オンラインゲーム殺人事件あなざーその5・魔王探偵の事件簿_4

こうして和やかなお茶会から和やかな夕食になだれ込み、そのまま前日と同様に全員がPCを並べてネットへ。

「あ~…今日はたまには素材狩りとかしねえ?
そろそろ魔王に行く時の事も考えて、薬とか諸々準備してえし。」
インしながらギルベルトがそう言うと、
「せやなっ。ついでに装備も整えとこか。」
と、アントーニョも言うので、その日は資金稼ぎと合成素材を落とすモンスターを狩る事になった。


その言いだしっぺの二人だが、時折り二人で何かアイコンタクトを送っているのがアーサーには気になるが、一番付き合いが短く、また年下の自分が口を出すのもはばかられて、なんとなく俯くと、気を使ったのか二人ともお菓子をアーサーの口に放り込んでくる。

モグモグごっくん…と、咀嚼して飲み込めば、にこにこと慈しみに満ちたような視線にさらされ、どうして良いかわからない。

ただ自分にだけ何か知らされてないような感じがどうにも釈然としなくて、少し寂しい気持ちになるが、そこでゲーム上でウィスが入る。
フランからだ。

(トーニョとギルちゃんてね、いつも色々二人三脚で計画立てるのよ。
ミッション4の時もそうだったでしょ?
別に意地悪してるとかじゃなくてね、他を軽んじてるとかでもなくてね、単に効率重視しちゃうとこがあって、今までは3人の中でお兄さんだけ行動する時まで計画知らされてないとかしょっちゅうだったからね。
まあ、悪気はないの。二人とも面倒な部分は省いて最良の結果だけ相手にあげたいって思ってるだけだから、むしろ善意なのよ。
だから気にしないでね?)

そのウィスに少し顔をあげて正面に座るフランに視線を向けると、フランはそれに気づいてパチンと片目を瞑って寄越す。

なるほど。
確かに自分よりもずっと一緒にいるフランもかやの外なわけだから、実際にそうなのだろう。

1人じゃない…その事にホッとして、アーサーは
(さんくす、フラン)
と、ウィスを返した。


こうしてわいわいがやがやと素材狩り。
トーニョとギルの二人が時折り時間を気にしているように見えるのは気になるがスルー。

その代わりに同じくかやの外組のフランに
(なあ…フランは今まで1人かやの外で気にならなかったのか?)
などと、こっそりウィスを送ってみる。

それに対して
(ん~、お兄さん、戦術とか面倒な事嫌いだもん。やりたい奴がやれば良いかな?って思うよ。自分が面倒な事しないで恩恵だけ受けられるなら最高じゃない?)
と、フランは実に彼らしい答えを返して来て、アーサーは小さく笑った。

その笑みでどうやら二人で話していた事に気づいたらしいトーニョがフランに蹴りを入れ、フランが慌てて今度はトーニョに何かウィスしているらしい。
それを見てギルが苦笑している。

そんな風に和やかに時間が過ぎ、ゲーム時間終了で解散。
アントーニョはアーサーを寝かしつけたあと、ネットでニュースを確認。
そっと部屋を出てギルベルトの部屋へ。
コン…と1度ノックをした瞬間、二度目を待たずにドアが開いた。



「そろそろ来る頃だと思ったぜ。」

ケセセと特徴的な笑い声をあげながら、ドアから身を少しずらせて自室へとアントーニョを迎え入れるギルベルト。
しかし、軽い口調とは裏腹に、その表情は固い。
おそらくギルベルトもアントーニョと同じくネットニュースから、第4の犠牲者、エドガーこと芳賀耕助の死亡を確認したのだろう。

それを示すように、
「とりあえず…珈琲淹れてくれへん?ちょお濃い目のやつ。」
と、答えるアントーニョの方も眉間に縦皺。
楽しいパジャマパーティの集まりではない事は見て取れる。

「そう言うと思って、準備はしてあんだぜ。俺様天才。」
と、ギルベルトはいつものように言ってみるものの、
「天才やったらポカしてへんな。」
と言うアントーニョの容赦ない突っ込みに
「違いねえ…」
と、力なく肩を落とした。


「全部ばらしてしまえりゃ事は簡単なんだけどなぁ…」
ギルベルトの部屋のリビング。
ソファに向かい合わせに座って珈琲を啜りながらため息をつく二人。

周りに他の人間がいる時には常に自信に満ちた態度を崩さない二人にしては珍しい。
お互い二人きりの時にだけ見せる姿である。

「フランは知って動揺するなら貼り倒して踏みつぶせばええとしても、アーティにこれ以上不安な思いはさせられへん。それは自分も了承済みやん。」
「…わかってる。それはわかってんだけどよ…。」

大学ノートにペンでサクサクと現状をまとめて行くギルベルト。

現状:○=生存、×=死亡
1. ○/トーニョ(ベルセルク)
2. ○/ギル(シーフ)
3. ○/フラン(エンチャンタ)
4. ○/アーサー(プリースト)
5. ○/イヴ(ウォーリア):犯人候補1
6. ×/ゴッドセイバー(ウォーリア)
7. ×/ショウ(ベルセルク)
8. ○/アゾット(プリースト):犯人候補2
9. ×/メグ(ウィザード):全員のメルアド交換提案。収拾&配布後死亡
10.×/エドガー(ウィザード)
11.○/オスカー(アーチャー):従姉妹エリザ
12.○/ヨイチ(アーチャー):他との接触一切せず

・6,7はイヴと同じPT。イヴにリアル情報を漏らしている可能性大。
・イヴとアゾットは6,7の殺人後、急接近。その後はイヴの性格が変化
(イヴの中身が入れ代わっている可能性もあり?)
・10は犯人と一緒に行動している第三者に忠告に行くと言って死亡
(俺ら以外に複数行動しているのはおそらく5&8のみ。)

上記の結果、6,7の殺害犯はイヴ本命。
エドガーも同様に判断。
ゆえにイヴと一緒にいるアゾットが危険と思い忠告に行くが、実は二人が共犯だったため殺害される。
メグについては殺害経路は不明。

「…こんなとこか…」
「あ~、候補消してもええんちゃう?エドガーが殺された事でほぼ犯人は確定や。」
「ん、そうだな。で?メグは?」

アントーニョの指摘で犯人候補から候補の字を消しながら問うギルベルト。
それに対してアントーニョは迷う事なくきっぱりと言い放つ。

「アゾットが垂らしこんだに一票やな。」
「はぁ?」
「なんかあいつそんな感じするやん。」

と、あまりに突拍子のない発言に、
「お前…本当にあいつの事嫌いなんだな」
と、苦笑しつつも、しかししばしば理屈ではなく確信をつくアントーニョの恐るべき勘に、かなりの確率でそうなのだろうと、論理派のギルベルトにしては珍しく脳内でそう決定づけた。

「ん、じゃ、まあそう言う事にしておいて…これ、どうするよ?
確かに絶対に相手に誘い出されねえようにすんのが一番なんだが、相手だって馬鹿じゃねえ。
俺らが一番魔王に近いっつ~のはもう感じてんだろうし、かといって相手がちんたら魔王倒すまで待ってるのはゴメンだろ?」

「当たり前やん。ま、アーティは親分がいつも付いとるからええけどな…フランのアホが誘い出されて暴走とかされると面倒やな。
あんなんでもなんかあったらアーティが心痛めそうやし……」

うーん…と、顎に手をやって考え込むアントーニョ。

「おまっ…フランの扱いひでえっ」
冗談かと思わず噴き出すギルベルトに、全く冗談ではなかったらしくアントーニョは極々真面目な顔で、
「せやかて、フランが心配で心配でしゃあないとか言うたら気持ち悪いやろ?」
と言う。
「う……確かに…」
と、それに対してギルベルトにまでそう言われてしまうあたりが、フランシスも不憫な男である。

まあそんな会話を交わしながらも、アントーニョも色々考えてはいるらしい。

「とりあえずや…それでもフランは狙われへんやろ。エンチャでトドメ刺そう思うたら大変やしな。
俺らん中で犯人が一番目障りなんは俺ちゃう?」

「あ~、それは確かにな。
1億狙うならトドメ刺しやすいジョブだろうし?
一番の候補は近接前衛だから、イヴも近接前衛を殺すために仲間にしたんだろうしな。
イヴ以外の近接前衛であと生き残ってんのお前だけだしな。」

「せやろ?次に狙われるとしたら俺ちゃうかなぁって思うてんねん。
やったら、いっそこっちから飛び込んだったらええんちゃうかなって思うんやけど…。
どうにかできひんかな?」

「あ~、そうだな。お前なら平気そうだし?
じゃ、イヴに声かけてみるとか?前リアルで会わねえ?って言われてただろ?」

「おん。でも、今更どうやって?」

「ん~、じゃ、俺様と喧嘩ってのはどうだ?で、とりあえず俺様と居たくねえからしばらくイヴ達と一緒にいてえって事で。
で、しばらく一緒にいたら、向こうから嫌でも何かアクション起こすんじゃね?」

「あ~、じゃあそれ行こか。ほな、喧嘩の理由は?」

「ん~無難に殺人事件起こってるしさっさと魔王倒して終わらせれば良いと思うお前と、殺人犯をきちんと明らかにしたいから魔王倒すのをちと待てって俺とってことでどうだ?」

「ああ、それでええな。ほな明日?」

「ああ。とりあえずイヴ達も広場でインしてるみてえだし、明日インしたら俺から会話しかけるわ。
フランとアーサーは何か理由付けてイン遅れるようにさせて、俺とお前だけで早い時間にインで、パーティ組む前に通常会話で仕掛けな?」

「おん。ほなそれぞれの部屋で、アーティにはフランに菓子もらっておいでって言うて、フランにはぎりぎりに飲み物でも買いに行かせるんでどない?」

「じゃ、わざとウーロン茶だけきらせておくわ。で、お前がアーサーにフランにウーロン茶もらいに行かせる。」

「せやな。そうするわ。」


こうして話しあいが終わると、アントーニョはギルベルトの部屋を出る。
まあ自分なら大丈夫。
なんなら仕掛けさせて張り倒して現行犯逮捕だ。
…と、思いつつ、どこか横切る不安。
おかしい…物理的には問題ないはずだ…とは思うのだが、何故胸騒ぎがするのだろうか…。

それでも…何もしないと言うのはありえないし、何かあっても被るのは自分だ…
アントーニョはそう自分に言い聞かせて、その日はアーサーの眠る自分の寝室へと戻った。


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