つわもの達の夢のあと(19日目)
とりあえず…エンディングが始まると、ファンタジーな画像をアーサーはガン見。
アントーニョはそんなアーサーを後ろから抱えるように抱きしめながら、同じ画面を見つつ、時折アーサーを眺めて楽しんでいる。
そして、エンディングが終わるとアーサーの口に菓子を放り込みながら二人でじゃれあっている。
ギルベルトはエンディング後、そんな二人を尻目にPCで資料作成だ。
“俺様の俺様によるフランのための注意事項”
と銘打った書類には、1億受けとったあとの税金関係から、よくある詐欺、起こりうる身の危険を避ける術まで事細かに記載されている。
自分の事でなくても、マメな男だ。
当事者のフランはというと、旅行サイトを物色中である。
「今から海外は無理だから…温泉で豪遊かねぇ…」
鼻歌まじりに旅館をサーチする。
オンラインゲームが届いて以来毎日ネットでは一緒だった分、リアルではみんなで遊び日行く機会がなかったので、残り少なく放ったがせっかくの夏休みなので4人で豪遊旅行したら楽しそうだ。
どうせ4人で取った賞金だし、思い切り使ってあとは寄付でもすればいい。
まあ…一応スポンサー特権で二人部屋とかだったらアーサーと同室にさせてもらおうかな…などと命知らずな妄想にふけって夜があけていった。
知らされた迎えの予定時間は11時。
そして時間ぴったりにハイヤーがスッと寮の正門に止まった。
「三葉商事からお迎えに上がりました。」
と、背広の男がお辞儀をして後部座席のドアを開ける。
それに4人で乗り込むと、そのまま車は都心の某有名ホテルに入って行く。
背広の男に案内されてそのままエレベータで上に上がり、主催が用意してる広間についた。
中に入ると一番奥に壇上があって、広間の中央には丸テーブル。
それをグルっと囲む様に、食べきれないほどのごちそうの乗ったテーブルが並んでいる。
4人は一番乗りのようで、主催の会社の人間以外には誰もいない。
「中央テーブルにかけてお待ち下さい。」
と、背広の男はうやうやしくお辞儀をして下がって行った。
「アーティ、疲れるやろ。座り?」
と、アントーニョがまずアーサーににこやかに言って椅子を引いてやる。
「ああ、ありがとう。」
と、少し照れたように頬を染めるアーサーに、フランシスはその隣に座ろうとして庵トーニョに威嚇され、仕方なしにアーサーとは反対側のアントーニョの隣へ。
そしてアントーニョと反対側のアーサーの隣にギルが座った時点で口を開いた。
「4人でさ、賞金で豪遊しちゃおうかと思うんだけど、どこがいいかな?
余ったら寄付で…」
と、楽しげなフランの発言にギルベルトは複雑な表情を見せる。
1億ってどれだけの金額だと思っているんだ。
悪気はない無欲な男だと思う…が、色々考えなしだ…。
「これ…読んどけ」
と、昨日まとめた資料を手渡す。
「何これ?」
ぺらぺらとそれをめくって、やがて青くなるフランシス。
「やだ、何?今度はお兄さんが命の危険?!」
「いや…だから気をつける部分気をつければ…」
「いやぁぁあああ~~!!」
と、さすがにようやく殺人犯が捕まって全てが終わってホッとしたところにこれで、フランシスは青くなって叫ぶ。
「ね、ギルちゃん、ギルちゃんがもらうってことでどう??」
「いや…魔王倒したのフランだし…。だから不用意な事しなければ…」
「あ、トーニョっ!お前どうよ?!1億よ?どう?!」
「え~。要らんわぁ。これからアーティとラブラブ生活送らないかんのに、命の危険にさらされとうないやん?下手に1億取ったって事が何かの記事にでもされて表沙汰になったら今度はゲームの参加者やなくて、不特定多数から命狙われたりしそうやし、俺らやなくて良かったわぁ。」
と、悪意があるのかないのかわからないが、にこやかに言うアントーニョに、フランシスは頭を抱えてしゃがみこんだ。
そんなやりとりを交わしていると、一人の少年が近づいてきた。
「失礼します。私、こういうものです」
と、いきなり4人の前にたたずんで名刺を差し出す黒髪の少年。
「あ…ご丁寧に?」
アーサーは反射的に両手でそれを受け取ると、
「ホンダ……キク?」
と不思議そうに少年を見上げた。
少年は名前を呼ばれて嬉しそうに、はい、と笑みを浮かべた後、
「ゲーム内ではヨイチというアーチャーを使用してました」
と、自己紹介をする。
「ヨイチ…?」
物静かな印象のキク。誰とも接触を持たずひっそりと狩りをしていたらしいヨイチだと言われれば、なるほど、と思う。
「歓談中ごめんなさいね。私もご一緒して良いかしら?」
3人で話してる中、この会場内でどうやら紅一点の少女が駆け寄ってきた。
背はすらりと高いが出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでて、薄茶の長い髪には花の髪飾りをさしている、スタイルの良い綺麗な少女だ。
「どうぞ」
と、アーサーが立ち上がって椅子を引くと
「ありがとう。」
と、少女はにっこりと笑みを浮かべて礼を言って座った。
その間アントーニョは複雑な顔をしていたが、アーサーがどういたしまして、と、にこやかに応えて自分も席に着くと、口を開いた。
「自分…もしかしてオスカー?」
ひっ…とその名を聞いて、アーサーが身を浮かせかけた。
「ええ、彼女はオスカーです。私は後半はご一緒させていただいてたんです。
少し変わった趣味はありますが、とてもいい方なんですよ。」
そこでキクがそっと両手でアーサーの手を取って、少し悲しげな眼を向けると、
「あ、ああ。そうだろうな。ごめん。」
と、アーサーが少し落ち着いてまた椅子に座りなおす。
するとオスカーでった少女はありがとう、と笑みを浮かべた。
そして、エリザベータよ、エリザって呼んでねと自己紹介をし、シッシッと手で追い払ったギルベルトがどこからか出したフライパンでエリザに沈められた頃、主催の司会らしい人物が来て、祝賀パーティーが始まった。
通り一遍の挨拶のあと、配られたジュースで乾杯。
続いて1億円の授与にはいるところで、フランシスがシュタっと手をあげた。
普段ひょうひょうとしている彼にしては珍しく真剣に…ピシっとそれこそ軍隊のように姿勢を正してまっすぐに手を挙げて宣言した。
「1億…パーティーメンバー4人で分けるべきだと思いますっ!止めをさしたのは本当に偶然俺だったわけですが、パーティのメンバーの協力がなければ魔王は倒せませんでしたっ!」
…とここまではなかなか感動モノのセリフなのだが、続く
「だから魔王の呪いは全員で負うべきだと思いますっ!」
がすべてを台無しにしている。
「「お前…なぁ」」
あきれた二人の悪友の視線に、てんぱりすぎて色々わからなくなっていたフランシスはようやく自分の失言に気付いて涙目になった。
「ま、間違いっ!魔王の呪いは間違いっ!勇者の栄誉でしたっ。」
「「………」」
「だ…だってお兄さんだけ今後も殺人事件の渦中に取り残されちゃうわけ?!お前ら愛が足りなすぎでしょっ」
フルフル首を振るフランシス。
そこで経過を静かに見守っていたアントーニョが、静かに手をあげた。
「そこまでするなら…犯人だった二人以外全員にせえへん?亡くなったバットマン、ショウ、メグ、エドガーも含めて10人で1000万ずつ。」
「あ~、そうだな。こんな殺人事件が起こったのに賞金出してるってイメージ的にもあれだし…ゲームのテスター報酬という名目で、犯罪に関わっていた人間以外の死亡した参加者の遺族にも届けるという形にしませんか?」
アントーニョの意見をギルベルトが最終的にまとめて、主催者に提案する。
主催者はちらりと後ろのつい立ての影を振り返り、何かを相談していたようだが、結論が出たらしい。
「本来の権利者のフランシス・ボヌフォア君はそれでいいのかね?」
と念のため確認を取るが、フランシスは
「はいっ!それでお願いします。ほんっと~~~にそれがいいですっ!!」
とブンブンと首を縦に振った。
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