その事実に気付いたのは、実は3人の中で一番恋愛ごとに疎いギルベルトだった。
いや、恋愛に疎いから気付いたのか……。
インしてすぐアントーニョはオスカーにメッセを送り、パーティ4人全員海岸に移動した。
フランとギルはとりあえず一応部外者という形で少し離れて釣りをしつつ待っていて、応対はトーニョがする事になっている。
(なんつ~か…自分のお気に入りにちょっかい出されたら、トーニョもっとブチ切れて止められなくなるかと思ってたから、意外だったな…)
ちらりと正面でアーサーと並んで座っているアントーニョを見ても飽くまで笑顔なので、普段の魔王様を知っているギルベルトとしては不思議だったわけなのだが、それを隣に座るフランシスにこっそりウィスで送ってみると、フランシスもチラリと前方に視線をやり、そしてギルベルトの方を見て苦笑する。
(ギルちゃんてさ…頭良いけど、そういう感情の機微には疎いよね)
少し悪い顔で言うフランシスをいぶかしげに見るギルベルト。
あ~あ、これはわかってないね…と言わんばかりにまた小さく笑うと、フランシスはまたカチャカチャとキーボードに指を走らせた。
(たぶんね、オスカー怖さに坊ちゃんトーニョにすがるからね。
だから完全に坊ちゃんを捕まえるまでは、諌めはするけどオスカーにトドメは刺さないんじゃないかな。)
…マジ…かよ……。そういうことか。
と、その言葉にギルベルトは片手を額にやって天井を仰ぐ。
そんなギルベルトにアーサーが不思議そうな視線を送ってきたので、
「ああ、なんでもねえ。ちょっと個人的な事を思い出しただけだ。」
と、気にすんな、と、ばかりに笑って見せて、ついでにチラリとその隣のアントーニョに視線を向けると、ニヤリと笑われる。
どうやらギルベルトとフランシスの会話をなんとなく想像できているようだ。
皆トーニョをKYなんて言うけど…KY?ふざけんな、AKYだろうよ…と、思うものの、とりあえずどうしようもないので黙っておく。
そんなやりとりをしているうちに、海岸にオスカーが到着したらしい。
別にディスプレイの向こうの事なのに、アーサーが片手でアントーニョのシャツの裾をぎゅっと握りしめ、それに対してアントーニョが嬉しそうに
「大丈夫やで。親分が守ったるからな。」
とアーサーの頭を撫でているところをみると、フランシスの予想は当たっているのだろう。
ディスプレイの中ではやはりトーニョにくっついているアーサー。
リアルと丁度同じくらいの身長差なため、ぴったりと寄りそうアーサーの額のあたりにトーニョの顎があり、すっぽりと抱え込まれている感がある。
「オーラ、呼びだして悪いなぁ。」
と言いつつも、悪いとは全く思っていないような空気。
『この子は親分のやから。手ぇだしたら潰すで』とばかりのドヤ顔だなと思っていたら、モロ
「でもな、一言言うておきたかってん。
この子な親分の大事な子ぉやから、手ぇ出さんといてな。
おかしなちょっかいかけてきたら、潰さんとあかんようになるで?」
と、まさにそのセリフを言うので、ギルベルトはむせて咳込んだ。
それを見てフランは事情を察して苦笑し、オスカーが来た事で不安げにアントーニョにくっついていたアーサーは不思議そうな視線を送り、そして…それに腹をたてたアントーニョが机の下から蹴りを入れてくる。
「ギルちゃん、気ぃ散らす事せんといて。今大事なとこなんやから。」
と、表面上は苦言を呈するような様相でそう言うので、ギルベルトも
「わ、悪ぃ。ちょっとむせた。」
と、片手をあげて謝罪した。
しかしながら、ディスプレイの中ではさらなるカオスが待ち受けていた。
「この子におかしな質問してきても俺も隣で全部見とるし、スルーさせるから無駄やで?
せやからどうしても必要な質問やったら俺の方に送ったってな。」
と、続けるアントーニョに対して、パ~ン!!!!と感動した時の効果音と共に
「何それ素敵っ!!!!」
と、いきなり返してくるオスカーに、さすがのアントーニョもぽかんと呆ける。
アーサーは最初のパ~ン!!!ですでにびっくりしすぎてアントーニョに抱きついているし、フランシスも目を丸くして固まったままだ。
そんな中で…唯一ギルベルトが悟る。
ああ、これもしかして…あれか………
腐った女子…腐女子……=男性同士の恋愛を扱った小説や漫画などを好む女性のこと。
そんな知りたくもなかった知識がクルクル回る。
何故即悟ったかと言えば、ギルベルト自身の従姉妹が重度のソレだからである。
「オスカーって…もしかして腐女子か?」
と、ゲーム上で尋ねてみれば、オスカーはゲームデーターなのだからありえないのだが、どことなくキラキラとした目で
「ギルの知り合いってことは……もしかして寮生なの?!リアル寮生?!!
上級生と下級生の禁断の愛っ?!!!」
と、すごい勢いで食いついてくる。
すごくいや~な予感がした。
「お前…もしかしてE…か?俺様の従姉妹の……」
相手が従兄弟のエリザであれば、自分に似せたキャラで名前すらギルベルトの愛称であるギルとしているのだから、当然気づくだろう。
というか、もうギル=寮生というところまでわれてる時点で、そうとしか思えず聞くと案の定、
「他に誰がいるのよっ。なに、この美味しい状況っ。
今度うちに来て話しなさいよっ!」
と、返ってきて、ギルベルトは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
「…ギルちゃん?」
全員の視線が自分の後頭部に集まるのを感じながら、ギルベルトはそのままの体勢で告白した。
「…わりい……こいつ俺様の従姉妹の腐女子。」
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