――頼むっ!俺だけとかぜってえに無理っ!!!
料理教室の一件で、もうアーサーに頼みごとをするのはやめようと固く心に誓ったはずだった…
………だったのだが、それでも自分がこんなことを普通に頼める相手は他にいない…
ゆえに、ジャスティス最強様の視線が怖いと思いつつも、ロヴィーノはアーサーを食堂のバルコニー席に呼びだして頭を下げていた。
と、たいして驚いた様子もなく言うアーサー。
「別に良いけど?
そんなに目立つのが恥ずかしければ、ついでだしフェリも巻き込もうぜ」
そんなに目立つのが恥ずかしければ、ついでだしフェリも巻き込もうぜ」
と、あっさりと自分にしてみればとんでもない願いを了承する相手に、ロヴィーノは目を丸くした。
「へ?良いのか?」
とおそるおそる聞き返すと、アーサーは当たり前に
「おう。だって元々は2人でやっててかけた迷惑だし?」
と、頷く。
そう、先日ロヴィーノが素直になれない自分に対する指導をアーサーに頼んで、最終的に料理教室をする事にあいなった時、散々破壊し尽くした調理場。
もちろん原状復帰はしたものの、礼と詫びの気持ちを込めて何か…と、日和に尋ねれば、怒っていないようで実は怒っていたのだろうか…
非常に良い笑顔で
「じゃあ、今度のニューイヤーズパーティでドレス着て下さいっ!」
と、リクエストされた。
拒否する間もなく
「楽しみ~♪
あ、ドレスは私が医療班のお姉様達に依頼して作って頂くのでお気になさらず~」
と、ちょっとぽっちゃり目の体型からは考えられないほど軽やかに素早く去って行く彼女…。
それを呆然と見送って…次の瞬間ロヴィーノは絶叫した。
「うそだろぉぉ~~~!!!!」
…ということで、拒否権はないらしい。
死にてえ……と、がっくりと肩を落とす。
それでなくてもダメな本部長と思われているのに、これ色々が終わったか?…と泣きそうになって、ふと思い出した。
そう言えば…事の発端はあの時廊下で拾った一枚の写真、非常にヒラヒラした何かを着ていたジャスティス最強の男の恋人様の写真だったのではなかっただろうか……
例え女装していたとしても、アーサーもしていたとしたら…誰かが何かマイナスな事を言ったならきっとジャスティス最強が言った輩を抹殺してくれるに違いないっ!!
…というわけで…あれだけ一度は懲りたにもかかわらず、ロヴィーノはアーサーを呼び出したのである。
「え~?ドレス着てルートとダンス~?
どうしよぉ~。ルートどんなドレスが好きかなぁ?」
と、こちらはさらにアーサーから呼び出されたフェリシアーノ。
なんだか嬉しそうなその様子に遠い目になる兄ロヴィーノ…。
あっけらかんとしているアーサーや嬉しそうなフェリシアーノの様子を見ていると、むしろ気にしていた自分の方がおかしいんじゃないかと、そんな気分にすらなってくる。
「ね、兄ちゃん、俺の分の衣装も医療班のお姉さん達にお願いできないかなぁ~」
可愛いのが欲しいしっという弟に、自分で勝手に頼めと言いつつホッとしていると、第二の難関が向こうから近付いてきた。
「今度はタマを何に誘ってくれてるんだ?」
という笑顔のお館様は正直怖い。
ヤバいレベルで怖い。
俺もしかして命日か?と冷や汗を掻くも、そこはどうやらそのジャスティス最強の上を行く最強の恋人様が
「ん~、ニューイヤーズパーティの衣装の話?
医療班のレディ達が作ってくれるらしいからお願いしようかなと。
なんならお前もペアっぽい衣装頼むか?」
そう言って、にこりとその厚い胸板に飛び込んでその顔を見上げれば、
「ペアっぽい…服?」
と、不機嫌そうだったその表情が少し和らいだ。
「そそ。新年だしレディ達に大サービスって事で?
そうだな…俺はお前の十字架をモチーフにしたポイントつけて、お前は薔薇とかで?
色も地の色は黒とかシンプルな色で、でもお前はどこかにグリーンと金、俺は紅とシルバーいれてもらうとかでどうだ?」
「お…おう…」
「俺に作ってくれる衣装はドレスらしいから、エスコートしっかりな?ダーリン」
と言えば、もうさきほどまでの不機嫌さは消え、すっかりノリ気に。
「あ~いいなぁ~。俺もルートとペアの衣装が良いっ!」
と、頼んでくる~と駈けだすフェリシアーノ。
もうちょっとしたお祭りのように楽しげで悩んでいた自分がバカバカしくなってきたあたりで、
――なんでそんな楽しい事、親分にだけ教えてくれへんの?
と、後ろから声が聞こえてきて…ガバっとおんぶお化けのように抱きついてくるアントーニョ。
(トニョロヴィだけじゃなくて、ギルアサ、ルーフェリまで作るなんて…日和ちゃん最高っ!!)
その様子を影からこっそり覗き込んで歓喜するレディ達。
――本部長お願いっ!!絶対にニューイヤーズパーティまでに素敵な衣装用意したいんですっ!!!
――え~、お嬢さんでもう休暇願い3人目なんだけど……
――本部長~、明日から休暇……
――えええええ~~!!!!
その後医療本部に響き渡る本部長フランシスの悲鳴…
しかしながらフェミニストの彼に“(推しに)素敵な衣装で新年を迎え(させ)たい”という女性陣の願いを拒否する事などできるはずもなく……
――お兄さん、新年開けたら絶対にストライキするんだからねぇぇ~~!!!
と、叫びながら、珍しく仕事に勤しむ医療本部長の姿が見受けられた年末になった。
こうして一部を覗いて楽しげな年末…
しかしながら…これが最後の平和な日々になる事を、この時はまだ誰も知らない……
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