スペイン親分の困惑
何しろ突然の告白だ。
信じてもらえないというのは想定の範囲内だった。
しかし…いきなり血を吐いて倒れられるのは予想をはるかに超えていた。
そこまで自分の事が嫌いなのか?と思えば、別に特別な好意を持っていない相手だとしてもかなりショックだ。
考えてみればスペイン自身は比較的人当たりが良いため、オランダの反抗期的な何かを除けばヨーロッパでそこまで嫌われた経験がない。
そう…嫌われるという事に耐性がないのだ。
それでもとりあえず倒れたイギリスをそのままにしておくわけにもいかず、呆然としつつもイギリスを横抱きに抱え上げて室内に入ると、とりあえず居間のソファに寝かせて自分の薄手の上着をかけておく。
本当は寝室まで運んでやったほうがいいのだろうが、親しくない…というより、血反吐を吐くほど嫌いな相手に勝手に寝室へ入られれば、イギリスの機嫌は地の底まで急降下することだろう。
それは避けたい。
というか、もう帰りたい…帰ってしまおうか……。
それでも仮にも血を吐いた相手をこのまま放置するわけにも行かないので、誰か人を呼んで任せないと…と、携帯を取り出すが、考えてみればこういう場合にイギリスの面倒をみる相手といったら、フランス一択だ。
それに気づいた瞬間、あのニヤリと勝ち誇った嫌な笑みを浮かべる髭面が脳裏を横切る。
クソー!絶対に負けへんでっ!!
そこで再度無駄に燃え上がる闘志。
…スペインは妙なところで頑固で意地っ張りだった。
「まず血、拭いたらなあかんな…。」
と、スペインはハンカチを水で濡らして、イギリスの血で汚れた口元を拭いてやる。
――うあ~、顔ちっちゃぁ…まつ毛ながぁ…
そう言えば上司同士が結婚していた頃から大国である自分に威圧感でも感じていたのか目が合うと逃げられていたため、こんなに間近で顔を見るのは初めてかもしれない。
顔だけは可愛いと繰り返すフランスの言葉は全く事実だと思う。
というか…本当の子供時代ならとにかく、この歳でこんなに幼げなのがすごい。
これで一時は世界の覇権を握っていたのだから驚きだ。
何か怖い夢でも見ているのだろうか…
特徴的な太い眉が寄って、今は瞼に閉ざされた大きな目の目尻にガラス玉のような涙の粒が溜まってポロリポロリと零れ落ちる。
――なんや…かっわ、かわえぇ~~
そんな幼げな様子に、子供好きのスペインは釘付けだ。
「…大丈夫やで?怖いモンもつらいモンもなぁんも近寄らせへんからなぁ。
親分が側におったるからな~」
そう言って半身起こさせて抱き寄せると、無意識にかギュッとスペインの胸元を力なく握りしめる手に、心まで鷲掴みにされた。
これは…もうフランスに引き渡している場合ではないのではないだろうか…。
今現在嫌われているとしても、嫌われている原因を聞き出して改めてでも、交際をOKさせるべきだ。
こうして思い込んだら他がしばしば抜け落ちるスペインの脳裏からは、当初の目的がすっかり抜け落ちた。
そして、その頭にはただ、唐突に…ストンと落ちてきた恋心だけが残ったのだった。
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