魔王倒れる(18日目)
朝、食事を取って自室に戻ったギルベルトはベッドに辿りつくなり気を失うように爆睡。
いついかなる時も規則正しい生活を崩さない彼にしては珍しく、目を覚ましたのは昼前だった。
それからシャワーを浴びてホッと一息。
当たり前に食事を作ってくれているであろうフランシスの部屋を訪ねると、そこでは珍しくアントーニョとアーサーもいて、食事の真っ最中だった。
「あ、ギルちゃんも食べるよねっ!」
と、一緒に食べていたフランシスが立ち上がるのを制して、ギルベルトはアーサーの方に一歩踏み出した。
そして言う。
「俺様な、1歳下の弟いんだよ。」
唐突な言葉に目をぱちくりするアーサー。
それにギルベルトは少し笑いかける。
「もう兄貴なんか必要ないんじゃね?ってくらいしっかり者でな、でも可愛い。
俺様からしたらめちゃくちゃ可愛い弟なんだ。
その弟が可愛いっていうのと同じ感覚でお前の事可愛いって思ってる。
変な意味じゃなくてな、本当の弟ともう1歳下の弟が出来たみたいな感じで可愛い。
たぶん、フランもそんな感じだろうし、トーニョは両親も兄弟もいねえから、もっとだろう。
だから…なんつ~か…本当の兄貴だと思って何でも遠慮なく頼って甘えろよ。
俺様は勉強ならできっし、フランはおだてりゃ美味いもんが出てくる。
トーニョは全般的に何でも叶えてくれるだろうからな。
いいな?俺らは家族みてえなもんだからな。」
そう言ってくしゃりとアーサーの頭を撫でても、珍しくアントーニョから拳も蹴りも飛んでこない。
ただぎゅ~っとアーサーを抱え込んでつむじに口づけを落としているし、フランも、うんうんと頷いている。
自分一人で抱え込むには少しばかり気が重いので、例の日記はアントーニョには見せようとは思うが、アーサーには見せまいと決めて、今後出来うる限りアーサーを“元”家族から引き離して、自分達が家族になろうと思う。
おそらくアントーニョもフランシスも同じ気持ちだろう。
これを境に、アーサーの家族の話題は出さない。
そう決意して、ギルベルトはそれだけ言うと、
「フラン、俺様も腹へった~」
と、自分もソファに座りこむ。
「はいはい。すぐ持ってくるからね。」
上機嫌でキッチンに消えて行くフラン。
アントーニョは笑みを浮かべながらも目だけで――何かあるなら、あとで教えてや――と、コンタクトを送って来るので、それに軽く頷いて、ギルベルトはアントーニョと二人の時間を持つ理由づけに…と、
「そう言えば…今夜にでも、そろそろ魔王戦行こうぜ。
俺ら3人でマッピングするために魔王城はある程度歩いてみたんだけどよ、戦闘あるとやっぱトーニョいねえときついし。」
と、言うと、即察したアントーニョが
「あー、ええな。
ほな、ギルちゃん、マップとか調べた事教えたって。
作戦たてようや。」
と、請け負う。
そこで戻ってきたフランシスは何かを察したのか、
「あ、じゃあお兄さんおやつと飲み物用意してるね~。
アーサーも手伝ってもらっていい?1人じゃ寂しいし。」
と、すかさずアーサーに声をかけ、アーサーがこっくり頷いた事で、午後の予定は2対2に分かれる事になる。
二人きりになると、ギルベルトはスマホで撮ってきた日記の内容をアントーニョに見せる。
意外にもアントーニョは冷静だった。
「ま、死んでくれて良かったやんな。」
全てを読み終わった時そう淡々と言うと、興味を失くしたようだ。
「ずいぶんあっさりしてるんだな。」
と、怒りに震えた自分を思い出して口にしてみれば、アントーニョはこれまたあっさりと
「自業自得でもうアーティに近づく事できひんようになったしな。
生きとったら色々厄介な相手やったし、アホがアホな事して死んでくれて丁度良かったやん。」
とのたまわる。
過去は過去。結果オーライと言ったところなのだろうか…。
このあたりがアントーニョはよくわからない。
そう思っていると、
「こんな考えを息子に持たせるような親やったら、アーティ任せられんて言えるしな。
なんなら弁護士通して正式におっちゃん関係の誰か適当な相手に戸籍上だけでも養子にさせれば、色々便利やん。」
と、付け足されて、ギルベルトは目を丸くした。
自分はよく実利主義だと言われるが、一見感情的に見えるアントーニョのそれは自分どころの話ではない。
アゾットのアーサーに対してのとてつもない悪意も、アントーニョにとってはアーサーを完全に引き込むための丁度いい材料でしかないらしい。
まあこの日記がなくてもアントーニョならどうにかして我を通したのだろうが…。
そんなやりとりのあと、二人は魔王までの道のり、出てくる敵を考えたフォーメーションなどを話しあう。
自分なら一度も行った事のない魔王城に乗り込むとしたらまず下見という感覚だが、アントーニョは今日で決着をつけるつもりらしい。
「ギルちゃんが調べたんやったら情報は確かやろうしな。
そしたらもう倒すしかないやん。」
と、当たり前に言うのは自分自身に対する自信なのか、ギルベルトに対する信頼なのか…
まあ両方だろう。
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