ローズ・プリンス・オペラ・スクール第四章_2

こうして中に入ると理事長は理事長のデスクに座ることなく、普通にソファに腰を掛け、
「ま、楽にしろ。」
と、正面の席をアーサーに勧める。

アーサーは緊張しながらも、失礼します、と、断ってその妙にふかふか過ぎて落ち着かないソファに座って身を固くしながら、この学園一の権力者に視線を向けた。


ローマはそんなアーサーに、まあ、そんなに固くなるなよ、と笑った後、言ったのだ。

――対の一番の仕事ってのは、パートナーを好きになることだ。
と。


「と…いえ、カリエド先輩を好きに…ですか?」

アーサーは意外な言葉に目を丸くするが…そこで少し眉を寄せたローマに

「お前、パートナーをそんな風に呼んでんのか?」
と言われて、ふるふると首を横に振った。

「いえ…その…部屋だと……トーニョ……って呼ぶように言われて……」

未だ慣れないその呼び方にアーサーは赤くなるが、ローマはガハハっと笑う。

「そっか。そりゃあいつが正しいな。そう呼んでやれ。」

とりあえず何を言われるのかと戦々恐々としていたアーサーはまず出鼻をくじかれた気分でポカンと呆けた。

確かにパートナーとの関係は良好なことに越した事はないが、それ以前に色々するべきこととか知っておかなければならない事があるのではないだろうか…。

そんな考えが顔に出てたのか、ローマの手がスッと伸びてきて、太い指が眉間をツンツンと突いた。

「眉間にシワ寄ってんぞ。せっかくの美人が台無しだ。」
と言われて慌てて無理に笑みを浮かべる。

そんなアーサーにローマは苦笑した。

「まあな、アントーニョは相手次第で、そのあたりを一番上手くやるか、一生できねえかどっちかだと思ってたんだが、とりあえず奴の方は大丈夫そうなんだがな…問題はお前さんの方か…。」

自分が未熟なことはよくわかっている。
太陽の石の適応者で華がある大スターであるアントーニョの相手役なんて本当に釣り合っていないのも……

なまじずっとファンだったがゆえに、倍堪えるその言葉にジワリと目頭が熱くなって視界が潤んできた瞬間……

バ~ン!!!!

いきなりドアが開いて、アーサーはその音にビックリして戸口を振り向いた。


「おっちゃん……何しとん?
たとえおっちゃんかて、俺の大事なお姫さん泣かすような事許さへんで?!」

グイっと腕を掴まれてソファの横に来て立つアントーニョに抱き寄せられて、アーサーは目を白黒させた。


「アーティ、大丈夫か?意地悪言われたん?
やっぱ親分が付いてきてやったら良かったな。堪忍な。」

目尻にたまった涙を褐色の指で拭って、そう優しく声をかけてくるアントーニョに、そうじゃない、単に自分が未熟なのが申し訳なさすぎて居た堪れないだけだと説明しようと口を開くが、高ぶりすぎた感情のせいで嗚咽しかでない。

「泣かんでええよ。何言われたって親分が守ったるから。
なぁ、泣かんといて?」

抱き寄せて頭を撫でてくれる手の温かさになんだかホッとしていると、それまで黙ってその様子を見ていたローマがアントーニョに声をかけた。

「トーニョ、お前もしかして何かお姫さんに起こってるような気がしてここに来たのか?」
「そうやけど?」

まだ険しい表情でまるでローマから隠すようにアーサーを抱え込んだまま答えるアントーニョに、

「そっか。そりゃ良かった。」
と、何故かローマは嬉しそうに笑った。

キョトンとするアントーニョとアーサー。
口を開いたのはアントーニョの方だ。

「誤魔化されへんでっ!何アーティ泣かしとったん?!」
とやはり険しい表情のまま言うアントーニョに、ローマは

「そう言えばお前にもそのあたり説明すんの忘れてた……っていうか、お前に言っても無駄かと思って説明してなかったが、まあ聞くだけ聞いといてもいいだろ。
二人共座れ。」

と、座を進めた。

アントーニョはそれに一瞬警戒するが、

「俺が何言ってもお前さんが守るからいいんだろ?」

と、言われれば否とも言えずに、渋々アーサーをソファに座らせて、その肩を抱いて抱え込むように自分も腰を掛ける。

――うん、ま、始めるか。

と、二人が腰をかけたのを見て、ローマはニコニコと笑って口を開いた。

「さっきな、お姫さんに話してたのは対にとって一番の仕事はパートナーを好きになる事で、お前さんの方はそれが出来てっから大丈夫だから、あとはお姫さんの方だなって言ったら泣かれたわけだが……まあそこでお前さんが乱入してきて話途中になっちまったから続けるぞ。

まずな、どうして好きになるべきかって事だ。

今アントーニョがお姫さんが泣いているのがなんとなくわかっちまってここに来たのは何も偶然じゃねえ。
太陽と月のそれぞれの力が今リンクしてて、アントーニョが無意識に気にしていたお姫さんの状態を太陽の石が月の石を通して適応者であるアントーニョに知らせたってわけだ。

じゃあ対の石持ってりゃ必ずわかるかって言うとそういうわけでもなくて、強い好意を感じて気にしてねえと石がリンクしてくれねえんだ。

それが高じると、太陽の石が月の石を守ろうとして普段以上の力を出してくれる。
逆もしかりだ。

で、さらにそれが双方向になると、ソロだと出来ねえ魔法が使えたりする。

俺ん時は俺の炎の大剣で切った相手の体力を自分の体力に変える効果とかついたな。
敵エンドレスでぶった切れる無敵状態だった。
そりゃあ快適だったぞ~」

ローマは懐かしげに目を細めて笑う。

――まあ…相方が20代で亡くなっちまったから…短い間だったけどな…。

と、それから少し視線を落として遠い昔を思い起こすように組んだ指先を見つめていたが、すぐ気を撮り直したのか顔をあげた。

「ま、どういうモンになるかはわからねえし、一種類とも限らねえ。
とにかくソロより強くなれるが、パートナーと親密になると良くも悪くもお互いの状態がお互いに影響する運命共同体になるわけだ。

もちろん戦いのためってのが大前提で建前ってのはあるんだ…。

だが、これは経験者として言わせて貰えれば、親密度が上がれば相手に何かあった時の喪失感っつ~のがすげえけど…まあなんていうか…一緒にいられる間はすげえ満たされる。

あの充実感は石の適応者でパートナー持った人間ならではだな。
本当にパートナーと心が通じる関係を築けたら、その後の喪失感を考慮にいれても、適応者に選ばれた事を後悔はしねえぞ。

これはおっちゃんが保証してやる。」

――その後何人女作ろうと…結婚しようと…ガキができてそのガキが大人になって孫生まれても…それはそれで嬉しいもんだが、あの頃の完璧に欠ける事のねえ充足感には敵わねえ…

ローマは少し寂しそうな…悲しそうな…複雑な表情でそう付け足した。
しかし、すぐ気を取りなおす。

というわけでだ、と、ローマは二人の顔を交互に見比べた。

「まあ…トーニョの方はお姫さんの事めちゃ気に入ってるみてえだし、すでに石の効果出てるけどな。
お互い対に選ばれたからって言っても皆が皆、最初っからお互いに好意を持てるわけじゃ当然ねえわけだ。
今年はフランとこなんかはなかなか苦戦してるみてえだしな。」

苦笑するローマにアントーニョとアーサーもあのコンビを思い出して苦笑する。

「ま、離れに二人きりで放り込んで慣れろっつ~のも距離縮めるために行ってる試みの一環なんだが、その他にそのためにやってるのが演劇ってわけだ。
あれは何も趣味と利益兼ねてってだけじゃねえ。
親しくお互いが好意を持っている役柄を演じる事によって、相手に擬似好意を持たせて、最終的に本当の好意へと結びつけようって、まあそういうわけだ。」

演劇と戦闘……一見全く結びつかなかったロープリの適応者の2つの義務にそんな関係性があったのか…と、アーサーはようやく合点がいった。

「だから、結論なんだが、最初にいったことな。

――お互い好意を持て。
それが最終的に適応者としての義務を全うする力になる。
あとは難しい事は考えねえでもなんとかならぁ。

あ、でもお前の方はちっと考えてやれよ?アントーニョ。

1年早く舞台に立って注目浴びてるわけなんだからな?
お姫さんは同学年にはやっかみ受ける事もあるだろうし、女っ気のねえ男子校の中のヒロインなわけだから、上級生には変なちょっかいかけられることもあるだろうしな。

戦闘ともなれば、慣れてないお姫さんの方がまず狙われる。
自分だけ調子に乗って突っ込むなよ?」

「そんなんわかっとるわ。
おかしなちょっかいなんかかけてくる奴おったらボッコボコや!」

――おっちゃんかて容赦せえへんで。

と、アーサーをギュウギュウ抱え込みながらそう言うアントーニョに、

――そいつぁ~頼もしいこった。

と、ローマは豪快に笑った。





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