思えば…高校2年の夏休み、アーサーと出会う前からは考えられないほどアントーニョは自制を学んだようにギルベルトは思う。
自分がこういう性格なのはもう物ごころついた頃からではあるし、フランは少年時代は美少女と言っても通るくらいの可愛らしい容姿で、女の子の中で女の子のように遊んでいたのが、中学後半くらいから男くさくなり始め、やがて女の子に囲まれている事には変わりないが、数年の長い時をかけてゆっくりと同性の様な遊び相手から自然に異性の交際相手と変わっていった。
そんな中で高校二年の夏休みまで、アントーニョだけが知り合った頃のまま、無邪気で無鉄砲なお子様のままだった。
しかし長い時間をかけ、自然に変わって行ったフランとは対照的に、アントーニョの変化はアーサーとの出会いをさかいに急激に訪れた。
子供から少年へ…少年から男へと、それこそ数日間の間に変貌を越えて、普通の高校生ではありえないことだが、どうやってか日本有数の大財閥のボスに連絡を取り、動いてもらったらしい。
元々こうと決めた後のアントーニョの集中力、行動力は群を抜いていたのはギルベルトも認めるところではあるが、今回のこれは、親が財閥のフランならともかく、自分と同じく普通の親を持つ身のアントーニョの行動としては、はっきり言って理解の範疇を超えている。
幼いころからコツコツ努力して積み上げてきた結果を軽く凌駕する悪友を、正直羨ましいと思わないでもない。
まるで物語の主人公のようにヒロインを…アーサーを簡単にかっさらって自分のモノにしてしまえた運と行動力も…。
努力して…能力はあるはずなのに主人公になれない自分。
「まあ…あれか…能天気で無鉄砲な主人公を助ける仲間の賢者ってとこか…」
ギルベルトは少し自嘲気味に笑った。
「うん。でもさ、その賢者いないと主人公は魔王は倒せないからね。」
そんなギルベルトのつぶやきを拾ったらしく、コトリとギルベルトの前にコーヒーのカップを置いてフランがウィンクする。
「ギルちゃんが賢者なら、お兄さんなんて遊び人よ?
でも、ま、いいじゃない。
仲間がいないと勇者だって安心して行動できないわけだしさ、何より勇者不在中にこうして大事なヒロインの側にいられるわけだし?」
おどけた口調で言うフランに、ギルベルトはそれもそうだ、と、さきほどとは意味の違う笑みをもらした。
「3人てさ、意外に良いよな。
二人だとどちらかが微妙な気持ちになったら終わっちゃうんだけどさ、もう一人いるとそいつが自然に間取り持つし?」
それを見ていた香が口をはさんだ。
それに対してフランはチラリと二階の方に目を向ける。
「うん…まあ、俺ら3人の頃は結構お互い好き勝手やってたけどねぇ。
つるんではいたけど、ここまでお互いの事密に思ってなかったっていうか?
今はアリスがいるからさ。一応トーニョがかっさらっちゃったわけなんだけど、皆のアイドルだからね」
「あ~、姫様ね。なんだろ~、女っぽくしてるわけでもないのになんか可愛いよね」
「でしょでしょ」
「いいな~。俺も従者の仲間入りしよっと。というわけで…」
と、そこで香はにっこりギルベルトを振り返った。
「そろそろ本題。敵殲滅作戦の会議始めてもらえますかね?賢者殿?」
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