魔王様とお宝ちゃん(12日目)
そして…1人になってリビングの明かりを消すと、寝室に戻るアントーニョ。
レースのカーテンを通して月明かりだけがうっすらと室内を照らす部屋。
そこにある数少ない家具。
その中でひときわ大きいベッドにはようやく強奪に成功したお宝が眠っている。
…ああ…可愛えなぁ…やぁっと手に入れた。
ギシ……と小さな音をたてて広いベッドに腰をおろし、アントーニョはその少しくすんだ小麦色の髪をそっと撫でて微笑んだ。
ぴょんぴょんと跳ねた、見た目は少し固そうなその髪は、触ってみると存外に柔らかい。
そのままふんわりとマシュマロのような感触の真っ白な頬に手を移動させると、すりっと擦り寄ってくるが、起きる気配はない。
当然だ…。
フランに入れさせたミルクティをアーサーに渡す前、こっそりと一服盛らせてもらったのだから…。
絶対に絶対に手放さないし、逃がさない。
そのためには自分にとってアーサーが特別なように、アーサーにとっても自分が特別なのだと言う事を、アーサーに信じさせなければならない…。
――アーサーにとって悪い状態になる事はしねえよな?
ふとさきほどのギルベルトの心配そうな顔が脳裏をよぎる。
――もちろんやで?ギルちゃん。悪い状態にはならへんよ。………最終的には…な?
うす暗い部屋の中で、濃いグリーンの瞳が妖しい光を宿した。
――親分とおるのだけが当たり前になれば、アーティやって幸せやんな?
かすかにひらいたアーサーの小さな唇を指先でなぞったあと、アントーニョは覆いかぶさるように、口づけた。
唇の合間から舌をさし込み、小さな甘い舌を絡みとれば、苦しくなる呼吸にアーサーの眉根が寄るが、それでも目は覚まさない。
呼吸が出来るようにと、適度に角度を変え、呼吸を促しながらも、舌を吸い、上あごに舌を這わせ、くちゅくちゅと水音を響かせながら口づけをくり返すと、白い頬が少し紅潮してきて、アントーニョは目だけでニヤリと微笑む。
(親分が相手やから…そのうち初めて口づけを交わす時は気持ちええって感じるんやで…。
そうなれるまでは…こうして練習やな…)
いつかそう出来る空気になった時に、初めてのはずなのに戸惑って目を潤ませるアーサーの顔を想像すると顔をほころばさずにはいられない。
睡眠薬というのもあまり身体に良いモノではないし、耐性もついてくるだろうから、なるべく早く……
――そのためには使えるモンは何でも使わなあかんやんな…
そう小さく呟く脳裏に浮かぶのはアーサーを追いまわすアーチャーの姿。
まずは今晩…呼び出してみよか…。
そんなことを考えながら端正な顔に黒い笑みを浮かべている事を知るのは、少年がしっかりと抱きしめるクマのぬいぐるみのみ…。
「大事にすんで?自分のご主人さまは大事にしたるよ?せやから黙っておいてな?」
じ~っと茶色の目で自分を見あげているように見えるクマに向かってアントーニョはシーっと言うように唇に人差し指を当ててそう言う。
そしてクマの視線をさえぎるようにその顔をブランケットで覆った。
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