どうせ…この先も一人ぼっちなら……いや、一人ぼっちならまだしも、今回のように何かで変な奴に無理やり奪われる可能性もあるなら、今ここでアントーニョと初めてを経験しておいた方が絶対に良い…。
恥ずかしいけど…恥ずかしいけど…恥ずかしいけど……
これを逃したらきっと後悔する、そんな思いがアーサーの口を開かせる。
……あかんくない……けど……
恥ずかしくて…消え入りそうな声でそう言うのが精いっぱいだったが…
…ん、おおきに。
キラキラと光る赤い糸は見えないが、それ以上にキラキラとしたアントーニョの笑顔が眩しすぎて、アーサーはぎゅっと目を瞑った。
ドキン…と、心臓が脈を打った。
アントーニョの唇が触れた瞬間、かぁーっと体中が熱くなる。
どうしてよいかわからず中途半端に開いた唇の間から入ってきた舌が優しく愛撫するようにアーサーの口内に触れて行く。
…きもち……いぃ……
アントーニョが言った通り、アントーニョとのキスは頭が真っ白になるくらい気持ち良い。
最初は奥で縮こまっていたアーサーの小さな舌先を導くように自分の舌に絡め、突き、また絡める動きに、次第にアーサーも拙いながらも応え始める。
…とーにょ…とーにょ…きもち…い……
良すぎて足から力が抜けてへたり込みかける身体をアントーニョが支えてくれた。
…ひぅっ……
引き寄せられた時にアントーニョの手が左の胸元の突起をかすめて、アーサーは小さく声をあげる。
それにアントーニョはくすりと笑みを零した。
…こっちも…気持ちええん?
と今度は意識的に触られると、イヴに触れられた時には気持ち悪くて吐きそうになったのに、アントーニョの手だと身体が溶けてしまいそうに気持ち良くて、もっと触れて欲しくて恥ずかしさとの葛藤の末、アーサーはコクコクと頷く。
ああ、確かに違う…。
自分で何かの拍子に手が当たってもくすぐったいだけだし、他に触れられたら気持ち悪いだけの胸元も、初めての口づけも、アントーニョが触れた時だけおかしくなりそうに気持ち良い…。
…と…にょ…ぉ……もっと……もっとぉ……
本当…だったんだ……と、アーサーは崩れ落ちそうになりながら、必死にアントーニョのシャツをつかむ。
貪られ、奪われ、与えられて、喜びと悦びで涙が止まらない。
もう全てを差し出しても良いと、身体を完全にアントーニョに預けると、
…今はまだここまでな。
と、なんとアントーニョは最後に額にちゅっと口づけて頭を撫でて、少し身体を離す。
…えっ?
アーサーはポカンと口を開けて呆けた。
だって、今までアーサーに触れようとしてきた相手は大抵、次は下肢に触れようとしてきた。
なのに、何故?
「…やっぱり…俺じゃダメ…なのか?」
と、さきほどとは別の意味でじわりと浮かんでくる涙を指先でぬぐうと、アントーニョは少し困った顔で微笑んで言う。
「んなわけないやん。親分のここ、アーティの事欲しゅうてこんなんやで?」
とちらりと視線を移すアントーニョの下肢は確かに服の上からもそれとわかるほど反応している。
なら何故?と不思議に思って見あげると、アントーニョは今度はアーサーの鼻先にちゅっとキスをした。
「やって…まだアーティ、身体出来てへんしな。傷つけたないやん。
単に今は、特別な赤い糸で結ばれとるから、一心同体、運命共同体やし、お互い絶対的に別れられへんくらいの特別なんやって教えたかっただけ言うのもあるしな。
この先はもうちょっとアーティが大きくなって親分の事受け入れても大丈夫なくらいになったら、どさくさとかやなく、ちゃんと手順踏んでちゃんとした場所でやりたいねん。
そこらの遊び相手やなくて、大事な大事な半身やからな。」
という笑みの神々しい事。
その言葉で、やっぱりアントーニョは他の奴らとは違う……と、胸の奥がきゅんっと高鳴る。
ぎゅっともう一度抱きしめて、『ほな、親分ちょっと抜いてくるな。ハハ、カッコ悪いな』と、バスルームに消えるアントーニョを全くカッコ悪いとは思わない。
大切にされている…愛されている…そんな安心感がアーサーを満たした。
(…あーあ、そこまでの開発はちょお間に合わんかったか…。)
ザーっとシャワーを流しながら、さきほどのアーサーの姿を思い浮かべて自らを慰めるアントーニョ。
イヴもアゾットもせめてもう3,4日も待ってくれていたら、ちゃんと最後まで性感開発が出来て、今頃アーサーとベッドの中だったのに…と、舌打ちをする。
しかし元々世間知らずでロマンティストなアーサーの事だ。
赤い糸の話はこれですっかり信じてくれたようなので、まあ焦る事はない。
この先も“特別な相手だから最初から気持ち良い”と思わせられるように、これからゆっくり開発していけば良い話だ。
念のため二度ほど抜いたあとに、アントーニョはそれでも念のため、と、インターバルを置くために、『飯用意してくるから、待っといてな。すぐ戻るからな。』と、言いおいて、フランの所に食事を強奪に行く。
「あ~、やっぱ自分の顔見るのが一番やわぁ~」
まあいつもそんな役回りなので、今回もどうせそうなのだろうとちゃんとアントーニョとアーサーの二人分の食事をお持ち帰りできる形で用意しておいてくれたフランシスから食事の乗ったワゴンを受け取って、アントーニョはにこやかに言った。
「……?
なあに?そんなにお兄さんの顔好き?
まあ美しいもんね。」
と、珍しいアントーニョのリップサービスにフランが微笑むと、アントーニョはきっぱりと
「いや?単にアーティに欲情しそうになった時、自分の顔見ると、丁度良く欲望が萎えんねん。」
と、失礼な宣告をする。
それに対して、『もう、お前そういう奴だよ…』と、がっかりした素振りを見せながらも、いつも通りのアントーニョの様子に、フランシスは内心ホッとした。
アントーニョが荒れていないということは、アーサーもあんなひどい格好で帰ってきたが落ち着いているのだろう。
どうせ自分は荒事になれば何が出来るわけじゃなく、せいぜい美味しい食事を用意して疲れて帰ってくる相手を待っているだけの人間である。
別にそんな自分に多くを語ってくれなくても良い。
皆が元気に帰って来てくれれば、それで良いのだ。
そんな思いを込めて
「うん…でも皆無事みたいで良かったよ。」
と、送りだして見れば、アントーニョは部屋に向けた足を一瞬止めて少し沈黙。
「おおきに。」
と、どうやらさすがに悪友だけあってその真意を正確に察したらしく、彼にしては珍しく神妙に礼を言って、また歩き始めた。
「さあて、あとはギルちゃん。
朝食か昼食…になっちゃう時間かなぁ…」
と、その背中を見送ってフランシスはそう呟くと、自分も自室に戻って行った。
フランシスの予想通り…ギルベルトが戻ってきたのは翌朝、9時過ぎの事だった。
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