ヤンデレパニック―私のお兄ちゃん【前編】_1

ヤンデレ来たるっ!


あのっ、結婚して下さいっ!
はいぃ??

いきなり…本当にいきなりだった。
帰宅する学生でにぎわう駅のど真ん中。
ギルベルトは突然後ろから腕を掴まれた。

振り向いてみると女子高生。


見覚えのあるその制服は、確か従姉妹のエリザベータの通う有名ミッション系お嬢様学校である聖星女学院のもの。
もちろん当然の事ながら相手は知らない顔なわけで…。

ふわふわウェーブのかかった髪をカチューシャでまとめ、背はエリザベータより10cmは低いだろうか…。目はぱっちりとしてて、まあ可愛い。

というか…普通の男子高生ならこのレベルの容姿の聖星の女子高生に声をかけられたら舞い上がるかもしれない。
しかしギルベルトの口から出てきた言葉は…

「人間違いだよな?じゃ、」

言ってくるりとまた彼女に背を向けて歩き出した。

そう、ギルベルトはお嬢様学校の制服にだまされたりはしない。
なにせ美人でお嬢様学校に通う従姉妹で女の本性を見続けてきた男なのである。


しかしながらそこで

「待って下さいっ!!人違いじゃありませんっ!
ギルベルト・バイルシュミット様っ!!ちゃんと結婚して下さいっ!!


と、いきなり駅で絶叫されて、さすがのギルベルトも慌てて引き返した。


「あのっ!ちょっとそういう事大声で言わないでくれるかっ?
つか、俺ら初対面だよな?」

周りが何事かと振り返って見ている。

当然だ。いきなり公衆の面前で結婚を迫る女子高生。


下手すると”責任をとらないといけない様な事”をしておいて逃げた不埒な輩と取られかねない自らの立場を思って、ギルベルトは青くなった。
心持ち顔も引きつる。

それが余計にやましい男感を醸しだしてしまうわけだが、さすがにそんなことまで気を使う余裕はない。


「なんであんた初対面の男にいきなりわけわからない事言ってるんだよ?」
「初対面じゃありませんっ。
ギルベルト様、私を命がけで助けてくれたじゃないですかっ!
あの夜はあんなに優しかったのにっ…私の事忘れちゃったんですか?」

うっああ~~~有罪確定認定されちゃうじゃねえか、俺様っ!

ますます焦るギルベルト。
タラタラ額を伝う冷や汗。

周りの人非人でもみるような視線が突き刺さる。

「あ、あの…真面目に人違いじゃ??」

頭脳明晰、運動神経バツグンな上に、真面目な顔をしているとイケメン…。

3拍子揃っているのに何故かモテた事がほとんどないという不憫なこの男は、殺人事件には強くても、恋愛トラブルにはからっきしだ。
ひたすら焦っている。


そして…いつもは気配に敏い彼も、あまりの事に動揺しすぎて、そのやりとりを実は遠くで見ている人影には全く気がつくことはなかった。


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