メグ殺害でメルアド交換の本当の発起人も、ショウを殺害できた人間の範囲も永遠に闇の中。
フェイクを織り交ぜ真実と嘘が混在する事も知らずに必死に情報を集めようとする輩もでてきて、なかなか面白い。
僕としては右往左往する人間をもう少し眺めていてもいいんだが、とりあえず約束に向けて動いている事をアピールしておかないとイヴが焦って暴走しかねない。
そろそろ次に行こうか。
ターゲットはアーサー。たぶん…親父のガキだ。
親父が長い間おふくろと結婚できなかったのは、親父が勤めていた会社の社長の娘、つまりこいつの母親のせいだ。
親父が会社で出世し、最終的に会社を継ぐには、その女との結婚が不可欠だった。
学生時代からの長い付き合いで実質夫婦も同然で俺という息子がいながらも、親父はその女と結婚してアーサーが生まれた。
おかげでおふくろと俺はずっと日蔭の身だ。
親父は普通に朝仕事に行って夜には帰ってはきたものの、俺は女が死ぬまで認知もしてもらえず、愛人の子と蔑まれた。
こいつは殺さない。
むしろ最後まで生かして地獄をみせてやりたい。
俺が味わってきた10数年間に匹敵するくらいにするには、やはり同じパーティ内の奴らを全部イヴに殺させて、こいつに罪を押しつけるのが一番か。
それにはこいつしか知らないであろう奴らの情報を引き出さなければならない。
そう思っていたら、親父からこいつがどこぞの御曹司に気に入られて名門森陽学園に特待生として転入出来る事になったというじゃないか。
そんな事は…こいつを幸せにさせるような事はさせてたまるかっ。
急がなければ……。
と、いうことで、とりあえずこいつに会う事にする。
胸糞悪いが仕方ない。
胸糞悪さを押しこめて会いに行った甲斐はあったというべきだろう。
収穫だ。
なんとアーサーを森陽の特待生に推薦したのはゲーム内のトーニョだと言う。
まあ、あの女の息子だ。
どうやってか言いくるめて権力者…もといトーニョを垂らしこんだんだろう。
ギルとフランもリアル森陽生。
つまり奴のパーティのメンバーを殺すと言う事はイコール奴の森陽転入と言うエリートコースを潰すという事に他ならない。
一石二鳥。万々歳だ。
トーニョは随分アーサーにご執心らしく、そのお兄様にも媚を…と思ったのだろう。
腕時計を贈り物としてアーサーに託す形で寄越してきた。
あとで調べて見たら18万弱ほどするものらしい。
高校生で普通にこんな物をポンと買って渡すあたりが、やはり森陽の学生は違う。
まあ某有名企業の総帥を大伯父に持つボンボンと言う事だから、奴らにとっては当たり前なのか。
そうとわかると、余計にアーサーをそんな奴の庇護下でぬくぬくさせるなんて事はさせてやるものか、と思う。
とりあえずアーサーには僕を兄と認識させて親愛を感じさせる事には成功したから、あとはゆっくり考えれば良いだろう。』
ギリっと噛みしめた奥歯が嫌な音をたてた。
自分は比較的冷静な人間だとは思うが、胃の奥からふつふつとマグマのようなものが湧き出て、心臓を熱く焼くような不快感がある。
とりあえず…それでもこれを見せられたのが自分で良かった…とギルベルトは思う。
アントーニョだったらこれが証拠品だとか原本であるとかそんな事は構わず引きちぎって破り捨てて叫んでいた気がする。
他人が殺されて天罰だとか死んで良かったとか肯定的な事を思ったのは、これが初めてだった。
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