オンラインゲーム殺人事件あなざーその2・魔王探偵の事件簿_7

「おかえり、今日は早いな。」

てっきりまたぎりぎりまでアーサーのマンションですごしてくると思っていたアントーニョがおもいがけず6時に寮に帰っていたので目を丸くするギルベルト。

「おん。今日は夕食はチンすればええだけのもん作って帰ってきてん」
と、険しい表情のアントーニョに、ギルベルトは少し考え込んで、
「…何かあったのか?…今日の秋本翔太の殺人事件の事とか…か?」
と、当然のようにチェックしていたニュースで流れていた殺人事件の事を口にした。

アーサーと喧嘩でも?という可能性も脳裏をよぎりはしたが、アントーニョの性格を考えればそれはないと、即座にそれを否定しての、その結論である。

極少数の守るべき身内と、星の数ほどのどうでも良い奴と、そこそこの数の踏みつぶすべき敵しかいないアントーニョの極少数の守るべき身内の中でも、自分やフランシスのように対等ではなく、庇護者と決めた相手に対するアントーニョの盲目的な甘さは普通ではない。
たぶんその中に入ってしまったらしいアーサーが何をやっても、アントーニョにとっては可愛い我儘か照れ隠しですまされるだろう。

ということで投げかけたその問いに、アントーニョは険しい顔のままうなづいた。

「ちょお気になる事が他にもあるんやけどな…。
ギルちゃんの部屋で話すわ。
フラン巻き込むとめんどいから。」
と、そのままギルベルトの腕を掴んでギルべルトの部屋のドアを顎で指した。





「水晶という透明な宝石の中に封じられた悪魔か…。」

食事をしながら話す気満々だったアントーニョが帰りに買ってきたサンドウィッチをかじりながら、ギルベルトはネットで『アゾット』について調べている。

「たぶん…表面上のピュアさの中に潜む悪を表現したつもりなんやろうけどな。
アゾットの意味なんて普通に知ってるレベルの知識やないし…
表だって野心や邪悪さだしたらまずいという理性と知性、その一方で誰にもわからないところでは悪に興じる自分を主張したいという強い自己顕示欲の持ち主……ってとこやな。
ただ…目的が魔王やとしたら、自分でトドメさせんジョブを選ぶあたりが腑に落ちんとこやけど…」

と、同じくパンを齧りながら首をひねるアントーニョに、ギルベルトはにやりと笑って

「ん~、でもまあ、アゾットってこんな記述もあっから…」
と、自分が調べた情報が表示されているディスプレイを指し示した。

――この宝石の中には1匹の悪魔が封じられており、パラケルススは気に入らない相手にそれをけしかけたと言われています。そのためか、「剣の形をした杖(Wand)」とも。――
「なるほどな。武器になる奴を操ってけしかければええんやな。」
「ん~、まあでも1億だからな…。殺人て意味では実行犯にならずに操れたとしても、自分が1億取れるのに、わざわざアゾットに譲る理由がある奴っているのか…」
「そこやな…。」
二人でう~ん…と考え込むが、答えは出てこない。

「ま、ええわ。」
と、アントーニョが今結論を出すのは諦めて立ちあがった。

「このことはギルちゃんと俺の二人だけの秘密な。
アーティはそんなんでストレス与えとうないし、フランは動揺して暴走して面倒起こすし。
せやから…」

「俺らだけでアゾットを中心とした人間関係に注意を払っておくってことな?」
「おん。察しええとこがギルちゃんの唯一のとりえやな。」
「唯一かよっ!!」
と叫ぶギルベルトにアントーニョはすまして言う。

「やって、自分1人楽しすぎる奴やし、童貞やし…」
「童貞関係ねえだろがっ!」
と、ぶちぶちと文句を垂れながらもギルベルトは話を進めた。

「で?あとは秋本翔太がショウかどうかの確認か?インしたら俺がメッセ送るか?」
「おん。任せたわ。」
と、そこでそう答えると、アントーニョはそのまま部屋を出ていった。

「何か起こるかもと思ってやり始めたわけだけどな…殺人事件が2件とか、起こりすぎだろ、これ。」
と、パタンと閉まるドアを確認後、ギルベルトは再度パソコンのディスプレイに視線を戻す。

「ゴッドセイバー殺害の容疑者筆頭は…イヴ。謎のプレイヤーアゾット…か。
こいつら二人に何かしらの共通点でもありゃあな……」

カチカチと情報をまとめながら頭をかくギルベルト。
よもやその夜、まさにそれが起きるとはこの時はまだ思ってはいなかった。



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