こうして昼前、ギルベルトが自宅をでる。
それをぎりぎり距離を取って3人は尾行した。
そして新宿。
急にギルベルトを見失った。
「あれれ?」
とあたりを見回すフラン。
「ちょ、分かれてさがそか。見つけたら電話な~」
と、3人それぞれ分かれてギルベルトの姿を探し始めた。
そうしてしばらく歩いていると、
「お前なぁ…」
いきなりツンと肩をつつかれフランが恐る恐る振り向いた先にはギルベルト。
「あ…ギルちゃん…」
困った笑みを浮かべるフランに、ギルベルトは大きくため息をついた。
「一応な…状況わかってるか?」
「アーサーの正体ばれたらやばいってこと…だよね?」
と答えるフランにギルベルトは
「それだけじゃねえよ」
と渋い顔を見せる。
「お前は絶対に忘れてるとは思ったけどな…今回のゲームも油断できねえかもしれねえんだぞ?」
「へ??」
「最初のパーティの時、イヴってあのイヴにそっくりなキャラいただろうがっ!」
「あ~、そう言えば!」
「ただの偶然じゃねえだろ、あれは。だから万が一に備えてなるべく正体晒さねえようにしてたのにっ!」
「うああ~~!そうだったんだっ!!!」
フランはその場で頭を抱えた。
「お前、単独か?!よもやアーサーとか連れてきてねえよな?」
そのギルベルトの言葉にフランは無言で青くなった。
「この馬鹿っ!!!」
ギルベルトはそれで察してまずトーニョに電話する。
「トーニョ?アーサー一緒か?!一緒じゃねえ?じゃ、急いでアーサーと合流しろっ!」
とそれだけ言って自分の現在地を告げると、今度はアーサーの電話にかけるが、こちらは電話に出ないで留守電になる。
「まじかっ?!」
ギルベルトが盛大に舌打ちをしたところで、
「よ、マリアちゃんw」
と、誰かがにやにやとギルベルトの肩をつついた。
「その名前で呼ぶなっつっただろうがっ!カオル!」
嫌そうに振り向くギルベルト。
「らじゃらじゃっ。怖い顔してどうしたん?」
さすがにあのキャラのままとは言えないものの、どことなく面影のある小柄な黒髪の少年は、どこか焦った様子のギルベルトに気付いて、太めの眉を寄せて聞いた。
「あ~…」
それに一瞬迷うギルベルトの代わりに、フランが答える。
「実はアリスがはぐれちゃって、連絡がつかなくなっちゃったんだ」
おい…と目で問いかけるギルベルトに、フランが大丈夫、と、アイコンタクトを送ると、ギルベルトはフランに任せる事にして口をつぐんだ。
「あらら、それは大変!シドニーとティモシーも近くにいるから探させるわっ。
あのキャラに似てるって言ってたよな?他に特徴は?」
と、携帯を取り出すカオルに、フランは今日のアーサーの服装を告げる。
こいつら…とギルベルトはそれを聞いて内心そう思うが、とりあえず黙っておいた。
そうこうしているうちに
「あーちゃんと連絡つかへんねんっ!」
と、顔面蒼白のアントーニョが合流する。
「あ~、手分けして探すぞ!カオル達も探してくれるって言うから」
と、ギルベルトがチラリと視線を向けると、カオルは
「ち~っす」
と、片手をあげて挨拶し、それから
「な、ソロより連絡とか待機用に二人一組で行動した方が良くね?」
と、提案する。
「あ~、そうだな。じゃ、俺カオルと…」
「いや、俺トーニョと行くわっ。ギルの方がトーニョより冷静っぽぃし。
フランとトーニョ二人結構動揺してね?」
と、どうやら正確に読み取ったらしいカオルにギルは一瞬悩む。
動揺したトーニョが色々ばらさないといいが…とは思うが、今はアーサーを見つけ出す事が先決か…と、最終的に決断し、
「じゃ、そうしよう」
と、自分とフラン、トーニョとカオルで探す事にした。
「な~、姫様って高校生でしょ?
子供じゃないんだし、たかだか街中ではぐれただけで何でそんな必死になってんの?」
ギルベルト達と分かれて二人で探し始めて、まずカオルが口を開いた。
まあ当たり前の質問だ。
「あ~ちゃん可愛えねん。」
「うん。だから?」
アントーニョは色々考える余裕もなく、思いついたまま口にする。
「誘拐された事あるさかいな」
「そのレベルで可愛いわけね。了解」
思いついたまま並べた言葉でなんとなくカオルは納得してくれたようだ。
アントーニョはホッとしてアーサーを探すのに専念する。
カオルも時折携帯で他の二人と連絡を取りながら、ゲーム内のあのキャラをというより、フランに聞いた今日の服装をたよりに人込みの中に目を凝らした。
「ね、一人?」
一方、いったん足を止めてギルベルトの姿を探すため人込みに目をむけていたアーサーの前に、不意に二人の若い男達が立ち止った。
「…人を探してる」
声をかけられた事で自分が女物を身にまとっている事を思い出したアーサーは、ばれないようにとなるべく小声でそう言うと、男達の間をすり抜けようとしたが、
「ちょっと待ってよ。そんなに嫌わなくてもさ。探してるの女の子?」
と、腕を掴まれる。
「…男。」
と、これも小声で言うと、
「え~、こんな可愛い子放っておくなんてロクなやつじゃねえって。俺らと遊びにいかね?」
と、言われて泣きそうになる。
はり倒すのは簡単だが、男のくせにこんな女のような格好しているとばれたくはない。
電話しようにもどうやら携帯を自宅に置いてきてしまったらしい。
自分の忘れもの癖は本当に嫌になる。
どうしよう…と、本気で視界が潤みかけた時、腕を掴んでた手が離れた。
「は~い♪ロクでもない奴登場~♪」
二人組の腕を取るのはまた別の二人組。
二人共ひょろっと背が高い…その二人に最初の二人は悪態をついて去って行く。
一難去ってまた一難か?
「んじゃ、そういう事で~♪」
と、近づいてくる二人。
そして唐突に恭しくお辞儀をして見せる。
「お待たせしました、姫様の従者2号ただいま参上」
と一人が言うと、もう一人をペシコンとはたく。
「お前も挨拶せんかいっ!」
「らじゃらじゃっ。従者3号同じく参上でありますっ」
と、相方の方も言ってピシっと敬礼した。
「ちょっと待ってね、従者1号ももうすぐ到着するからっ」
と、自称従者2号は言ってチラリとあたりを伺う。
「あ~。きたきたっ!」
自称従者2号がお~い、と手を振った。
手を振った方向を見たアーサーはホッと肩をなでおろした。
なんだか小さい男の子と、その後ろには…アントーニョ。
「やほっ!従者一号……」
とその男の子が言いかけた言葉は
「なんで電話持って出ぇへんのっ!!!!!」
というアントーニョの怒声で遮られる。
その勢いに道行く人が立ち止まる。
「めっちゃ心配したんやで?」
低い声で言うアントーニョに、ポロポロ涙をこぼすアーサー。
「こっちの寿命が縮まったわ…なんかあったらどないするん…」
と、そのままハグ………。
「…ご、ごめん…」
アントーニョの腕の中にすっぽり包まれて嗚咽するアーサー。
もう…道行く人が何事かと立ち止まってるわけで…。
「あ~、おきになさらず~」
と、周りにヘラヘラと言う自称従者達。
そうこうしてるうちにギルベルト達も到着。
「んじゃ、あっちはとりあえず放置ということでっ」
カオルがシュタっと手をあげて言った。
「とりあえず改めて自己紹介。まいどっ!カオルでっす」
「同じくまいどっ!シドニーっす」
「同じく、ティモシーでっす」
その左右に並ぶ自称従者2号3号も同じく手を挙げる。
「あ…ども…。俺は…」
「フランっ!もうまるわかりっ」
フランの言葉を遮ってカオルがニカっと笑う。
「つかさ、4人揃って自分とソックリキャラなわけねっ。ギルもすぐわかったしっ。
姫様あのまんまの美少女って聞いててホントかよって思ってたらホントにマンマだったし。マジ笑ったよ」
結局その後、お互いに携番交換をして7人で軽く食事をして分かれた。
「すっごく良い奴らだったよねっ」
容姿はさすがにネットのまんまとはいかないものの、男にしては小さめのカオルと背が高いシドニーとティモシーのデコボコトリオは、なんとなくネット内の彼らの面影があった。
ものごしとかも本当にそのままで、初対面とは思えないくらいだ。
「なんかネット内のイメージのまんまやったな。」
とトーニョも同意して微笑んだ。
「お前ら…なぁ…今回は何にもなかったから良いけど…」
と、苦言を呈そうとするギルベルトの言葉は
「…ごめん…ギル」
と、男にしては可愛らしい格好で瞳を潤ませるアーサーの言葉で呑み込まれる。
「…バレへんかったしええやん」
と、のんきに言うアントーニョ。
「今回はなっ。でも次からは絶対にやるなよっ」
無駄とはわかっててもため息交じりに言わずにはいられないギルベルトだった。
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