眉毛ちゃんの誤算
「何も嫌な態度を取ることはありませんよ。
単にスペインさんの好みからかけ離れた態度を取るのはいかがでしょう?」
スペインがオンセの支度をするからと出て行ったあとの寝室で、日本に電話で現状を相談すると、そう言う答えが返って来た。
さすが、日本。
世界一空気を読む国だ!と、イギリスはその聡明さに心から感心した。
そうだ。単にスペインに自分の好みじゃないと思わせればいいんじゃないかっ!
何故そんな簡単な事が思いつかなかったのかとイギリスが思わず頷けば、電話の向こうの日本はさらに提案してくれる。
「おそらくスペインさんが好きなタイプは素直じゃなくてぶっきらぼうなタイプですよね?ロマーノさんみたいな。
ではイギリスさんは素直に甘えて見られれば宜しいのでは?
イタリア君のように好かれてはいるが、特別ではない…そんな位置に立てるかもしれませんよ?」
ああ、それはいいかもしれない。
イギリスの普段の態度が態度だから皆そうは思ってないようだが、イギリスとて当たり前だが無駄に嫌われたいわけではない。
特にスペインに関しては決して嫌いなわけでもないし、どちらかと言うと好意を持っている方だと思う。
というか…好かれるのを諦めてしまったというのが正しいくらいだ。
ああ…思い出した。
遥か昔…実兄達には矢を射掛けられ、そんな寂しい一人ぼっちの子どもに優しくお菓子をくれた隣国は、ある日いきなり攻めてきた。
始めから辛く当たられるのには慣れていたが、好意を持ってくれていると思っていた相手に裏切られた事は幼いイングランドにとってはひどく悲しく堪える出来事だった。
だから優しくされることにひどく警戒するようになった。
それでもフランスの家にいる間はイングランドに優しくしたところで何か利になるわけではない。
そんな気楽さもあって、フランスの友人だという褐色の肌の男の優しさを甘受した。
彼は遥か昔、自分に唯一優しくしてくれて害を成さないままいなくなった大きな男に似ていたからなおさら心を許したのだと思う。
甘やかされる心地よさをただただ喜ぶ事が出来た遠い時代を彷彿とさせるその優しさが好きだった。
しかしイングランドが再度独立して上司同士の結婚という機会を得て国としてかの男に会った時、なんとなく以前のようにただただ膝上でお菓子をくれていたのと違う空気をまとっているような気がした。
それがどういう感情によるものなのかわからない。
元々男の内にあったのに気づかなかったのか、それとも国としてのイングランドに対峙することによって心境が変わったのかも…。
ただわかるのは、とても優しい想い出だったがゆえに、それを崩すのが怖いことだけだ。
だからイングランドは男を徹底して避けた。
国同士、上司同士が何をしていようと徹底して関わらないように避けまくった。
そうこうしている間に自国がかの男の国を陥れて関係は最悪になったのだが、それでも男の方が元々自分を陥れるために優しくしていたのではないという事実があれば十分だったのだ。
おかしな話ではあるが、関係が最悪になった国の男が、元々は自分を陥れようとしていたわけではなく、純粋に可愛がってくれていたのだというのが、イングランドの心の支えだった。
ああ…なんで忘れてたんだろう…あいつにだけは近づくまいと決めていたのに……
イギリスは小さくため息をついた。
嫌われたくはない。
自分が原因で関係が悪くなるのは嫌だ。
でもあいつにだけは優しくされた挙句に騙されるのは絶対に嫌なのだ…。
そうなるとやはり日本の言うように、お互いそこそこ普通に好意は持っているが特別というほどではないという関係に落ち着けるのが一番良いのだろう…。
こうしてイギリスはロマーノの真逆、素直に甘えてみせる作戦を実行することにしたのだった。
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