椅子にどっかりと座って足を組み、腕を組んだ不遜な態度で、アントーニョは司会ににやりと笑みを浮かべて言った。
「ほんで?今日集めたメインの理由はちゃうんやろ?
なんでこんなゲーム始めたか…それやんな?」
「…へ?」
と、きょとんとしてすっとんきょうな声をあげるフランにアントーニョは
「まあ、まだ続くから座っとき。」
と、促し、フランは無言で頷いて座った。
こうして全員の視線がアントーニョと司会に交互に向けられる。
司会自身もポカンと呆け、しかしアントーニョの言葉を裏付けるように、司会の後ろの幕の陰から笑い声が聞こえた。
「さすがに…あの状況を切りぬけた猛者だけあるな。」
と言いながら出て来たのは1人の老人だ。
老人が軽くうなづくと司会はお辞儀をして壇上から去る。
「まあ自己紹介から始めよう。
この企業のトップ、葉山総一郎だ。68歳。
妻は5年前になくなり、子供なし…と、ここまで言えば何を言いたいのかわかるかね?」
会場内がざわつく。
互いが互いの顔を見合わせる中、アントーニョが小さく肩をすくめて言った。
「まあ…跡取り探しっちゅうとこかいな?」
「おお~!正解だっ!賞金でも出すかね?」
と、老人は手を叩く。
その態度と言葉に、向けられた当人のアントーニョではなく、ギルベルトが不快そうな表情をする。
しかし、アントーニョに目で制されて、渋々開きかけた口を閉じて言葉を飲み込んだ。
「時は金なりやしな。無駄な時間過ごしてもしゃあないし、続けたって。」
とアントーニョが促すと、老人は話し始める。
「結論から言うとさっき言った通りだ。
私には子供がいないのでこの企業を背負って行く跡取りを捜している。
ただし誰でも良いというわけではない。
この企業は元々江戸時代の商家から始まって今に至るまで代々血族が引き継いできた会社だ。
私の代でその血筋を絶やすのは非常に心苦しいのだ。
だから私の直系でなくてもいい。
遠縁でもなんでも一族の血を引く者に継がせたいと思っている。
では一族の血を引く者なら誰でも良いかと言うと、それもそうとも言えない。
一商家だった江戸時代とかならともかく、今や日本を代表する大企業だ。
当然それを率いて行ける器というものが必要になってくる。
金に惑わされず、常識にとらわれず、目先の危険を見逃さずそれでいて他人を率いて行ける人材。
そういう人材が欲しいのだ。
もちろん実際に跡を任せるまでに社長に必要な知識というものも教え込まないとならないから、なるべくならまだ若い者がいい。
ということで、もう気付いていると思うが、君達がそのどこかで一族の血が入っている跡取り候補の若者だ。
そして多額の賞金という餌を下げ、情報が全くと言ってない先の見えないゲームの中で、目的に向かって進む仮定での行動からその可能性を観察させてもらう事にしたという訳だ。」
「…ふざけるなっ!そのために5人も死んでるんだぞ!」
アントーニョが制する間もなくギルベルトがバン!とテーブルを叩くが、老人は相変わらず冷静な様子で壇上からそれを見下ろした。
「その目先の危険をなんとかクリアできた人間だけがここに集まっているという事だ。」
シン…と静まり返る室内。
立ち上がって壇上に行きかけるギルベルトを、今度こそアントーニョが制する。
そうしておいて、もう片方の手は不安そうな表情のまま自分を見あげるアーサーの手をしっかりと握ってやっていた。
「もちろんトップとして必要なのは一人で…その一人が誰なのかは生き残った参加者全員がわかってるとは思うんだがね…」
全員の視線が自分に向くのに、アントーニョは少し顔をゆがめて笑う。
「…目的のためには手段選ばん企業のトップっちゅうのも複雑やけど、毒を持って毒を制すっちゅう言葉もあるやんな。」
「……っ!!」
要望を受けるかのようなアントーニョの言葉にギルベルトはいきり立つが、珍しく強い視線でアントーニョに制されて、舌打ちをしつつも席に着く。
「まあ、そう言う事だ。受けるかね?」
と、どうやら結論が出たらしいと老人が聞いてくるのに、アントーニョは頷いた。
「ええよ。ただし親分こう見えても多忙やねん。
どうせ知っとると思うけど、ある程度の幹部教育は大伯父のおっちゃんから受け取るし、自分の会社の諸々学ぶのに割ける時間は高校卒業までは週末の1日だけ。
大学になったらもうちょお時間取れると思うけどな。」
「まあ…良いだろう。私はとりあえず80までは生きようと人生設計してるから…
社長修行につきあってやれるのは75くらいまでか。時間はあと7年ある。」
「ほな、そう言う事で」
にっこりと、お互い若干黒い笑みでそんなやり取りをするのを周りは茫然と見ている。
こうして色々複雑な問題を残したまま、すっきりしない祝賀会は終わった。
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