何故オスカーの事を中途半端に放置しようとしているかも…。
ただ、確実に悪い方向に進めるとわかっているわけではないので、今の時点で命がけになりかねないのに反対をするのは建設的ではない。
今は本当にやばそうに見えた時にすぐ割って入れるようにだけ準備しておくくらいにしておくべきだろう。
幸いアントーニョは全員揃ってインする事を望んでいるようではあるので、その日はノートPCを抱えて寮長室へ。
アーサーは日中はずっとアントーニョが部屋で抱え込んでいたらしく顔を見なかったので気にはなっていたが、ギルベルトが部屋に入った時にはまだアントーニョ、アーサー共にきてはおらず、フランシスがせっせと自作の菓子を並べていた。
味は保証付き。
いつも見た目もしっかり気にする派ではあるが、今日は特に綺麗と言うよりも可愛らしい感じの菓子が多いのは、フランシスもやはりなんのかんの言ってもアーサーに対してはギルベルトと同様の印象を持っているのだろう。
「今日の菓子はなんだか可愛いな。」
とギルベルトがクマさんクッキーに手を伸ばすと、案の定
「うん、クマさんとか抱きしめてたしね。見かけどおり実年齢よりちょっと幼い感じなのかなぁと思って、そんな感じにしてみたのよ。」
と、フランがパチンと片眼をつぶって見せた。
「まあ…お兄さん血生臭いの苦手だし、争うのも嫌いだし、困ってないなら色々二人で進めてもらって構わないけどね、ギルちゃんきつくなったら言ってね?
助けはしないし出来ないけど、美味しいモノくらいは用意するよ?」
と、その言葉にクッキーに伸ばしていたギルベルトの手がピタッと止まる。
ゆっくりと視線をフランシスに移せば、ん?と、フランシスは首をかしげて微笑んで見せる。
あ~こいつそうだよなぁ…と、ギルベルトは苦笑して、なんでもねえ、と、またクッキーに手を伸ばした。
敢えて空気を読まずに空気をぶち破って自分が必要だと思う事を通すのがアントーニョなら、敢えて空気が読めないふりで、そっと相手のフォローをするのがフランシスだ。
有能で実行力はあるがしばしば緊迫する自分とアントーニョが、それでも完全に修復不可能なレベルで決裂したりしないのは、フランシスがクッションになっているためだ。
自称する『お兄さん』の言葉通り、決して自分が争いの中に入って来ないでフォローに徹して面倒をみるフランシスは、実は一番意思が強いのかもしれない。
そんな事を考えながら、クッキーを咥えてPCの準備をしていると、アーサーを連れたアントーニョが入ってくる。
「オーラ、ギルちゃん、俺らのPCもつないだって」
と、ノートPC二台をギルベルトに預けるアントーニョに、
「あ、電源くらい自分で……」
と、アーサーが手を伸ばすが、アントーニョはその肩をしっかりと両手でつかんで
「アーティはこっちやで。」
と、反転させた。
その視線の先にはフランが用意した大量の菓子の数々。
うわぁ…と、小さく歓声をあげて目を輝かせる様子に、悪友3人が3様に微笑ましげな視線を送る。
「今日は坊ちゃんのために張り切っていっぱい作ったからいっぱい食べてね。」
とのフランの言葉にアーサーはコクンと頷いて、しかしハッとしたようにギルベルトを振り返るが、そこで
「別に電源確保するだけだから自分のついでだし気にすんな。
それよりフランが今日一日張り切って作った菓子だからな、頑張って平らげろよ。」
と、笑って言うと、サンクス、と、ギルベルトに小さく礼を言ったあとに、ゲームしながらでは食べにくいであろうプティフールにまず手を伸ばした。
どうやら今のところ、非常に和やかに楽しく過ごさせてやっているらしい事にホッとしながらも、ギルベルトは延長コードを二つの大きなソファの側にそれぞれ伸ばし、その一つには自分とフランシスの、もう一つにはアントーニョとアーサーのPCの電源をさす。
そうして一通りの準備を終え、前方を見ると、アントーニョの足の間に座らせられたアーサーはご機嫌で菓子を頬張っていた。
(や…やべ……なんだよ、こいつ、可愛いぜっ)
ギルベルトも実は弟がいるだけに兄気質。
キツそうな顔立ちなので、そうは見えないが子どもも小動物も大好きだ。
黄色い小さな頭を撫でまわしたくて右手がうずうずするが、それをやったら確実にこの部屋は修羅場と化す。
気合いと根性でわきわきと落ち着かない右手を握りしめると、素知らぬ顔で
「ほい、出来たぞ。トーニョとアーサーはこっち移動しろ。」
と、並べて置いたPCの前のソファから立ち上がって、自分はフランシスの隣に移動した。
「ねえ、今日は何するの?」
久々にギルベルトの隣でインしながら聞くフランシスに、アントーニョはきっぱりと宣言する。
「オリジナルミッション。いっちゃん大事なやつやで。」
「へ?そんなんあるの?」
と驚いて隣を振り向くフランシス。
「あ~…まあ…な。ゲームとは関係ねえけどな。」
と、ギルベルトの方は察して苦笑する。
「どんなミッションなんだ?」
と、こちらも意味がわかっておらず目をまん丸くしてキョロキョロするアーサーに、隣でアントーニョが片手で顔を覆って悶えている。
ギルベルトも内心は悶えるが、表に出したら乱闘騒ぎになりかねないので、表面上は飽くまでポーカーフェイスだ。
「え~とな…とりあえずストーカー対策な。
昼間言うたやろ?
アーティは親分の大事な子ぉやさかい、アーティにおかしな事言うても返事はさせへんし、必要なら親分が全部答えるからって言うたるって。
それや。」
「あ…それか……」
「おん。アーティはとにかく親分にくっついておればええからな。」
「うん。」
すっかり任せきった安心しきったような目でアントーニョを見あげるアーサーに、ギルベルトは内心ホッとする。
どうやらアントーニョ本人が言っていたように、危害を加えたり本人のためにならないような事をしている様子は一切なさそうだ。
「俺様は?何か手伝う事あるか?」
と、安心したらスッキリしてきた胃に空腹を感じて、美味しそうなフィナンシェに手を伸ばしながら言う。
「とりあえずこの前の海岸とこに呼び出して話そう思うとるから、その辺で釣りでもして待っといて。
で、話に入れそうやったら、親分がアーティほんまに抱えこんどる事、ギルちゃんも言うたって。
明日はアーティも一応試験やし、疲れさせたら可哀想やから、今日やるのはそのくらいやな。」
「了解。まあオール5取ってるくらいなら全然問題ねえとは思うが、勉強でわかんねえことがあったら聞いてくれ。
俺様こう見えても成績学年主席だしな。」
「ああ、そうなんや。ギルちゃん勉強だけはできんねん。まあ童貞やけどな。」
「ああ、うん。童貞だよね。」
「それ関係ねえだろぉぉ~~!!!」
と、いつものお約束のやりとりに。
そんな和やかな(?)空気の中、時間は過ぎ、8時になって、4人はそろってゲームにアクセスしたのだった。
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