オンラインゲーム殺人事件再びっ2章_2

お姫様と愉快な従者達


一度きりでいい。アントーニョのいないところでアーサーとパーティーを組ませて欲しい。

諦めるためにとアントーニョにフランが頼み込んだ方法はそれだった。



本当はリアルで一日過ごして口説いてみたいところだが、さすがにそれをアントーニョが許すとは思えない。

ゆえに、せめてゲーム内で…という事にした。


最初はそれすらも渋ったアントーニョだったが、どうしても自分ではダメなのだと言う事を実感して諦めたいのだと主旨を説明した上で、繰り返し説得。

それでもただ一緒にという事では許可が下りず、ではギルベルトとアントーニョ以外の人間を他に4人呼んで、フランシスとアーサーと6人でレベル上げパーティーを組むと言う事でようやく納得してもらえた。


もちろんアーサーにはそんな事は到底言えるわけもなく…、ただ

「たまには盾がトーニョじゃないパーティー入ってヘイトとか諸々の研究してみない?」
と言って連れ出す。


フランシスは基本的に一人で行動をしないため、他の3人がそれぞれ別の事をしている時は仲間内以外のパーティ、いわゆる野良パーティと言われるものに入っている事が多いので、パーティーメンバーを集めるのはお手の物だ。

という事でフランは初野良パーティのアーサーのためにパーティーを作る。


自分達が支援+ヒーラーなので、集めたのは盾+アタッカー3人。
ガーディアン、ウィザード、モンク、ドラゴンウォーリアの4人組。
なかなかの構成だ。



『おお~~マジ姫てきな?!』

パーティに誘って待ち合わせ場所に集まると、アーサーのキャラ、アリスを見るなり、チビキャラウィザード、カオルがアリスの周りをクルクル回り始めた。

フードつきのローブをかぶったチビキャラでアリスの周りをクルクル回る様子はさながら白雪姫と小人のようである。

『落ち着け、カオルっ!』
と、その首根っこつかむようなしぐさをするのはモンクのシドニー。

そして止めるかと思いきや、
『俺が回るのに邪魔だからっ!』
と、こちらはでかい図体でアリスの周りを回り始める。

『お前らさ…いい加減にしないと引かれるよ?ただの変な集団だと思われるよ?』

と、そこでようやくまともな発言をするのはドラゴンウォリアーのティモシー。

しかし続く言葉は、
『だから二人とも大人しくねっ。回るのは俺だけで十分っ』


『お前らいい加減にしろ~!!』
と、ようやく本気の突っ込みを入れるのはガーディアンのベンジャミン。
その言葉にピタっと止まる3人。

わらわらっとそのままベンジャミンを囲み

『『『ノリがわる~い!!』』』
と、一斉にぺちこ~ん!

『ちょ、だってレベル上げ始まんないでしょうがぁ!!』
と、泣く仕草のベンジャミンはみんなのおもちゃ的な存在らしい

『ベンは早く敵に殴られたいてきな?』
ドMっ?!』
『うんうん、ベンだから?』
と、それぞれ言ったあと、最終的にチビウィザードがシュタっと手をあげた。

『んじゃ、ドMは放っておいてぇ~』

ドMじゃないですっ!』
というベンの言葉に、今度はあとの二人が

『『ドMは放っておいて~!!』』
と、復唱。

ドMじゃな~~い!!!
ベンが叫ぶと、

『あの……』
とそれまでそれをオロオロと見守っていたアーサー、もといアリスが口を開いた。

『あまりいじめちゃ可哀想だと……』

今日はトーニョがいないので、フランの後ろに隠れながらオズオズと言う少女プリースト。

おお~~!!!
と、こればかりは声をそろえて歓声をあげる4人。


天使的な?』
『優しいっすね』
『麗しいです!』
『姫様……』

そんな異様なテンションにオロオロと自分を見上げるアリスに、フランは

『楽しそうなパーティメンだね。』
と苦笑する。


『とりあえず…俺は野良しょっちゅうなんだけど、お姫様は野良パーティ初めてなんで、お手柔らかにね』
と、フランが言うと、また4人がおお~!!!と歓声をあげた。


『全員せいれ~つ!』

そこでいきなり今度はシドニーが号令をかけ、

『お~!!』
と、今度はベンも含めた3人が整列する。


『諸君!我々は光栄にもお城から出た事のない麗しの箱入り…いや、金庫入りのアリス姫の護衛に選ばれたのだっ!
死ぬ気でお守りするんだっ!いいなっ!(>_<)ノ~~』

『おおお~~~!!!(>_<)ノ』

『姫をお守りしたいかぁ~!!』

オオ~~!!!(>_<)ノ


テンションの高いシドニーの号令に負けず劣らないテンションで3人が応えて拳を振り上げる。


こうなるともう…姫でいないといけない気がしてくる実は押しに弱く生真面目なアーサーは、仕方なく

『ギルド以外の方とご一緒したことないので、色々至らない事もあるかと思いますが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします』
と、言ってペコリんとお辞儀をする。

その言葉にまたオオ~と声を上げる面々。

こうして姫君と愉快な従者達の旅は始まった。




例によって山の中腹での巨人狩り。

釣り役が釣って来た敵をガーディアンのベンジャミン、通称ベンが引き受ける…まではよくあるパターン。

だが、意外な事に…他の3人はベンがヘイトを稼ぐまで待たない。
ベンとほぼ同時くらいに鬼の勢いで殴る殴る殴る…。
まあ正確にはカオルは攻撃魔法なわけだが。

当然…タゲはカオルやモンクのシドニーへと移動するわけだが、そこでベンが必殺"守る"発動。

その間も攻撃の手を全然緩めない面々。
超攻撃特化パーティの前にあえなく沈む敵。


『すごい…ね』

目から鱗な戦い方にフランが思わずつぶやくと、カオルがニヤリと

『ベンはヘタレガーディアンだからっ。
タゲ維持なんか期待しちゃ行けないっ。
壁になってる間に速攻叩くっ!これが俺達風戦法的な?(^o^) 』
と、シュタっと指をたてる。

『そして…野良でも加減できない特攻野郎の出来上がりだっ』

シドニーがそれに突っ込みをいれ、ベンとドラゴンウォーリアのティモシーが思い切りうなづいて同意した。

守る以外の盾の行動が一切意味がなくなるパーティ…。
これいいんじゃない?と内心思うフラン。


そもそも…盾役はヒーラーの好感度が高くなりがちなのだ。

アントーニョのジョブ、ベルセルクは元々はアタッカーなのだから、そちらの本来の役割に戻ってもらって初めて勝負ができる気がする。

こういうパーティにアントーニョを巻き込めないだろうか…と、フランの脳裏に格差是正計画がくるくる回る。


フランがそんな事を考えている間も

『野良だとレベル下げてくるよなっ、カオルwww』
というシドニーの言葉に

『おうっ、最近野良だと死にすぎてヒーラーに蘇生拒否されるてきな?』
と、カオルがおどけて見せたりと、パーティはにぎやかだ。


『それでもベンさんがちゃんと”守る”使って下さるから、皆さん安心して攻撃できるんですよね。
それぞれしっかり役割分担できてらして、良いパーティですね』

と、アーサーが祈る動作でHPを減らしたベンにヒールを唱えると周りから歓声があがった。


(その動作と魔法の組み合わせのショートカット可愛いね)

と、そこで初めて気付いたフランがそうウィスを送ると、アーサーは

(…トーニョにこういう風に回復されたいとか無理やりいれられた。)
とぼやく。



『ホント姫っすねっ!めちゃ萌えっす!』
シドニーとティモシーが大はしゃぎ。

ベンは
「ありがとうございます」
とアリスに膝まづいた。

そして
『惜しいっすね。
ぜひこのNOUKINパーティーのマスコットに欲しいっす』
と、うなるカオル。


『マジ姫様に常駐してもらえるならテンションあがるよなっ!』
というシドニー。

このパーティ、これ以上テンションあがったらどうするんだ…とアーサーは思う。


その後もこの一見むちゃくちゃな戦法のパーティは意外に安定してて、ほぼカオル、シドニー以外にタゲはこない。
もちろんそのタゲはベンが”守る”使って引き受けるわけなのだが…


アリスにタゲ来たのは一度だけ。

カオルにタゲが来てベンが守ってる最中に、大きく減ったカオルのHPを回復したアリスが一度だけ殴られたわけのだが、それだけでも大騒ぎだ。


『姫様に怪我させるなんてこのヘタレっ!!!』

他の3人からブーイングの嵐。
ベンは土下座っ。

そんな収拾つかなくなった事態を終決させたのはアリス。
例の可愛い祈りのポーズからヒールを唱えて自己回復すると、

「HP減ったのは少しですし大丈夫ですよ」
と言った後、一呼吸。

「いつもはちゃんと守って頂いてますし。これからも守って頂けるように頑張りますね」

両手を胸の前で合わせて、ちょこんと首を傾げるその可愛らしいポーズに一同絶叫。


「ベンッ、お前もう即姫様のフォロー入れられるように"守る"はとっとけっ!
他には使わんでもいい!許すっ!」
ビシっと言うシドニー。

「姫様っ、お怪我をおわせた事はもうベンに死んで詫びさせるんで、マジうちに常駐しませんっ?!」
とティモシー。

「お前ら必死過ぎっwwww」
とカオルはケラケラ笑った。


そして…ベンがその後他に対して”守る”を使わなかったのはいうまでもない。


こうしてアーサーの初野良パーティは無事終了。

あんまり…二人の間でのコミニュケーションは取れなかったわけだが、盾役スルーのやり方は良い事を知ったかもしれない…と、フランは諦めるどころか、次はアントーニョを巻き込んで差を縮める決意を新たにして、その日のゲームを終えたのだった。


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