黒衣の花婿白衣の花嫁1

美しい森とまるでベールのようにそれをふんわりと覆い隠す霧…。
その奥にはキラキラと光を振りまきながら飛び交う妖精と動物達と…そしてこの美しい国を体現している少年の国体が住んでいる。

世界に多数存在する国体達の多くがそうであるのと違って、少年イングランドは普段は城の治世者達の中には身を置かない。

それは幼いころから他者に刃を向けられ続けてきた少年の恐れと…もうひとつ、城の中には連れて行くことが困難な彼の友達…森の動物達との別れをよしとしない彼の愛着からでもあったし、決して余裕があるとは言えない…余裕が少しでもあるなら他の事に回したい治世者達が、城にとどまらせるならそれなりに整えないといけない体裁にかかる費用その他を惜しんだ事からでもある。

つまり他国がどうであれ、島国で海と言う壁で他国から隔絶されていたこの国では、大陸がそうであるからといって、お互い望みもしないのに自分達がそれに倣おうとする気はなかった。
そういう事である。


そんなイングランドが城に呼び出される事、それはすなわち政略の道具として他国に送られる事と同義語だった。

かつてはフランスに連れて行かれ割合と長い期間召使として扱われたが、今度は覇権国家様であるスペイン王国から自国の王子のために末の姫を腰入れさせてもらうために、国体を婚姻相手として寄越せというものらしい。

正直唖然とした。

だって覇権国家様の国体は男で自分も男だ。
婚姻というものは異性間で行うものだ…と、幼い島国の国体は思っていたのだが、上司に言わせると、こと国の間では必ずしもそうではないらしい。

国同士が同盟を結べば、その繋がりをより強固なものにするため、国体同士がより親密な関係になるために結婚という名称を使って一緒に過ごすと言う事もままあるのだという。

今回の場合はこちらが頭を下げてあちらから花嫁を頂く事、そして国力の差を考えて、イングランドの側が一段低く、妻と言う事になるらしい。

自分とて幼いながらも男なわけだから、納得が出来ないと言えば納得できないわけなのだが、考えてみれば過去にフランスに召使として送られた時に納得出来ていたかと言えば答えはNoだ。

治世者が自分を呼びだして道具として使う事自体が元々納得できるような事ではないのだ。

かといって国体と言えど特別な力があるわけではない。
国が存在する限り続く長い生を別にすれば、ただの子どもであるイングランドがいくら拒絶しようと、治世者が是と言えば従うよりほかはないのだ。
ならばもう仕方ないではないか…。

結局イングランドは小さなため息を一つつき、了承した。

そしてむしろ、その気になれば恋の相手などよりどりみどりのはずの覇権国家様の側がこんな貧相な男の子どもを花嫁としなければならない事に機嫌を悪くしていないといいな…と思う。

暴力や侮蔑は兄達で慣れてはいるが、慣れていると言ってもやはり辛い事には変わりないし、覇権国家ともなれば力も強いだろうからなおのこと恐ろしい。

自分などいないかのように無関心を貫くか愛人でも作ってくれればいいのだが、国同士ある程度仲良くして見せなければならないとなると、まったく離れているわけにもいかないし、苛々もするだろう。


国としては天下の覇権国家様と同盟を結べる事は喜ばしい事だが、イングランド個人としてはただただ憂鬱だった。





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