オンラインゲーム殺人事件あなざーその5・魔王探偵の事件簿_7

奪還(17日目)


思い切ってこちらから飛び込んだのは正解だった。
イヴとアゾットの間にはおそらく深い隔たりがある…。

間違ってもアーサーを巻き込みたくないが、アーサー自身の安全は早急に確保したい…。
そんな理由でギルベルトと話しあって、ギルベルトと揉めたフリをしてイヴ達と行動を共にする事2日。

進展はあったと思う。
何がどういう風に…とははっきりは言えないが、イヴとアゾットはどうやら仲間であって仲間ではない。
たまたま非常に狭い範囲で利害が重なっていて、その非常に狭い範囲で重なる共通の利害のためにだけ一緒に行動している…そんな気がする。

まず仲間に入りたい…そう持ちかけたトーニョに対して、アゾットは肯定的でイヴは否定的だった。
そのくせ一旦仲間になると、どこかリアルで会いたいオーラをぶつけてくるイヴをアゾットが止めている…そんな空気が漂う。

イヴは非常に単純に賞金目当てな気がするが、アゾットはやはり以前アーサーと話した通り、聖職者のキャラに悪魔を封じ込めた短剣の名をつけるなどという複雑性を見せているだけあって、目的もどことなく謎と言うか、掴めない。

ただ、自分の手を汚すことなく、イヴに何かさせようとしている感がプンプンして、イヴよりアゾットの方が油断がならない気がする。

そんな二人の間に上手に切り込んでいく…それにはまずアゾットの目を盗んでイヴに接近する事が必要だ。

アゾットもトーニョの目的を分かっているわけではないのだろうが、イヴと切り離されたら終わると言う認識はあるらしく、さりげなく邪魔をしてくるので、なかなかイヴとゲーム以上の話は出来ないが、おそらく近日中には何とかできるだろうと思う。

…というか、なんとかする。

これ以上アーサーをギルベルトに預けたままにしておいたら、自分のストレスの方が限界だ。


今回は本当に苦渋の決断だったのだ。
間違ってもアーサーを危険なあたりに連れて来る事はできないため、アーサーと一緒にイヴ達の方へというのは論外としても、ではギルベルトの方をこちらにやってイヴに接近させるかと言うと、それも不可能ではないが時間がかかりすぎる。

強引にでも一気に関係を深める…実際の性格はとにかくとして、いかにも頭が良い論理派と言った雰囲気のギルベルトがそれをやろうとすると下手をすれば喧嘩になるかあるいは怪しまれる。
他意のない屈託のない雰囲気…それをギルベルトに演じさせるのは難しい。

となると、自分の方がそれをやるしかないのだが、他人の手のうちに自分の大事なものがあると思うと苛々する。
一応リビングでアーサーの表情がよく見えるように正面に座ってゲームをするわけなのだが、自分が居ないのに少しでも楽しそうな表情をされると、ストレスでPCをぶち壊しそうになる事数回。

…アーティーのため…親分のお姫さんの安全のためや……

と、心の中で何度も繰り返して感情を押さえつつ、ここ数日すっかり苦行になったゲームを続けているのだ。

我慢…というものを生まれてこの方してこなかったアントーニョにしてみたら、今一生分の我慢をしている気分になっている。
その分、ゲーム以外の時間は朝からずっと二人きりでベタベタしているわけなのだが……



こうして3日の時が過ぎた頃、そんなアントーニョの忍耐がとうとうブチ切れそうになる事件があった。

朝起きて、いつものように美味しい朝食を作ってそれをトレイに乗せて寝室へ。
「アーティ、ご飯やで~」
と、日々そうであるように、朝食はベッドの上で。
アーサーは半身を起した状態で、アントーニョはベッド横の椅子に腰をかけて食べる。

こうして日々可愛いお宝ちゃんの愛らしい姿を満喫しつつ朝食を取り、その後着替えがてらランチボックスを作って、アーサーを連れて校内を案内したり散歩をしたりとそんな日中を過ごしていたのだが、その日はアントーニョのお宝ちゃんはいつものようにベッドの上にはいたものの、その手には携帯が握られていた。

その時点で嫌な予感がする。
そして…

「あの…今日兄さんが…」
のアーサーの言葉で、それが的中した事をアントーニョは知った。




今危険な時期だからとか、色々意見は言ってはみたものの、アーサーにとっては今まで切望していた家族だ。
何でも素直に聞く彼には珍しく、控えめに…でも会いたい旨を主張する。

そうなるとあまり強固に反対しすぎて離れて行かれてはおおごとなので、アントーニョは渋々自分が送り迎えをする事を条件に了承した。
もちろん、アーサーを送って行ったら即変装して尾行する気満々だ。

こうして普通の街中と違って即は動きださないだろうと、待ち合わせ場所にカフェを指定。
変装用具を秘書に用意させ、秘書の車で現地へと向かった。


Before <<<     >>> Next 


0 件のコメント :

コメントを投稿