ご馳走様…と、席を立つイングランド。
最近食欲がないらしく、こっそり調理人に盛る量を減らしてもらっているのには気づいていた。
だから…少しでも食べてくれるようにと、今日はイングランドの好物ばかりを作ってもらうよう申し付けて作ってもらったのだが、やはり雀の涙ほどにしか食べずに席をたった。
(あかんやん…あの子あんな細いのに、また痩せてまう…)
イングランドが食堂を出たあと、スペインも早々に食事を終えて、シェフに頼んでキッチンを使わせてもらう。
最近は自分で立つ事はなくなっていたが、イングランドと出会った頃は人を雇う余裕などなく、自分でキッチンに立って料理を作っていたものだ。
そう凝った物を作るわけではなかったが料理はそれなりに得意で、おそらく自国では木の実ばかりを食べて暮らしていたらしいイングランドは、そのスペインの作った料理に瞳をキラキラと輝かせて美味しそうに頬張ってくれていた。
特に甘いモノが好きで、当時は滅多に手に入らなかった砂糖を使った菓子を食べる時の幸せそうな顔はこちらまで幸せになるような嬉しそうなものだった。
国が大きくなって城も大きくなって使用人を始めとする家人も増えて……色々が身軽でなくなった頃からキッチンに立つ機会もなくなってしまったが、今だって作れないわけじゃない。
最近どうもゆっくり話をする時間が取れてないように思えるイングランドとこれをきっかけにゆっくり…と、焼きたての焼き菓子を手にイングランドの部屋へと急ぐと、イングランドはちょうど庭を散歩していたらしく、部屋に戻るため廊下を歩いているようだった。
「あ、イングラテラっ」
と、かけようとしたスペインの言葉は、イングランドの後方からタタっと駆け寄ってきた少女の姿を見て、飲み込まれる。
「イングランド~、うちな、ワッフル焼いたんやっ。
さっきあんま食事食べてへんかったやん?
お腹すかへん?一緒に食べよ?
あ~、でもご飯食べんとお菓子とか怒られそうやし、親分には内緒やで?」
明るくそう言って焼き菓子のはいったカゴを揺らす少女には、おそらく微塵も悪気はないのはわかっている。
それでも…仲良く連れ立って部屋へと消える二人を見ると、スペインは苛立ちを抑えきれず舌打ちをした。
(…あの二人…仲良すぎやっ!)
別にベルギーが嫌いとかいうわけではない。
明るくて優しくて悪気がなくて本当に良い子だと思う。
ただ、自分が戦いで留守にしている間、留守をしている者同志、多くの時間を共有していたせいだろうか。
最近ではイングランドは自分がいても自分といるよりベルギーといる時のほうが、多い気がする。
それが腹立たしい。
家族のようなものなのだから、皆仲良くて結構なことだ…と、理性ではそう思うのだが、自分以上にイングランドに近くなる者がいると、苛立ちを感じる。
逆にベルギーに本当の兄がいて、自分より当然気のおけない相手だったりしても、全く気にならない。
おそらく…ある日彼女から恋人を紹介されたとしても、それがスペインのめがねに適う者であれば、新しい家族として喜んで受け入れられるだろう。
だけどイングランドだとダメだ。
自分以外の者に好意を向けられるだけでイライラする。
自分以外を見てほしくない。
なんでや?と思うものの、もうこれはどうしようもない。
「あ~、もうクサクサするわっ!なんや溜まっとるんかな。」
スペインは自室で目立たない格好に着替えると、
「ちょお出かけるわ」
と、言いおいて、馬に飛び乗る。
そういう時は家人も特にそれを止めない。
要人でありながらも、別に護衛などなくとも大丈夫な祖国を知っているというのもあるのだが、それと同時に国体であっても身体は年頃の成人男性だという事を暗に察しているからだ。
そう、行き先は街はずれの娼館だ。
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