ミッション(11日目)
『今日はちょっと用事あるから、アーサーとフランはここで待っててくれ。
不用意に動くなよ?』
インする前にアントーニョに言った通り、今日はミッション4をやってしまおうと思って色々準備していたギルベルトは、全員が揃ってパーティを組むと、ミッション4の場所から少し離れた海辺で宣言する。
(なんで親分もなん?それやったら全員で行ったらええやん。)
と、アーサーとの別行動に当然のようにアントーニョは不満の意を示すウィスをギルベルトに送るが
(ぶっつけでアーサーに死に戻りとかさせたくねえだろ?だから先に俺らで下見。
俺様1人だとスイッチとかあった時につれえし、フランは…何かあった時に反射神経がな…。
だから俺とお前の二人)
と言われれば、自分がついていてどうしようもなくアーサーを死なせるなどと言う選択はありえないため、もう言葉もない。渋々了承する。
この場所なら敵も来ないし、自分達が行く場所からも近い。
まあ、フランと二人きりにするというのはあまり楽しくないのだが、仕方ないだろう。
自分が側にいないのならせめて…
『ほな、アーティ、これで遊んどき。危ないからここからは動かんといてな。』
退屈をさせても可哀想だしと、アントーニョはたまたま持っていたつりざおと餌をアーサーに渡してやった。
このゲームではなんと釣りもできるのである。
釣った物は雑貨屋でそのまま売ってもいいし、解体屋に持って行くと有料だが解体してくれ、鱗やら魚肉やら牙やらにしてくれる。
それをまた雑貨屋で売ってもいいし、合成屋で何かに合成してもらえる事もあるのだ。
まだアーサーがパーティに加わる前は、3人は全員が揃うまではそれぞれ好き勝手に時間を潰していたのだが、アントーニョがその頃に購入して鞄の中に放置しておいたものである。
『釣りかっ。やってみたかったんだ。トーニョ、ありがとう』
と、喜ぶアーサーにアントーニョの機嫌も完全に浮上し、ギルベルトと二人、こっそりミッション4の下見へと出かけていった。
そして残されるアーサーとフラン。
青い空。
白い波吹雪があがる波打ち際で、何か釣れるたび歓声をあげるアーサーは楽しそうだが、これと言って暇をつぶすモノも持っていないフランシスは心底暇だ。
いつものように寮長室で3人でインしている時ならミッションの様子を見るなりおしゃべりを出来るのでまだしも、今日は自室で1人なのでなおさらである。
しかたなしにアーサーに話しかける。
パーティ会話だとシビアな下見をしているであろう二人にログを流してしまって邪魔になるだろうから、久々に通常チャットだ。
「ね、アーサー、うちの学校来るんだよね?トーニョに聞いたんだけど…」
海岸の波打ち際で釣り糸を垂らすアーサーから5歩ほど下がった砂浜に腰をかけてそう声をかけると、アーサーがコクンと頷く。
「トーニョが…特待生に推薦してくれるって…。俺なんかで良いのかと思うけど…」
「あ~…トーニョは一見人当たり良く見えて、実はパーソナルスペース結構広い奴だから、自分のテリトリーに入れるってよっぽど気にいったんだよ。
ね、そのキャラってもしかしてリアルのアーサーに似てたりする?」
と、その質問にもコクンと頷くアーサーに、フランシスはなるほど、と、納得した。
ペドと称されるほど子ども好きなアントーニョの好みのド真ん中をついていそうな華奢な体格に目が大きい幼い顔立ち。
ゲームに慣れてないせいもあるのだろう。頼りにしてるとばかりにいつもちょこちょことアントーニョの後ろをついて歩いている様子はまるで親の後をついて回るカルガモの子どものようだ。
会う前から『キャラや態度はまあ可愛えねんけどな。飽くまでネット上で作ったキャラやから…』と言っていたアントーニョ。
会ってみたら、これが作ったキャラや演技ではなく本当にこんな雰囲気の子だったとしたら…。
(うん、気に入るだろうし、どんな手を使っても手の中に抱え込んで閉じ込めようとするだろうね…)
興味のないモノにはとことん興味はないが、いったん気に入ると執着心が尋常ではない魔王様の性分を知っているだけに、気の毒に…と、フランシスはリアルでため息をつく。
おそらく今後アーサーはアントーニョの手の内からは出してはもらえないだろう。
世話好き…と言えば聞こえはいいが、相手の全てを監視し、一挙一動を全てコントロールしたがるあの男の今までのターゲットは主に動物、ペットだったわけだが…朝起きて食事の世話から身支度、遊びに躾に風呂に就寝。
文字通りおはようからおやすみまで、全て自分の手でやっていた。
自身が学校に居る間以外はずっとそばから放さず、自分では何もさせない。
そんな生活、ペット用の小動物ならともかく、人間ならあっという間にノイローゼまっしぐらではないだろうか…。
なんとかしてやりたいと思わないでもないが…と、思った瞬間、背後に人の気配を感じて、フランシスはリアルで悲鳴をあげかけた。
ディスプレイの中でフランが振り向くと、数メートル先の草むらがかすかに動いて人が去っていくのが見えた。
しかしそれはどうやらフランが想像した人物ではないらしい。
(…オスカー?…それとも…ヨイチ?)
てっきり自分の邪魔をする可能性を考えたフランを抹殺しに戻ってきたアントーニョかと思ったのだが、大きな弓が視界の端に映ったので、相手はアーチャーだ。
わき出る冷や汗をぬぐいながら、フランはまあそれでもとりあえずアーサーの事は静観しようと心に決める。
どうしても問題があるようなら、正義感の塊のギルベルトあたりが命を賭して止めるだろう。
比喩ではない。
あのアントーニョが本気になったのを止めようと思ったら、下手すれば命がけだ。
自分では絶対に役不足だと思う。
やっぱりこの手の話題は避けよう…そう決めて前方のアーサーに目を向けると、いつのまにかピタっとアーサーの手が止まっている。
「アーサー、どうしたの?」
と、離席かな~と思いつつ声をかけてみると、どうやらそういうわけではなかったらしい。
即返事が返ってくる。
「餌…なくなった。」
「んじゃ、こっちきて座ったら?」
と、フランはポンポンと自分の隣を叩くが、アーサーはふるふると首を横に振った。
「トーニョがここから動くなって言ったから…」
釣り竿をかまえたまま棒立ちするアーサーにフランは苦笑する。
「えと…ね、俺、アーサーから4,5歩後ろくらいに座ってるだけだから、そのくらいは無問題だと思うよ」
「でも…それだと4歩も動いちゃうから。」
言ってアーサーは断固としてそのまま立ち続けた。
「ま…いっか。」
実際に立ってるわけでもないから疲れるとかいうこともないし、放置決定。
フランはそのままトーニョ達を待ち続けた。
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