と、右隣のアントーニョがあーんと口元に持ってくるフォークに口を開けてモグモグごっくんすれば、
「ね、坊ちゃん、これ、お兄さんの自信作なの。食べて見て」
と、フランが小皿に料理をとりわけてくれる。
最後の1人ギルベルトはご機嫌でイモを頬張りつつ
「ま、勉強でわかんねえことがあったら俺様に、学生や教師でわかんねえ奴がいたらフランに、人間関係で揉めたらトーニョに遠慮なく駆け込めよ。
それで大抵の事は解決すっからな。」
と、ぐりぐりと頭を撫でまわしてきた。
アーサーは生まれてこの方、こんなに多くの相手にこんな近い距離で、こんな、まるで家族のような温かい事を言われた事はこれまでなかったので、なんとなく胸がいっぱいになってきて、言葉に詰まる。
うっと嗚咽を堪えて息を詰めると、
「どないしてん?喉詰まったか?これ、飲みっ!」
と、アントーニョが慌てて顔を覗き込んで、ジュースのグラスをアーサーに差し出し、ついでに足を伸ばしてギルベルトに蹴りを入れた。
「食うとる時にギルちゃんが頭揺らすからやでっ!!
野性児の自分と違ってアーティはデリケートにできてんねんでっ!!」
と、そちらには眉を吊り上げるアントーニョに、ギルベルトは
「おめえに野性児とか言われたくねえっ!」
と、返すものの、アーサーの事は心配そうな目を向けて、
「悪ぃな。大丈夫か?」
と、頭を撫でまわしていた手で背をさする。
一方で目にたまる涙にフランシスが今度はそれを吐き気を堪えているためと取ったのか、
「気持ち悪い?こっちに戻して良いよ?」
と、気を利かせて何故そんな物まで用意しているのかは謎だが、エチケット袋を差し出してきた。
「…っちが…っ……んなの……じめてだった……から……」
しゃくりをあげるアーサーに全員がピタッと止まった。
…ああ、そっちやったか……。
と、アントーニョがまず、ずっと1人だったアーサーの境遇を思いだしてハッとする。
そして、
「アーティ、目、こすったら赤くなってまうよ。」
そっと抱き寄せて、こぶしでぐりぐりと目をこすりながら泣いているアーサーの手首を掴んで顔から外させて、ちゅっと涙が止まらない目元に口づけを落とした。
そこですかさずフランシスが白いユリの刺繍の入った綺麗なハンカチを差し出し、ギルベルトがそれを受け取ってアーサーの目元にあてる。
「これからはもう一人が懐かしゅうなるくらい、いつも一緒におるからな。」
「おう、とりあえず…記念日はいつも4人で乾杯な。」
「ふふっ。じゃあ来年からはまず7月23日はお祝いかな?」
「おん。アーティが空から降ってきた日な。」
「だなっ!」
「まあ…記念日だけは特別に親分が見とる時だけハグまでは許したる。」
「アーサーは別にお前のじゃねえだろっ!」
「ギルちゃん何言うてんの?この子は親分が身元引受人で親分に責任のある子やで?」
「お兄さん、職権乱用はんたいだな~」
「じゃ、フラン、死んどき?」
「えー、なんでっ?!なんでお兄さんの時だけそうなんのよっ!!」
わいわいがやがや、そんな軽口をたたきながら、3人でぎゅうぎゅう抱きしめられて、アーサーは目を白黒させるが、あっけにとられすぎて涙はいつのまにか止まっている。
そんな風に大きな目をぱちくりさせたまま固まっている2歳下の中学生を、3人3様に可愛らしく思いながら、小さく笑みを浮かべた。
0 件のコメント :
コメントを投稿