時間は終了や~」
「無理ッ!急には無理ッ!心の準備とか色々…」
「大丈夫っ!ラテン男の本気のテク信じてや」
「む~~り~~~!!!!」
イギリスの絶叫が二人きりの室内に響き渡った。
ちきしょう…若いっていいよな。
爺も新しい恋がしてえ。
ヒビの入ったスマホでメールを送るも、どちらからも返答が来ないところをみると、どうやら上手く行って楽しい夜をすごしているのだろう。
一人残された酒場で酒を飲みながらため息をつく初老の男。
ポルトガルには
『スマホの修理代ちゃんと出せよ』
と、スペインには
『爺ちゃんのデジカメ返せ』
と、最後にメールを打つと、
「可愛い孫の顔でも見て帰るか~」
と、会計を済ませてイタリアに飛ぶ。
そこでローマがさらに一人ではない孫達にショックを受けるのは、まだ数時間も先のことであった。
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