エリザとフランソワーズがストーカーを偽装していた
その事を知ったのは最悪のタイミングだったと思う。
そのおかげで取らなければならない対処が遅れた。
さあ…どうする?!どうする?!!
ギルベルトは焦ってバイクを飛ばした。
最初の異常は朝、アーサーが通学時に後ろからコートに精液をかけられた事だった。
ギルベルトはたまたまそこに居合わせた大学の同級生からその話を聞いて、アーサーに次回からは自分が高校の最寄り駅まで送り迎えする事を申し出て、アーサーの自宅へと送って行ったのだが、それから1週間、今度は郵便受けにアーサー宛の差し出し人不明の封筒が入っているようになったのである。
その他にも無言電話があったり下着を盗まれたりと言う事があって、そちらが全てエリザとフランソワーズの偽装だと知って、全てが彼女達のいたずらだと思ってしまった。
が、アーサーが持って来た封筒と中身の写真を見て気づく。
封筒は主に普通の白、あるいは茶封筒に使用済みコ○ドームや大人のおもちゃなどが入っているもの、そしてもう一つはフローラルな青い封筒で、気味の悪い台詞付きのカードが入っているものの2種類ある。
その青い封筒がエリザ達の偽装で、そのカードの内容を相談するメールをフランソワーズに送るつもりでギルベルトに送って来た事で、発覚した。
しかしながら…そこで全てがエリザ達のせいと思った自分の浅はかさに、ギルベルトはほぞをかむ。
エリザ達がわざわざ封筒を2種類用意する意味はないと言う事もあるが…それよりなにより、白い封筒がエリザ達の仕業だとすればコ○ドームの中身はどうやって入手したんだ?!
男友達も少なくはない2人だが、さすがに他人の男に『ちょっと体液わけてくれない?』とは言えないだろう。
そんな事を言われたらさすがに相手が美人でもドン引きだ。
おそらく…最初のコートにぶっかけた輩と白い封筒が同一人物で、その他がフランソワーズとエリザの犯行……
そして…考えたくないが、今日アーサーがギルベルトだと騙されて呼びだされた相手が、白い封筒の人物……本当の変質者だ。
――アルト…無事でいてくれ……
どこに行ったのかは聞いていない…フランソワーズは一度はそう言ったが、事情を知ってアーサーの部屋に行ってみると、なんと携帯を忘れていったらしく、メールから待ち合わせ場所は判明した。
そこで急いでそちらに急行するギルベルト。
しかしながら、なにぶん時間が経ち過ぎている。
ギルベルトがその場に付いた時にはもうアーサーも誰もいない。
場所は人が少ない小さな公園。
目撃者もいそうにないしさすがに途方にくれかけたが、そこに鳴る電話。
フランソワーズからだ。
『ギル、あのね、たぶん今、調布から八王子に向かってる感じかも…』
「は??」
『動揺しすぎてて忘れてたけど…あたしあとでこっそり覗きに行こうと思って、あの子に発信器つけてたのよね…』
おぉ~~い……!!!
本来なら苦言を呈するか、呆れかえるところだが、今回はその傍迷惑な趣味もお手柄だ。
「でかしたっ!!
調布から八王子っつ~と、もしかして中央自動車道か…。
俺様これから向かうから、そのままナビゲートしてくれ」
そう言ってギルベルトはメットを被ると、バイクのエンジンをかけなおした。
時は少し遡る。
朝…前日に姉にコーディネイトしてもらった服を身につけ、アーサーはもう何度も見直してすでに文面まで暗記してしまったメールにまた目を通して、待ち合わせ場所と時間を確認した。
何度見たって変わるわけじゃないし、意味がないのだが、嬉しくて仕方がない。
そんな自分に、姉に強要されるまでもなく、自分は同性の事が好きな人種なのだろうか…と、ふと思うが、そんな事がギルベルトの耳に入ったなら、間違いなく手を放される。
『無理矢理じゃねえんだったら、本当に好きな相手と付き合った方がいいんじゃね?』
自分の義務は終わったとばかりにそう宣言されるの怖さに、アーサーはそれについては考えない事にしていた。
ギルベルトに離れて行かれる…それが何より怖かった。
だからこれはデートだと喜んでいるわけではない。
単に今まで家族以外と出かけたりした事がなかったので、楽しみなだけだ…
そう思おうとしても、やっぱり脳内はギルベルトでいっぱいになってしまう。
外で…何をするんだろう?
映画?食事?それとも水族館?
ドラマとか漫画だと、手をつないで歩いたり…は、男同士だから無理か?
でも帰り際に人気のないところでキス……
うあああ~~~!!!何考えてるんだっ!と、誰がいるわけでもないのに、1人でわたわたと動揺した。
毒されてる…絶対に姉の趣味に毒されているっ!!
そう思うものの、実際にギルベルトの顔が近づいてくる事を想像してみても、全く嫌悪感がないあたりで、もう手遅れなんじゃないかと思う。
そんな風にわたわたしつつ、荷物を確認。
ギルベルトとのデートを進展とみて喜んだ姉から提供をされた財布や小物。
相談したのは夜中なのにいつのまに用意したのだろう…と、不思議に思いながらも、珍しく利害が一致した姉からの贈り物はありがたく頂いておく。
普段ぴょんぴょん跳ねて何度整えてもおちつかないアーサーの髪も、姉がセットしてくれるとふわふわさらさらになった。
仕上げにと付けてくれた香水もすごく良い匂いだ。
色々が整って、待ち合わせには少し早い時間に、アーサーは上機嫌の姉に見送られて自宅を出た。
待ち合わせは自宅近くの公園。
自宅を出て10分。
住宅街にある公園には人っ子一人いない。
入り口の柵にもたれかかって待っていると、細い路地なのにワゴンが停まる。
こんな所に停めたら迷惑なのにわかんないのか…と思いつつも、今日は無駄に面倒事に首を突っ込んでギルベルトとの時間を減らしたくない、と、アーサーはスルーした。
ワゴンの中からバラバラと3人の男。
公園に用なのか…と、大して気にも止めずにいたのだが、いきなり二人に両腕を取られ、一人に口を塞がれた。
なに?!!!
抵抗するも3人がかりでワゴンの中に引きずり込まれ、口にはガムテープ、両手両足を縄で縛られて転がされ、上からバサッと布のような物が被せられる。
わけがわからない…が、どうやら大きな箱のようなものの中に転がされたらしく、身動きが取れない。
耳も耳栓で塞がれ、目もしっかりと目隠しがされているため、外の情報が全く伝わってこないのが恐ろしい。
本気で何が起きているのかわからず、しばらく暴れてはみたものの、縛られて箱の中ではなんの効果もないため、やがて諦めて状況が変わるのを待つことにした。
目が見えない…のはとにかく、音が聞こえないというのは案外堪える。
おそらく人間は普段は全く耳が聞こえない状況というのを体験することがほとんどないからだろう。
もう不安とストレスで吐き気と頭痛に見舞われるが、どちらも本当にどうしようもない。
ギルベルトは今頃公園で待っているのだろうか…。
約束をすっぽかしたとか怒ってないといいんだけど…と、こんな時なのにそんな事を思うのは、無意識に現実逃避をしているのだろうか…。
自分は殺されるんだろうか…と考えるとやはり怖い。
こんな事なら…告白の一つでもしておけば良かった…と思った瞬間、いや、どうせ死ぬなら振られて落ち込んで死ぬより、可愛がられている思い出抱えて死ぬほうがいいかもしれない…と、思い直す。
今ならまだ愛想つかされていないから、自分が死んだらギルベルトは保護していた子どもを哀れんで悲しんでくれるだろうな…と思うと、少し嬉しくなるあたりが色々末期だ。
しかしそんなアーサーの予想はしばらくして覆される事になる。
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