せっかく来てくれたのだ。
飲み物でも…と冷蔵庫から出したアイスティをグラスに注ごうとするが手の震えが止まらない。
それを見て、アーサーの手をそっと押しとどめ、アントーニョがその手からアイスティを取り上げる。
褐色の大きな手からとぽとぽと注がれるアイスティ。
透明な茶色の液体と氷で満たしたグラスを二つ並べると、アントーニョはアイスティを冷蔵庫に戻した。
「顔色…めちゃ悪いな。とりあえずいったん飲んで落ち着き。」
と、色々聞きたいだろうに、エメラルドグリーンの目が優しい気遣わしげな様子でアーサーの顔を覗き込み、その手にアイスティのグラスを握らせる。
触れた手の温かさにホッとして、アーサーはようやく一息つく事ができた。
アーサーがコクコクとグラスの中身を飲みほしている間、テーブルに片手で頬杖をつきながら、アントーニョが優しい表情でみつめている。
そしてアーサーが少し落ち着いた頃合いを見計らったように、アントーニョが手を伸ばして来て、くしゃくしゃとアーサーの頭を撫でて言った。
「親分な、相手のためにならんからやめとけってよくギルちゃんに怒られるんやけど、気に入った相手やと何でも知っておきたくなるし、何でもやってやりたくなる人間やねん。
せやからアーティが今すごく困っとるんやないか、何か助けてやれるんやないかって思うて、つい来てもうた。
もしかしたらアーティには迷惑かもしれへんけど…ちょっとした事でも言って頼って甘えてくれると親分めちゃ嬉しいんやけどな。」
少し困ったように眉尻をさげてそう言ってくれるアントーニョの言葉にアーサーは泣きそうになった。
…いや、泣きそうになった…ではなく、実際に泣いた。
「…こっ…こわっ…怖かった…うぃす……」
もう嗚咽がこみ上げて言葉にならないアーサーに、アントーニョは立ち上がる。
そしてテーブルを回り込んでアーサーの隣に立つと、アーサーの頭を自分に押しあてた。
「おおきに。ゆっくりでええよ。
大丈夫。親分がおるから。どんなもんが来ても絶対に守ったるから、怖ないよ?」
泣いている間、ずっとぽんぽんと優しく背を叩いてくれる手になんだか心細さも怖さも癒されていく。
最後は甘えるようにくすん、くすんと鼻を鳴らしてアーサーが泣きやむと、アントーニョは少し身体を離して、椅子に座ったままのアーサーの横に膝をついた。
「お目々真っ赤になってもうたな。
泣いた顔もウサギさんみたいでめちゃ可愛えけど、アーティはやっぱり笑ったらもっと可愛えよ。
これからは親分がなんでもしたるからな。
怖い事、辛い事、何でも言うてな?絶対に守ったるから。
アーティは親分の手の中で安心して笑ったって?」
端正な顔に甘く優しい表情を浮かべて、アントーニョはチュッとアーサーの赤くなった鼻先に軽く口づける。
そして見る見る間に赤面するアーサーにまた少し笑いかけると、
「そろそろ話せる?ゲーム内で何か怖いウィスが来たって事なん?」
と、静かに切り出した。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿