迷探偵ギルベルトの事件簿前編8

…きまずい……非常にきまずい……。

たぶん…瞳は気を利かせてギルベルトと紗奈を二人きりにするのを避けさせたのだろうが、ロヴィーノとしてはむしろ自分と二人きりにされるよりはそちらの方が良かったんじゃないかと思う。

紗奈と二人キッチンにinして渡されたエプロンを身につけている間、双方無言。
でもすごく視線を感じる。


「とりあえず…ホワイトソース作っちゃうな」
と、きまずさを振り切るようにロヴィーノがバターに小麦粉、牛乳を用意すると、何故か

「へ?」
と返された。

「え?」
何かおかしなことをしただろうか…と焦るロヴィーノ。

「何か変な事言ったか?」
と問い返せば紗奈は

「何?ルー使わないの?」
と目をまん丸くした。


「ああ、。普通に作った方が美味いし…そんなに手間も変わらないし?」

言いつつ慣れた手つきでバターを鍋に落として小麦粉を炒めていく。
そこに牛乳を一気。
チマチマ入れるよりも一気にいれて一気に混ぜる方がダマにならない。
手早く混ぜて滑らかになったら塩で味を調える。

「ほい。味見よろしく」
と、小皿に入れて渡せば、紗奈も拒否する事もなく、おそるおそる口をつけた。

「お…いしいっ!」

思わず、といった感じの呟きが耳に入れば、きまずさも忘れて

「だろっ?!」
と振り返る。


相手が誰であれ、唯一くらい自信があるもの、料理を褒められれば嬉しい。
思わず笑顔になるロヴィーノに、紗奈はこほんと咳払い。

そして…

「やっぱり胃袋から落としたの?」
と気難しい顔で聞いてくる。

「え?」
と一瞬聞かれている意味がわからずロヴィーノが首をかしげると、

「ギルベルト君よっ!」
と、焦れたようにその場で地団太を踏まれて、あ~、と思う。

「あのな、誤解だから…」
ロヴィーノはくしゃりと頭をかいた。

「瞳さんさ…たぶん面白がってるっつ~か…漫画とかそういう本とか読み過ぎだ。
ギルは先輩で俺は後輩で…元々は俺はトーニョの幼馴染であいつらは悪友で、そのつながりで色々気にかけてはくれてるっつ~か…。
普段はあと1人フランシスっていう、ジェニーの元カレも一緒につるんでるんだ」

ギルベルトのためには自分のために可愛い女子高生を遠ざけるような事をしてはいけない…。

相棒…そう呼んでくれるだけでいい。
別にその他に大事な彼女が出来たら出来たでそこまで干渉すべきじゃない…。

それが…独り占めできないのが寂しいと感じるのは我儘だ。


誤解は解いてやらないと…と、そんな気持ちでロヴィーノがそう言うと、紗奈の視線は途端に柔らかくなった。

「なんだ、そうなの~?!
そうよねっ!ギルベルト君だって、恋人はやっぱり可愛い女の子が良いよねっ!
漫画じゃあるまいしホモとか気持ち悪いしっ!」
と、上機嫌で野菜を洗い始める紗奈の言葉に、アントーニョとアーサーの件もあるしと思わず反論しかけるロヴィーノだが、ハッと思いとどまる。

今はアーサーが男だと言うのは隠しているし、そもそもがあそこは何を言われても気にしないだろう。

むしろそれでギルベルトがそうだと思われて避けられる方が問題だ。

(…俺は…別にそういう仲じゃねえし……な……)


「とりあえずソースはこれをベースにするとして…野菜と肉切って炒めて煮込むぞ」

ロヴィーノは色々な気持ちを飲み込んで、玉葱、人参、ジャガイモ、マッシュルーム、豚肉を適当に切って炒めて煮込み鍋に放り込む。

その間も紗奈は自分アピールをし続けていた。

そして…煮込んで味を調えてソースを加えてあとは待つだけとなってひと段落着いたとき、瞳がキッチンに入ってきて

「ごっめ~ん。私ジュース冷やしておくの忘れててさ、冷凍庫に氷、食器棚にピックあるから適当に割って持ってきてくれる?」
と、言い置いて返事をする間もなくグラスを持ってリビングに戻っていく。

ため息をつくロヴィーノ。


「氷出すから…ピック洗っておいてくれ」
と、冷凍庫に近づくと、紗奈が飛んできた。

「ごめん、私ピックだめ。先端恐怖症なの。氷は出すからロヴィーノ君お願い」

その言葉にロヴィーノは今度は食器棚に向かう。


ピックはすぐみつかってそれを洗い、紗奈がもってきた氷を割って氷入れに入れた頃、また瞳が戻ってきた。

「あ、氷できたね。ロヴィーノ君は氷、紗奈はジュースもっていって」

テーブルの氷に目をやって言う瞳に、

「人使い荒いなぁ…」
と紗奈は文句を言いつつジュースを抱えてリビングへ。
ロヴィーノも氷を持ってそれを追う。

そしてリビングのテーブルにそれを置くと、二人は慌ててキッチンに戻った。


「あ…悪い。洗ってくれたんだな」

二人がキッチンに戻ると瞳が手際良く汚れた調理器具を洗っている。

「二人とも、料理するのはいいけど片付けながらしてね。
これじゃ次の物作る場所も洗う場所もないでしょ。
特にピック!ロヴィーノ君、置きっぱなしにしないでね。危ないよ」

瞳は言ってピックを綺麗に洗うと念入りに拭いて食器棚の引き出しの奥にしまう。


「包丁やピックは間違って刺したりすると危ないのもあるし、鉄だからいい加減に拭いて水気が残ったままだと錆びるから気をつけてね」

ピックの次に包丁を綺麗に洗って同じく念入りに拭いて包丁立てにしまう瞳。
彼女は日常的に料理をやっているっぽい。
自宅では料理はしても片付け下手なロヴィーノのために当たり前に弟が横にいて洗っておいてくれたせいで、ロヴィーノはそこまで気が回らなかった。

「瞳って実は料理よくやってる?」
紗奈が聞くと瞳は小さく息をつく。

「ここに来てる時は料理するの私だし。別荘はホテルと違って食事出てこないからね。
普通はゲストに料理させることないから」

包丁の次には使いっぱなしだったザルやフライパン、皿など全て手際良く洗い終えると、

「じゃ、あとはお願いね」

と、瞳はリビングへ戻っていった。





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