ローズ・プリンス・オペラ・スクール第二章_3

怖いと思っていた人物が思いのほか優しくて、ずっと気にかかっていた小鳥の問題も解決した。
アーサーは楽しい気分になって、ついついご機嫌で歌を口ずさむ。
冷たいばかりと思っていた雨も、ほあた☆と少し魔法をかけてやると、アーサーの心を代弁するようにクルクルと踊り出した。

中等部から戦闘要員も育てているこの学校に来て、あまり特別視される事はなかったが、先天的に強い魔力を持っていて普通に扱えてしまっていたアーサーは、小学生の頃はそれで随分と気味悪がられて避けられていた。

なので、魔法を堂々と使ってもその巧みさに感心はされても気味悪がられないこの学校に来ても、どうも人前で必要以上に魔法を使うのがためらわれる分、一人の時にはこうして戯れに魔法を使うところがアーサーにはある。

今回もそんな感じで歌に合わせて雨のしずくを踊らせていたら、そこに朗々とした綺麗な歌声がはもった。

――バレた!…どうしよう…

自分以外の人間が側にいる…そんな状況で魔法を使ってしまった……。

もう問題がなくなって久しいのに、ずっと染み付いてきた感覚が抜けず、アーサーは焦って半泣きで声の方を振り向いた。

視界が潤んで前がよく見えないが、

「驚かせてもうて堪忍な?」
という声は憧れたあの人物に似ている…が、ありえないだろう。

風の石の適応者に会った事自体があまりにありえない偶然だ。
その上“彼”に会えるなどとはあまりにありえない。

そんな事を考えている間に人影はスッと音もなく近づいてきて、アーサーを引き寄せた。
流れるような動きだった。

「…1年……めっちゃ待ったんやで?お姫さん。
ようやっと会えて嬉しいわ。

――もう……離さへんよ?――」

憧れの人物に似た声の主にいきなり抱き寄せられて手に口付けられてアーサーは動揺した。

――“彼”と同じ褐色の肌…

それだけで十分すぎるほど心臓が激しく脈打ち、顔から上が熱を持ちすぎてクラクラする。


「お前誰だ?いきなりなんなんだよっ!」

これ以上こうしていたら意味不明な叫び声をあげそうな気がしてきて、そう言うと、降ってきた言葉は…

――自分親分の事知らへんの?
親分…親分って言ったっ!!!
ああっ!!!!
かの人がいつも使う一人称に信じられない気持ちで顔をあげると、そこにはここ1年間ずっと観客席から見つめ続けたエメラルドの瞳。

「オーラ、親分やで?」

――1度でいい…その瞳に俺を映して?
ずっと心に抱えていた願いが叶ってしまって…しかもこんな至近距離でその腕に抱きしめられた状態で………気を失うかと思った。



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