悪友会議(12日目)
夜中、アントーニョが連れて帰ってきたお宝ちゃんは、別に特殊な趣味趣向を持っているわけではないギルベルトから見ても、かなり可愛らしいお子さんだった。
ゲーム上のキャラもずいぶんと可愛らしいのだが、ぬいぐるみのクマをしっかりと腕に抱えて寮に入ってきたアーサーは、小学生でも十分通じるくらい童顔なのにまず驚く。
そしてその日はとりあえず夜も遅いから子どもは寝る時間とばかりに、フランシスが用意した甘いミルクティを飲ませて歯を磨かせて寝巻にきがえさせて早々にアントーニョのベッドに寝かせることにした。
もちろんその後、世話をしてやらねばならない新たな住人を迎え入れたということで、アントーニョのリビングで悪友会議が開かれるのはいつものことである。
そこで今回の事の次第を聞いた瞬間、ギルベルトは眩暈がした。
児童虐待…性犯罪…重罪じゃないのか?
いかんだろ、めちゃくちゃいかんだろ、あんな小さなガキ相手に、人間としてやっちゃいかん事だろうよっ。警察に駆け込むレベルだろうよっ…と、あまり感情を動かさないギルベルトにしては珍しく、これまでアーサーが体験してきた諸々を聞いてこぶしを握り締めて力説した。
――小さいって言っても…確かに幼く見えるけど実はまあ俺らと2歳しか変わらないわけなんだけどね。
と、それにフランシスは苦笑する。
そう言われればそうなのだが、それでもギルベルトは感情的に割り切れない。
「…ま、まあそうなんだけどよっ。とりあえずオスカーはどうするよっ。
この際締めるか?!」
自分も弟がいるし、親が警察関係者と言う事もあって、ギルベルトは子どもに対する犯罪は特に許せない人間なのだ。
しかも目の前であんな幼げな様子を見てしまえば、余計にその気持ちが募る。
しかし普段なら逆に過激な発言、過激な行動に出るアントーニョは、それに対して妙に冷静だ。
「ん~、これが普通のゲームやったらな、ガツン!と言うてやったらええんやろうけど、今殺人事件起こっとるくらいやからな。
そのあたりは極端な方向に走らん方がええやんな。」
「へ?トーニョにしては珍しい意見だね。」
と、不思議に思ったフランが目を丸くすると、アントーニョはニコリと笑った。
「とりあえず矛先は親分の方に向けてアーティの方にウィス送らせんようにするわ。」
「は?どうやって?」
「この子は親分のやからちょっかいかけんといてって言うとけばええやん。
で、アーティのすぐ横でゲームやって、アーティに何かおかしなウィス送ってきたら、親分が対応するわ。
そしたらそのうち諦めるやろ。」
「ふむ…なるほどな。
ま、確かにアーサーから反応がなくて全部反応するのがトーニョだったら、アーサーに送る意味自体がねえもんな。」
「おん。せやから二人も今夜は寮長室で一緒に協力したってな。」
「了解。お兄さん、坊ちゃんの気が紛れるようなお菓子作っとくね」
「ああ、頼むわ。」
「俺様も何かあったらフォロー入るから言ってくれ。」
「おん。おおきに。」
「…ってことで、今日はもう寝とこうか~」
と、一通り相談が済んでフランが大きく伸びをして言った瞬間、
「フラン、黙れっ!!」
と、なにげなく付けていたテレビに視線を向けたギルベルトが鋭い声をあげた。
「なに?」
とびくっとすくみあがって振り向くフランに、トーニョが無言でテレビを指差す。
そこでは緊急ニュースとして1人の女子高生が殺された事が伝えられている。
被害者の名前は赤坂めぐみ…
「これ…メグとかか?」
「その可能性めちゃ高いな。」
「うあぁ…うそぉ……」
3人揃ってその後しばらく黙りこみ、フランシスはいったんは立ち上がっていたのをまた、ソファに座りなおした。
「ねえ…トーニョもギルちゃんも犯人の目星とかついてたりしないの?」
と二人の顔を交互に見回すフランシスに、ギルベルトは顎に片手を当てて
「ん~。今不確かな事言わねえ方が良いだろ。」
と、つぶやくように言うが、アントーニョはソファにふんぞり返りながら
「アゾット一択やんな。」
と、ドヤ顔で宣言した。
「へ?アゾット?アゾットってあのプリーストだよね?なんでそこで彼が出てくんの?」
と驚くフランシスと舌打ちをするギルベルト。
その反応にさらにフランシスは動揺して、
「なに?なんなの?お兄さんだけもしかしてハブにされてるの??」
とキョロキョロと二人の間に視線をさまよわせるが、そこでアントーニョがきっぱり言い切った。
「おん。前にギルちゃんには話したんやけどな…」
「…うん……何を?」
「アゾットって名前の響き、悪役ぽいと思わん?むしろ最後の魔王の名前みたいやんなっ。」
「…へ??……それだけぇぇえええ??!!!!」
叫んでが~っくりと肩を落とすフランシスに、気づかれないように安堵の息を吐き出すギルベルト。
「おまけに…アーティと同じジョブとか生意気やと思わん?
天使みたいなあの子やったら神様に仕える身ぃ言われても納得やけど、むさい男の分際で神聖魔法とか使わんで欲しいわ。」
「……トーニョ…要はアゾットの事嫌いなのね?」
一見人当たりが良いアントーニョだが、実は悪友3人の中で一番人の好き嫌いが激しいのはフランシスもよく知っているため、実にアントーニョらしい発言だと納得する。
「まあ親分的にはアーティを保護したさかい、誰が犯人でもどうでもええわ。
これからは絶対に1人にはせえへんし、そしたらアーティと自分自身だけは被害者にはならへんからな。」
「あ~はいはい。そうですね。」
驚いて損したと愚痴るフランシスにクックッと笑いながら、
「てことで、とりあえず話しあいは終わりだな。
フラン、明日の準備あるだろうし寝とけよ。
3人目の犠牲者も出ちまった事だし、俺様はさっさとゲームを終わらせるべく、トーニョと次のミッションの相談すっから。」
と、ギルベルトが親指でドアを指差した。
「そうだよね、早く魔王倒しちゃえば全部終わるんだもんね。
じゃ、お兄さん明日は一日お菓子作りだし、二人ともよろしく。」
と、少しホッとした様子でフランシスが部屋を出ていく。
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