ということで、エリザになんとかフォローに入ってもらおうと、彼女が任務の時以外はほぼ常駐している女子ジャスティス控室、通称【乙女ジャーナル編集部】に足を運んだわけなのだが、そこで桜の目に入って来たのは1人の見慣れた人物。
遠子…元極東ブレイン部員。
本部に転属になるアーサーに随行。
そのまま有給を取って2,3日こちらで過ごすつもりが本部滞在中に極東支部が壊滅して、避難所が狭いから戻ってくるなと言われ、帰るに帰れなくなったので本部で思う存分萌え補給…という数奇な運命を現在爆走中の女性である。
同じブレイン部員でも本部とは当然仕事も違い、いつ帰るか分からない以上本部でも仕事を振れないと言う状況で一体どうやって過ごしているのだろうと思っていたら、ここに入り浸っていたらしい。
エリザともすっかり仲良くなって談笑中だ。
…楽しそうですね……楽しそうでいいですね……
そこ代わってっ!…お願いそこ代わって下さいっ!!!
という内心が声音に出ていたらしい。
思いのほか険しくなる声。
それまで笑顔で談笑していたエリザが固まった。
しかしながら遠子の方は全く気にならないらしい。
「あ~、桜さん、お疲れ様~」
と、ヒラヒラと手を振ってくる。
「…お疲れ様です……。
で?遠子さんはこちらで何を?」
引きつる笑顔にエリザが慌てて
「あ~、遠子ちゃんはほら、帰るに帰れないし本部ブレインでやれる事もあまりなさそうだから…」
とフォローに入ろうとするも、当の遠子はそれに対して真剣な顔で
「あ~、それなんですよっ!
実は大変な事が起こりまして…」
と言う。
大変な事…大変な事?
…………
…………
…………
アーサーさんが怪我した時の事とか…?
あの時はアーサーさんのことだけじゃなくて本部に敵が急襲するかもという危険もありましたし……
と一瞬思って、でも騙されませんよっ!と桜は思いなおす。
そう、彼女に限ってそんなまともな事を心配するはずはない…心の中でそう断言したのだが、なんと続いて遠子の口から出て来た言葉は、
「先日、敵が本部に攻めてくるところだったじゃないですか、あれでね、私気付いたんですけど…」
ということで、桜は驚きのあまりぽかんと口を開けて呆けた。
え?ええ??
遠子さんでもそんなまともな心配するんですか??
と、随分失礼な事を思ったのだが、やっぱり遠子は遠子だったらしい。
その後の遠子トーク…
「私の手元に残る数少ない…でも希少なアーサー君コレクションですね、これ、万が一私が部屋を開けていて戻る事が出来ない状態の時だったら避難させられないじゃないですかっ!
だからこの部屋の方が誰かしらがいる事が多いから持ち出して保管してもらえるかなと思って、この部屋に置いておくことにしたんですよっ!」
で、一気に力がぬけた。
そう…ですよね…遠子さんですもんね…
ええ、わかってました。わかってましたとも…。
ええ、わかってました。わかってましたとも…。
ガックリ肩を落とす桜。
そんな彼女にも構わず遠子トークは続いていく。
「それでね、ついさっき自室からここまでコレクション持って移動したわけなんですが、見て下さい、これっ!!」
と、まるで手の中でトランプのババ抜きのように広げる写真。
どれも年齢こそ違うがアーサーだ。
「これね、毎年のハローウィンイベントでのアーサーさんを激写してパウチしたものなんですけどねっ」
…そんなことまでしてたんですか…あなた…
と、もう突っ込みをいれる気力もなくため息で応える桜。
「これが今年の天使で、その横はほら、一昨年の魔女っ子っ!
でもって…この間、去年は猫耳アーサーさんだったわけなんですけど、私運ぶ時に大量に色々持っていたのでついうっかりそれを落としてしまいまして…。
もちろん、こちらについてすぐ気付いて慌てて廊下に拾いに戻ったら、なんとっ!!
ギルベルトさんがそれを拾われてびっくりした顔をなさっているじゃありませんかっ!!!」
…まあ…びっくりしますよね…。
いきなりパウチまでした猫耳アーサーさんの写真が落ちていたら……
私だって驚きます…
と、これも桜の心の声。
当然そんなものは遠子に届く事はなく、遠子トークはさらに続く。
「どう思います?」
と、しかしそう聞かれて
「え?どうって?何がです?」
と、返した自分の反応は正しいと桜は思う。
思うのだが、まるで察しが悪いなぁと言わんばかりに苦笑された。
「だ~か~ら~、私だって鬼じゃありませんからねっ。
ギルベルトさんが欲しいとおっしゃるならアーサーさんの可愛らしい写真くらい差し上げる程度の度量はあるわけなんですよ。
ただハローウィンバージョンは私のコレクションの中でも激レアなので、レアくらいのものに交換してもらおうと思うんですね。
でもほら、私内気で臆病なので。
いきなりギルベルトさんに写真交換しましょうとか言えないから…とりあえず先に弱みを握っておこうかとおもうんですけど…」
ごめんなさい、あなたの言葉が理解できません…
「だからね、これっ!
“可愛らしくフリルとレースで着飾ったアーサーくん“と”紳士的に着飾ったアーサーくん“の写真の二枚をギルベルトさんの通り道に落としてどちらか拾われたら、ああ、そういうアーサーさんがお好きなんですね…というところから交渉を……」
もう会話が宇宙になって来たので、桜は見ないフリ聞かないフリをする事にした。
そう、私はエリザさんにお願いにあがったんでした…と、当初の目的を思い出して、エリザの元へ向かう。
申し訳ありません。後はよろしくお願いいたします、お館様…
と、心の中でギルベルトに詫びをいれながら……
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