『アーティ…餌きれてへん?』
『うん。きれた。』
『で?餌つけずに釣り竿持って何してるんだ?フランと座ってればいいのに』
と、これはギルの言葉。
それに対してアーサーはきっぱり。
『だって…それだと4歩も歩いちゃうからっ。トーニョが動くなって言ってたし…』
『………』
『………』
『………』
『アーティ、堪忍なぁ~!もうちょっと餌買うとけばよかったな。』
と、それぞれに反応に迷って沈黙する中、真っ先に動いたのはトーニョだ。
アーサーに駆け寄り、ぎゅうぎゅうとその小さなキャラを抱きしめる。
『でもちゃんと親分の言う事気にしてくれたんやね。ほんまアーティはええ子やなぁ。
それに引きかえ…フランっ!自分は一回や二回死んでもかまへんやんっ!
餌きれとるのわかったら、買いに行きぃ!気ぃきかへんやっちゃっ!』
え?え?お兄さん?
そこでお兄さんが怒られちゃう??
と動揺するフランシス。
ああ…もうこれトーニョのタゲをガチ固定しすぎだろ…と、意識してか無意識なのかわからないが、いかにもアントーニョが好みそうな態度、発言をするアーサーに、リアルでため息をつくギルベルト。
もちろん、それはまさにフランシスが待っている間にしていたような事に基づく心配である。
ただフランシスと違うのは、――これ…いざとなったら俺様が間に入って死ぬんだろうな…――と、巻き込まれを何故か覚悟してしまっている点だったりするのだが…。
そんな三者三様の思いと反応をよそに、ようやく身動きを始めたアーサーが小首をかしげた。
『トーニョ……ボロボロ?』
『ああ、回復しといて。状態回復も頼むわ。』
HPゲージが真っ赤なトーニョにアーサーがピュルルンと回復魔法をかけてMP回復のために座る。
そしてアーサーのMPが満タンになると、トーニョは
『ほな行くか~』
と、先に立って歩き始めた。
今日はいったんいつも通り街で集まって、ここに来て、そしてまた街に向かっているようだったので、何も知らないアーサーは、
『どこ行くんだ?』
と、ピョコンと立ち上がると、トテトテとトーニョの真後ろの自分の定位置にかけよって、ツンとトーニョのマントの端を掴む。
それに対してトーニョが一瞬止まって仲間3人がちゃんと付いて来てる事を確認する横で、――ああ、こういう仕草一つ一つが無意識なんだとしたらすげえな。存在自体がトーニョホイホイなのか…と、半ば呆れ、半ば危機感を持ちながら、ギルが
『魔王の所。今ちょっと行って来てみた。』
とうそぶく。
トーニョだけではなく、自分達もアーサーとコミュニケーションをとって少し間に入れるようにしておかなければ…と気遣いの元の発言ではあるのだが、彼は伊達に不憫な男と呼ばれているわけではない。
ギルベルトの言葉に、アーサーが目を輝かせて
『魔王の所?もしかして魔王に会ったのか?どんな感じなんだ?』
と聞くのに
『えっとな…緑のタコ』
と、答えたあたりで、ネット上のキャラでそんな事わかるわけはないはずなのに、何故か殺気が立ち上ってくるトーニョのキャラ。
もう…やめといた方が……
と、フランシスは冷や汗をぬぐう。
もうアーサーが関わったトーニョに関わるだけで、冷や汗をかくことだらけで良いダイエットになりそうなレベルだ。
まあ普通…この言葉でいい加減嘘だと気付きそうなものなのだが、ゲームというものに初めて触れたアーサーは気付かなかったらしい。
『緑のタコなのか?確かに海で出るタコって茶色だもんなっ。きっとタコの王様なんだなっ。
でも緑のタコなんて面白いよなっ、とっても楽しみだ♪』
と、本気で楽しみにしている様子。
――タコの王様…タコの王様かぃっ!ア~ティィィ~~~かっわ可愛えぇぇぇ~~~!!!!
と、おそらく…今は自室からインしているアントーニョはその反応の可愛らしさに悶えまくっているのだろうとフランシスは苦笑する。
しかし嘘をついた張本人はそれを信じてそこまで楽しみにされるとは思ってもみなかったらしい。
心底罪悪感にかられながら懺悔した。
『……………悪かった…冗談だ』
『ええ?!嘘だったのか。……すっごく期待してたのに……』
いや…普通嘘だって気付くし…。最後の魔王がタコってありえないでしょ。
光の神が天使みたいなのにそれに対するのが緑のタコなわけが………
と、フランシスは思うわけだが、アーサーのキャラは何故かこれもそんなはずないのに、目に見えてしょぼ~んとうなだれているように見える。
そう思ったのはフランだけではなかったようだ。
『タコ見たいなら…その辺から引っ張ってくるか?』
歩く足を止めずに…しかし居た堪れなかったのかフォローのつもりなのかそう言って横の海を指さすギルに
『緑じゃないと駄目』
と、きっぱり断言するアーサー。
『緑のタコ……楽しみにしてたのに………』
『………悪かった…』
『……会ってみたかったのに……』
『………』
ため息一つ。
そこで、当然のごとくギルに向かって蹴りが飛んだ。
もちろんアーサーではなくトーニョから。
『ほんっま、純真な子をだまくらかすなんて信じられへんわっ!
そうや、アーティ、代わりにエンジェルウィング取ってきたるわ。
可愛えし、ああいうの好きやろ?』
と言うと、途端にぱぁ~っと明るくなってコクコク頷くアーサー。
『親分とギルちゃんはミッション4もう受託しとるから、アーティとフランが城に受けに行ってる間に取ってきといたるわ。』
『でも…大丈夫か?あれって取るの難しいんだろ?』
と、そこでアーサーが少し心配そうにトーニョを見あげた。
ちなみにエンジェルウィングというのは文字通り天使の羽根の形の腕輪。
装備すると手を動かすとキラキラと金色の光が舞う。
お城のお姫様がつけているオシャレ装備で、イヴが以前欲しがってショウやゴッドセイバーをせっついていた、アレだ。
まあ…二人とも取れなかったようだが…。
確かに可愛いモノ好きからしたら垂涎の装備なわけなのだが、失敗した時のリスクがある。
街の教会の奥から行ける聖堂の奥で取れるのだが、辿り着くのに失敗するとなんとレベルが1下がってしまうのだ。
ちなみに…レベル3からチャレンジ可能。
もちろん…辿り着くまでには当然のごとく難関が…
最初のフロアの床は一定の間隔であちこちに落とし穴ができる。
いったんピカっとタイルが光って次の瞬間穴があくが、そこそこ反射神経良ければ超えられなくはない。
しかしその後が無茶である。
落とし穴のフロア抜けた後のドアに、ここの主催はホントは教育委員会の回し者なのかと疑いたくなるような仕掛けがあるのだ。
大学受験レベルの試験問題20問中19問正解しないとドアが開かない。
もちろん時間制限あり。
反射神経が良いだけではなくて、頭も恐ろしく良くないと取れない。
だからイヴの従者二人が失敗して諦めて以来、チャレンジした人間はいないようだ。
こうして街に戻って城にミッション受託に行く二人を見送って、トーニョは当然のごとく、
「じゃ、ギルちゃん行っておいで。」
とひらひらと手を振る。
「…やっぱりかよっ……」
そういう予感はしていたが、やはりあるご指名にギルはがっくりと肩を落とした。
「当たり前やん。嘘ついたのはギルちゃんやし責任取るのもギルちゃんに決まっとるやん。」
と当然のように言われると、返す言葉もない。
「ちきしょ~!行ってくるぜっ!」
と、やけくそ気味に、それでも聖堂に特攻するのがさすがに勇者ギルベルトである。
『ほら例のブツ。これで機嫌直せよ』
アーサーが待ち合わせの門前に行くと全員はすでに集まっていて、ギルがトレードしてくる。
トレードを受けると、エンジェルウィング。
『あ…ありがとう』
と、礼を言いつつ不思議そうにトーニョを振り向くアーサーに
『親分が取って来ても良かったんやけどな、ギルちゃんの言った事やからギルちゃんに責任取らしたったんや。』
と、トーニョが説明する。
一応確認するがギルのレベルは下がってない。
『すごいね。ギルちゃん一発クリア、さすがだね。』
と、フランが言うと、
『まあなっ。俺様天才だし?』
と胸を張るギル。
だがそこでトーニョとフランが3人の間ではお約束の突っ込み
『童貞だ(や)けどなっ。』
『関係ねえだろぉぉ~~!!!!』
と、ギルの叫び声がゲーム内にこだまする。
もう3人の中では様式美的な某○チョウクラブの押すなよ?絶対に押すなよ?!のようなものだ。
だが、そんな事は当然知らず、なんとかフォローをと思ったらしいアーサーの
『以前クラスメートが人間30年間童貞を貫けば魔法使いになれるって言ってたから、ギル頭は良いみたいだし、あと13,4年頑張れば大魔法使いになれるぞっ!すごいじゃないかっ!』
という非常に斜め上な方向の…しかし本人にとっては至極真面目な慰めの言葉で、二人から【未来の大魔法使い】と爆笑され、撃沈する事になった。
実に不憫、出来る男なのに不憫なのが、まさにギルベルトがギルベルトたる所以である。
ともあれ、そんなカオスな空気の中、無事ミッションを受託し終えた4人は再度街を後にするのだった。
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