ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【前編】_3

「あーちゃんっ?!ちょ、待ったっ!!!」

プツっと切れた電話に向かって叫ぶ兄に、ベルは
「何かあったん?」
と気遣わしげに眉を寄せた。


アントーニョがアーサーの家でアーサーと暮らし始める前は、アーサーの方がカリエド家に泊まりに来る事もしばしばあったため、ベル自身もアーサーとは実の兄妹のように親しい。

兄の口から出てきた“あーちゃん”がアーサーの愛称であることも当然知っている。


「お兄ちゃん、なんかあったんなら、うちのことはええからはよ行きっ!」

と、何もかも心得たように、とりあえず言ってくれる妹の言葉に甘えて、

「おおきにっ!」
と、渡す約束をしていた参考書だけ押し付けるように渡すと、アントーニョはかけ出した。




家に帰る…そう言ってた。

アーサーはとても傷つきやすく物事を悪い方に考える質なため、人目のない自宅で一人にするのは心配だ。

以前、出会うきっかけになった殺人事件の渦中からようやく脱出しかけた頃、心配になって戻ってみたら、自分自身にカッターを向けていたことがあった事を思い出した。

――…一人にしたらあかん!

件の事件の賞金などで秘かに裕福になってからも、ほぼ贅沢をする習慣はなく、それまでと同様に普通の高校生をしていたアントーニョだが、今回は迷わず普段は乗らないタクシーに飛び乗った。


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