ヒーローの挑戦
「アントーニョっ!勝負なんだぞっ☆」
その日は自己紹介と連絡事項だけで下校だったので帰り支度をしていると、また入り口のあたりが騒々しい。
どうやら今回は主役3人勢揃いでお迎えに来ているらしい。
アントーニョの他にギルベルトとフランシスの姿も見える。
まあフランシスはもしかしたらアルフレッドの迎えなのかも…と思っていると、案の定入り口に駆け寄るアルフレッド。
そのまま二人で帰るのかとおもいきや、前述のセリフである。
「へ?」
あまりに唐突な申し出に、アントーニョはぽか~んと自分を指差す。
「ちょ、お前やめなさいっ!何言ってるの?!」
と、慌てるフランシスと、一人完全第三者で面白そうなことが始まったとばかりにニヤニヤとそんな二人の友人を交互に見るギルベルト。
そんなやりとりですら妙に絵になって、同級生達が熱い視線を送っている。
そんな周りにも構わず、アルフレッドは事もあろうに
「アーサーの相手役の座をかけて勝負だっ!」
と、言い放った。
やめろ!巻き込むなっ!!!と、頭を抱えるアーサーをフェリシアーノと菊が両側かばうように抱き寄せる。
「ほぉ~~。」
アントーニョは笑みを浮かべた……が、目が全然笑ってない。
「ちょ、トーニョ、嘘だからっ!子ども相手に本気になんないでねっ?!」
慌ててフォローを入れようとするフランシスだが、当のアルフレッドは
「俺は子どもじゃないんだぞっ!手加減なんか要らないから正々堂々と勝負だっ!」
と、ピシっとアントーニョを指さした。
「ええで?ただし…親分勝ったら二度とアーティに変なちょっかいかけんこと…だけやすまさへんで?」
上着を脱ぐアントーニョに、それまでニヤニヤ見ていたギルベルトが顔面蒼白になる。
「待てっ!アントーニョ待てっ、なっ?!」
と言いつつその間に入ると、背中を振り返って
「フラン、いいからそいつ逃がせっ!!」
と切羽詰まったような声で言う。
昨日二人して二人がかりで敵わず殺されかけた記憶も新しいので必死だ。
フランシスはそれを受けてアルフレッドの腕を取って逃がそうとするが、当の本人が
「ヒーローが逃げるなんてとんでもないんだぞっ!」
と、動かない。
「…って言う事らしいで?ギルちゃんもフランもちょおどいといてや。」
ポキポキ指を鳴らすアントーニョを自力で止めるのを半ば諦めたのか、ギルベルトはその辺りにいる一年生に
「急いで理事長呼んでこいっ!」
と、命じて理事長室へと急がせた。
…と同時くらいにアントーニョにふっ飛ばされるギルベルトと、アルフレッドにふっ飛ばされるフランシス。
「アーサァ~!!!止めろぉ!!!!マジやべえっ!!!!」
諦めずに叫ぶギルベルトの声に、アーサーが弾かれたようにアントーニョに駆け寄ると、一瞬闘気が和らいだ。
そしてアントーニョは何か言おうとするアーサーの唇に指先を押し付けてそれを制すると、ニコリと優しく微笑んで指から炎の宝玉を外してアーサーの手のひらに握らせた。
「単なる模擬試合やから大丈夫やで?
親分かて鬼やないからハンデくらいはくれたるし。
いくらなんでも石なしで死なへんやろ?」
柔らかい口調でそう言うアントーニョがそんなにひどい事をするようには到底思えず、アーサーはコクリとうなづいた。
――あぁああああ~~!!!!
最後の頼みの綱が懐柔されて、ギルベルトとフランシスは二人揃って頭を抱えた。
そんな先輩二人の心配もなんのその、アルフレッドは
「ハンデがあったって負けたら負けを認めて、アーサーの相手役の座は明け渡してもらうよっ!」
と、手加減は要らないと言った前言をちゃっちゃと撤回する。
「ええで?親分は絶対に負けへんからな。」
と、それにアントーニョが応えて、結局一同体育館に移動することになった。
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