孤独な夢の終わり
「全く!下らない事でせっかくの優雅な読書タイムを台無しにするなんて」
不機嫌な顔の古手川。
淡路の死よりも自分の時間を邪魔された方が重要ならしい。
「そういう言い方ないだろ。人が一人死んでるんだぞ?」
「そう!死んでるんだ。今更慌てても仕方なかろう?
淡路の馬鹿が!かなづちのくせにプールわきプラプラして溺死とははた迷惑なっ」
「君は…!自分で呼んで来てもらった相手なんだろっ?!」
「知るかっ!勝手に来たがったんだっ、あいつらはっ!
連れてきてやったのに事故死だか自殺だか知らんがほんっきで迷惑だっ!」
アルフレッドと古手川の言い争いをうんざりした目で遠目にするフランシス。
「まいったな…なんで死ぬのに縫いたての服着ていっちゃうかな…。
事故にしても自殺にしてもお気の毒ではあるけど…何も他人の物着ていかなくても…」
松坂も淡路とはそれほど親しくなかったのもあって、イライラと言う。
「これ…やっぱり撮影中止?」
綾瀬も気持ちは淡路以外の方へ向いているようだ。
「事故死なら…続行できないかな?」
さらなる綾瀬の言葉に
「ん~、警察次第か」
と高井が応える。
「一応…どうせ警察くるまで暇だし、ここに置いてある材料で出来る分だけでも服縫っちゃいましょうか?」
松坂の言葉に綾瀬も賛成して、二人でミシンをかけ始めた。
「なんか…誰も淡路さんの事きにしてないんだな…」
ボソボソっと俯き加減にアーサーが言った。
「あ~…仲良かった斉藤さんとかは行方不明だしね。
でもほら、水野さんなんかは青くなってるし、平井さんが慰めに行ったっぽいよ」
孤独な人間というのに感情移入してしまってなんとなく沈むアーサーにフランシスは少し離れたところに立つ水野を指差した。
斉藤に継いで淡路もいなくなった…。
昨日の夜に空想した事が現実になった事に、水野は喜びよりも恐怖を感じた。
まさか…本当に自分の思いが現実となって人間を殺したとかじゃ…そんなありえない馬鹿馬鹿しい想像が脳裏をしめる。
そこでまた恐ろしくなって高井に目をやった。
別に自分に注意を向けている様子はない。
昨日とはうってかわった穏やかな様子でアルフレッドと話をしていた。
彼が糾弾の目で見ていないという事は自分のせいではないのだ、と、水野はホッとする。
緊張の連続でなんだか疲れた…。
淡路のように何も感じなくなってしまえば楽なのでは…と、一瞬思って、すぐゾッとしてそれを打ち消す。
今のところ自分がこうなれば…と考えた様に人がいなくなっている…。
そんな事を考えたら次は自分が……。
「水野君…」
不意の隣で声がして、水野はビクっと身をすくめた。
「あ…平井…さん」
「大丈夫?真っ青だけど。
まあ…友達がああなって顔色良かったらどうかしてるとは思うけどね」
一応心配して声をかけてくれたのだろうが、はっきりした物言いをする平井はどうも苦手だ。
水野はそれでも
「ああ、ありがとう。大丈夫」
と、曖昧な笑みを浮かべた。
「一人つらければ…ロヴィーノ君にでもくっついてれば?
とりあえず家主はナイトに囲まれてて近づけなさそうだけど、彼も家主の友人で一番色々な意味で便利そうだし」
平井の言葉に水野は複雑な表情でまた笑みを浮かべる。
「えと…俺あまり親しくないから…」
「なら余計でしょ。飲み物でも持って行けば?
ちょうど他は服の事であっち固まってるし。
俺もそっち行こうと思ってるんだけど、彼一人暇そうだしさ。
それに君みたいにおどおどしてられると見ててすごくうっとおしい」
平井の言葉に水野は涙目になった。
確かに自分はおどおどしてるかもしれないが、なんでこの男はわざわざそこまで言いにくるんだろう。
水野はとにかくその場を離れたくて、テーブルの所に置いてあったリンゴジュースをひったくるように取ると、そのまま他と離れて立っているロヴィーノの所に駆け出して行った。
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