ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十一章_10

「あのね、ティベリスさんの話も悲しい話ではあるんだけど…それとは別に俺ちょっと気になって…」
と、そこでフェリシアーノは意を決したように顔をあげた。

「気になること?なんだ?」

「うん、あのね、魔王の卵が最近生まれたって言ってたじゃない?
単なる偶然かもしれないけど、俺もなんだか白い竜みたいなのから卵が生まれる夢見たんだよね。
竜の腹のあたりには黒い髪の人間がいて…金色の卵が生まれて…その人は舌噛んで死んじゃって……竜の中に完全に取り込まれて行っちゃったの。」

え?!
「ちょっと待って。フェリシアーノ、それってさ、何か他に特徴とかは?」

フランシスが身を乗り出すと、フェリシアーノは、ん~~と考えこんで、あ、そうだ!と手を打った。

「指輪っ!右手の薬指に青い石の入った指輪してたっ!」

「まじかっ?!!」
と答えたのはフランシスではなく、ローマだった。

「えと…それって…たぶんアーサーがティベリスの部屋に行く途中で見たのと同じ光景だと思うけど……」
おそるおそると言った感じでフランシスがそう付け加えると、ローマは頭を抱えた。

「よりによって桔梗か……」
「桔梗さんてあの桔梗さん?!」

ローマのつぶやきを拾ったフランシスが驚きの声をあげた。
それにローマは本当に苦い顔で答える。

「ああ、その桔梗だよ。
フェリのクラスに親戚がいる。
おめえらの2代前の月の適応者だ。
黒髪にターコイズの指輪の強力な魔術師なんてそうはいねえ。
ちょっと前から行方不明になってたんだが……そうか…死んだのか……」

魔王の卵が生まれたと聞いた時よりよほど憔悴した表情を見せるローマ。

「相方に…サディクに言ってやらねえとな……。」

「ああ…俺当時子どもだったけどさ、あの人達の舞台よく観に行ってて…芝居とは思えないくらい想い合ってる感じだったよね…」

元々舞台の方をメインに考えて学園に入ったフランシスは代々の舞台を見に行っていた。
いかにも太陽の適応者らしく存在感にあふれた大柄のパートナーにひっそりと寄り添う、まさに月のような人だった…と、思い出す。

「なんつ~か…代々月の死亡率たけえんだよな……。
そのたびすげえ悲しむ太陽見てんのマジつれえわ……気持ちわかるだけにな…まじつれえ…。」

元々全属性中、月と緑は支援がメインで戦闘向きではないだけにパートナーと離された時の死亡率の高さはダントツだ。

そのためパートナーは彼らに対して庇護しようとする気持ちを強く持つ。
特に太陽はその傾向が非常に強い人間が多い。
それだけに亡くした時の喪失感は大きく、後を追う者、正気を失くす者も少なくはない。

学園の卒業者だけではなく、カンパニーの方でも魔力の属性によってコンビを組むため、そうやって月と組んだ太陽の適応者が何人も泣き崩れるのをローマは日々見ている。

最強の攻撃力を持つ太陽と最高の支援能力を持つ月…しかし逆に自身の自衛能力という意味で言えば月は最弱で、まだ自己回復が出来る分、緑の方がマシだ。

ポタリ…と、普段強気で剛毅な理事長の目から涙がこぼれ落ちる。

それでもすぐ、
「あ~ちくしょうっ!泣いてる場合じゃねえっ!とにかくその卵とやらをぶっ潰すぞ!」
ズズッと鼻をすすって、乱暴に目を袖口でこすった。

「これ以上月のお姫さん達を犠牲にするわけにゃあいかねえからなっ。
ギル、ちょっとこれから理事長室に来いっ!相談がある!」

ガタっと立ち上がってローマはギルベルトの腕を掴むとズルズル引きずっていく。

「ルッツ、てめえもご主人様と一緒に来いよ」
と、そこでさらにフェリシアーノの肩にとまっているルッツに声をかけると、ルッツはそれを理解したようにピィっと鳴くと、パタパタと飛んでいき、ギルベルトの頭の上に収まった。



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