ぺなるてぃ・らぶ・アナザー1章_4

もう千年ほど前のことだ。
異教徒に占領された身体を取り戻すため戦乱に明け暮れていたスペインに、当時すでに大国だったフランスが自慢げに見せびらかしたのが、ふくふくとしたバラ色の頬をした可愛らしい生き物。

優しい小麦色の髪にぱっちりとした大きな新緑色の瞳。
小さなまだふっくらとした白い手におもちゃみたいに小さなピンク色の爪。

一目見た瞬間、強烈に欲しくなった。
そして実際フランスに言ってみたのだが、まあ当たり前だがすげなく断られる。

可愛い可愛いイングラテーラ。

あの子が欲しい。


そんな執着心を抱えたまま、スペインは大国への道を上り詰めた。

そして晴れて覇権国家として君臨し、愛おしいイングランドと上司の婚姻による国交を結んだわけだが、これが一筋縄ではいかない。

フランスの所にいた頃は無邪気に膝に乗ってお菓子を食べていた子どもは、その頃には人間でいうところの13,4歳くらいになっていて、色々大人の事情もわかってきたのだろう。
覇権国家であるスペインを前にひどく緊張した面持ちでかしこまる。

――もう、膝の上でお菓子食うてはくれへんの?
と、戯れにまだ幾分ふっくらした頬を撫でてみれば、羞恥と緊張で頬を赤く染め、大きな目の縁を潤ませる可愛らしい様子に、ぞくりと欲望が刺激された。

欲しいという気持ちは高まるばかりで、とどまるところを知らない。
なるべく緩やかに…しかし出来るならスペインに連れ帰ってそばに置きたい。

そしてグズグズに甘やかして蕩けさせて、スペインなしでは生きていけなくなればいい…そんな事を考えていたのが悪かったのだろうか。

嫁いだ自国の王女が跡取りになる男児を産まないのを理由に離縁され、それをきっかけに一時疎遠になってから、今度はその王女の娘が女王になってスペインの王と結婚して再度関係が近づいた時には、イングランドは表へ出てこなくなっていた。

そうこうしているうちにまた国情が変わり、国同士が疎遠になる。
その後共闘する機会もなくはなかったが、結局国同士の諍いが多いうちは、国の意向から適度に外れるという事のできない不器用な子どもを絆させるのは難しいと悟った。

もちろんスペインとて鳶に油揚げをさらわれるような真似は真っ平御免だ。
影では出来うる限りイングランドにそういう意味で思いを寄せ、手を出して来そうな国の排除に勤しむ。
例えば…アメリカとかアメリカとかアメリカとか……

そうしている間に欧州同士で争う時代は過ぎ去り、気がつけばまた昔のようにフランスとイギリスの間が近くなっていた。

体制的には協商を結び、地形的にもトンネルでつながって列車で行き来できるようになって、自慢げにスペインの愛し子の事を語るフランスに、どれだけ殺意を覚えただろう。

「ま、坊ちゃんは素直じゃないツンデレだけどね、お兄さんはもうその扱いには慣れちゃったよ。」
と、二人で飲んでいる最中、スペインの殺意にも気づかずに語るフランスに、スペインは素知らぬ顔で
「ほ~。そんならそれ見せてや。」
と、脳天気とよく言われる笑顔を貼り付けて煽ってみた。

「なあに?信じてないの~?」
世界のお兄さんを自称するフランスも、自分がチビの頃から一緒に育ったスペインの前だとしばしば大人気ない子どもに戻る。

「そらそうやん。自分昔かてそんな事言うてて手噛まれて逃げられとるし?」
と、わざと触れられたくないであろう黒歴史を持ちだしてやると、フランスはむぅ~っとした顔をする。

「…見せてみろって…どうやって?」
酔いもあって売り言葉をまんまと買ってくれるフランスに、スペインは他意がないかのように、――う~ん…何がええかなぁ…と、考えこむふりをする。

「イギリス以外も関わっとると、もしかしたら協力頼むとかズルしとらんかわからんし…」
「お兄さん、そんな事しません~」
「何言うとるん?この漁夫の利国家が。ずるいは自分の褒め言葉やろ?」
「スペイン、ひど~い!」
「自分…一緒にポルトガル攻めよ言うておいて、ポルトガル落ちたらうちのとこも乗っ取ろうとしたの、親分忘れてへんで?」
「…あ~うん、あれは昔の事だし……」
「せやから、親分、やるなら親分とイギリス以外の人間が介在する方法は信用せえへん」
「もう!わかったけど、じゃあ、どうすんの?」
「う~ん…どないしよ…」

「………」
「………」
「………」

「そやっ!じゃ、イギリスにお互い仲悪いってわかっとる親分に告白してOKもらってこい言うて本当にやるかどうかってどない?」

「え~!」

「それやったら他介在せえへんし?他の相手やったらイギリスかて悪い思うて躊躇するかもしれへんけど、俺やったら仲良うないし、平気やろ?」

「そりゃそうかもしれないけど…。最終的にどうオチつけんのよ。」

「バラしたらええやん?向こうかて自分にそそのかされただけって事で気まずくもならんし、それこそ自分らしょっちゅう下らん賭けとかしとるみたいやから、罰ゲームとかにかこつけてもええやん。」

「そうだけど…お前と坊ちゃんはそれでいいかもしれないけど、お兄さんそんな嘘ついてたとか言ったら、坊ちゃんと気まずいじゃない。」
渋るフランス。
しかしあとひと押しだとスペインはわざとニヤリと嫌な笑いを浮かべた。

「結局…その程度の仲なんやん?
扱い慣れとるとか言うてもその程度のフォローもできひんのやろ?」

「わかったよっ!やりますぅ~!
お兄さんがその気になれば坊ちゃんに嫌いな相手に告白させるくらい簡単なんだからねっ!」

酔いも手伝ってそう宣言するフランスは、自分がKYではなく実はAKYである男の術中にハマっていることに全くきづいていなかった。


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