コードネーム普憫!腐女子から天使を奪還できるか?!3章_3

ギルに自宅前まで送ってもらい、礼を言って分かれると、アーサーは門の中に入り、郵便受けを覗いた。

中にはいく通かの郵便物。
それを持って自宅に入るが、姉はまだ帰っていない。
デートだと言っていたので今日は遅いのだろう。

それでも冷蔵庫にはレンジで温めれば良いだけの夕飯がきちんと用意されている。


確かに普通に大学生なのだと言う事を考えれば、毎日きちんとバランスの取れた美味しい食事を、自分が出かける時にさえ欠かさず作って行くと言うマメさは、色々な難点を差し引いても尊敬に値すると思う。

あれでおかしな趣味がなければ、ちょっと気の強いところはあるが美人でマメで、まあ女性としては上質の部類なのだろう。

そんな事を考えながら、アーサーは郵便受けから持って来た手紙を、チラシやDMと姉宛ての物と自分宛ての物に丁寧に分けていった。



そんな中で目にとまった1通の封筒。

アーサー宛ての何の変哲もない白い封筒だが差し出し人の名前がない時点で嫌な予感がした。

そのまま捨ててしまおうか…と一瞬思うが、中身を見ないままだとそれはそれで気になる気がする。

仕方ない。変な物なら即捨てよう…そう思ってアーサーはハサミで丁寧に封を切った。

………
………
………
そして絶句………


中には明らかに視線がカメラの方に向いていない通学中のアーサーの隠し撮り写真と小さなビニールのようなもの…に入った白い液体。

その小さなビニールのような物に関しては実物を見たのは初めてだが、姉の薄い本を読まされていたため知識としては知っている。
いわゆる使用済みコン○―ムと言うやつだろう

その一瞬で朝の気持ち悪さと恐怖がよみがえった。
いつもはいないでくれと思う姉なのだが、今日ほど自宅に居て欲しかった事はない。

本気で気持ち悪さと怖さで吐き気がした。


自宅内にあるのも嫌なのだが、外に捨てに行くのも怖い。
何重にも包んで最終的にゴミ袋の中にいれてしっかり口をしばって、蓋つきのゴミ箱の中に放り込んだ。


それから泣きながら何度も何度も赤くなるまで手を洗い、そして手を拭いて居間に戻って途方に暮れる。

写真は…どうしよう………




そんな時…すごいタイミングで携帯に電話。

ビクッっと身をすくめるも、発信者を見てホッとする。

…ギルベルトだ……


『今な、駅。帰りの電車待ってるんだけど、何も変わりはないか?
今日フランソワーズ遅いって聞いてたけど、1人で大丈夫か?』

普通なら家の前まで送って自宅の敷地内である門の中に入るところまで見届けているのだから、それ以上心配なんてしてくれないだろう。

家人の帰宅が遅いから1人で大丈夫かなんて、まるで小さな子ども相手のようだが、そんな過保護なまでの気づかいが、今は弱った心に染みいって行く。



「…ぎる……」

一度は泣きやんだはずの涙がまた溢れてくる。
くすん、くすんとそれを隠さず出すのは、ほんの少しの期待。

そうすれば何かあったのか聞いて、心配して自分を守ってくれようとするかも…と、ギルベルトの優しさを利用しようとしている自分はずるい…と思いつつも、良識とかを持つ余裕なんてどこにもない。

そんなアーサーの言外の“助けて”…を、ギルベルトはやっぱり汲み取ってくれるのだ。



――アルト、何かあったのかっ?!

と、問われてホッとする。

自分は1人じゃない。ギルが助けてくれる。
そんな安堵でアーサーは堰を切ったように泣きじゃくりながら、さきほどの封筒の話をした。

が、全てを話し終える前、アーサーが号泣しだしたあたりでもう、ギルは
『すぐそっち行くな?
電話はこのままで切るなよ?』
と、言ってくれた。

そうしてアーサーの話を聞きながら、『今改札出たから』…『今商店街抜けた』…『今は……』と、ずっと自分がアーサーの元へ着実に近づいている事を教えてくれる。

それはそう長い時間ではなかったのだが、ギルと合流するまでのアーサーにとっては非常に長い時間の心細さを確実に減らしてくれたのだ。

『よし、自宅前に到着だ。これからチャイム鳴らすけど、俺様だから、大丈夫だからな?』

いきなりチャイムを鳴らされたら、見知らぬ変質者に怯えているアーサーが驚くだろう…そんなギルベルトの気遣いらしい。

すごい…と思う。
ギルベルトは身体だけじゃなくて、心も守ってくれている気がする。

りんご~んと鳴るチャイムの音に、アーサーはその上で膝を抱えて丸まっていたリビングのソファから弾かれたように駈けだして行く。

ドアを開け、庭の向こうの門に視線をやると、さきほど分かれたばかりのギルベルトの姿。

急いで門を開けてその腕の中に飛び込むと、しっかり受け止めてくれた筋肉質なギルベルトの腕の中は、冬の冷たい風の匂いに混じって、何よりも安心するギルベルトの匂いに満ちていて、アーサーはほぉっとようやく安堵の息をついたのだった。



「よく1人で頑張ったな」
と、頭を撫でてくれる手。

親でもないし駈けつける義理なんてどこにもない。
そんな相手だからまず礼を言わなければ…と、他の相手なら思うところなのだが、ギルベルトの腕の中は安心感が溢れすぎて、そんな当たり前の事も思いつかず、アーサーは子どもに対するように言ってくれるその言葉にただ頷く。

そんな無礼も全く気にかける様子もなく、ギルベルトは
「アルト、そんな薄着で外いたら風邪引くぞ。
家ん中入ろうぜ」
と、うながした。

それからはいったん温かい紅茶を2人分いれてリビングに落ちつくと、ソファでアーサーを抱きしめながら、要領を得ないアーサーの言葉を根気強く聞いてくれる。

そして最後まで話し終わった時、ギルベルトは小さくため息をついた。

「わかった。とりあえずこれからは郵便受けはフランソワーズが確認するってことで言っておく。
あとは…そうだな、何かあったら絶対に俺様に電話してこい。
割合と遅くまで起きてもいるし、1人暮らしだから誰に遠慮しねえでもいいからな?
それは俺様との約束。絶対な?」

ゆびきり…と、差し出して来るギルベルトの小指にアーサーが小指を絡めると、ゆ~びきりげんまん…と、子どもの頃に聞いた耳慣れた歌を歌うギルベルト。


相手から許容されなければ連絡も出来ないアーサーに、ギルベルトはこうして連絡をしなければいけない理由をくれる。


姉の趣味にはいつだって反発をしてきたアーサーだったが、そこにほのかに宿り始める思いに、自分自身でもひどく混乱するのだった。


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