オンラインゲーム殺人事件あなざーその2・魔王探偵の事件簿_8

アゾット(10日目)


『アーティ、ちゃんとご飯食べた?
今日は一緒に食えんくて堪忍な。
こっち来たらもう2度と寂しい思いなんてさせへんからな。
毎日美味しい飯も作ったるからよ。』

全員インしてパーティを組むなりベッタベタである。
元々ヒーラーだったのでゲーム内でもお守りはしていたわけなのだが、アーサーに実際に会いに行ってからは、もうすさまじい。

ベタベタベタベタベタベタ、本当に砂糖を吐きそうな会話が繰り広げられるので、耐性があるというか、同じくラテン系で適度に恋人を作ってはそんな会話を繰り広げる事もあるフランシスはとにかく、ギルベルトは居た堪れない。
そして…実は当事者の肩割れであるアーサーもそうらしく、反応出来ないまま無言になる。

しかしそこで無反応は悪いと思うらしく、スルリとアントーニョのキャラに若干擦り寄ってみせたりするので、もうまたそこからベタベタな発言が始まると言うループが日常になりつつあった。

まあ確かにアントーニョが好きそうなキャラクタではあると思う。
素手でクルミの殻を握りつぶしたり出来るあたりでわかるように、常に笑顔な割にアントーニョの性格は短気な武闘派である。
それに加えて、何も考えていないようでいて、すごく考えている…が、相手を叩き潰す時まではそれを見せない。
面倒見は良いので寮生たちはアントーニョを慕ってはいるが、同時に恐れてもいる。
そんなアントーニョではあるが、実は無類の子ども好きだ。
子どもには無条件に優しい。
高等部の学生には恐怖の大魔王でも、小等部のお子様達には楽しく優しい大好きなアントーニョ兄ちゃんだったりする。
もう、陰でペドと噂されるくらいだ。
中学生…というと、まあ微妙な年頃ではあるが、アントーニョの言うとおり、このキャラがアーサー本人に似ているのだとなると、かなりの童顔だろうし、デジタルデータでしかないのに、どことなくあどけない雰囲気を振りまいている。

もうこれははまるだろうと思う…思うのだが、せめて二人にしか見えないウィスでやってくれと言いたい。心のそこから叫びたいっ!!…が、傍若無人に見えて実は非常に空気を気にするのがギルベルトのギルベルトたるゆえんだったりする。

こうして今日もハートマークが飛び交っていそうなレベルの会話を見ないふりで、敵を釣ってくる作業にいそしんでいた。

(あ…そう言えばトーニョがいきなり飛ばすから忘れてたけど、ショウに連絡いれてみねえと…)

と、敵にブーメランを投げようとしていた手をふと止めた。

そこで
『ちょっと待っててくれ、俺メッセを…』
と言いかけたその時、ピロリンとメッセージの着信音が響いた。

送信元は…アゾット!!

『アゾットって…男キャラだったよね?』
とフランシスが言うということは…今度も全員にメッセきているらしい。
そしてしばらく全員無言でメッセージに目を通す。

『こんばんは。参加者のアゾットです。
なんとなく気にしていらっしゃる方もいるとは思いますが、今日の昼過ぎに秋本翔太君という高校生が殺害されたというニュースが放映されました。
参加者の一人、イヴさんによると、殺された秋本君は元このゲームの参加者のショウさんらしいです。
親しかった相手が二人とも殺害された事でイヴさんも非常にショックを受けていますし、犯人の男の次のターゲットが自分なのではと、とても怯えてもいます。
もちろん、僕を含めて全ての参加者がそのターゲットになりうるわけですから誰しもが他人事ではありません。
そこで下手に相手の事を知らないまま不安を抱えるよりは、一度全員街の広場に集まってどういう参加者がいるか顔合わせをしませんか?
現在僕はイヴさんと共に街の広場の噴水前にいます。
来られる皆さんはぜひ、噴水前までお願いします』

確認を取るまでもなく、やはり秋本翔太はあのショウだったと言う事がわかって少し拍子抜けをするギルベルト。

『行くの?』
とフランシスが誰にともなくお伺いをたてると
『そうやな。』
とアントーニョから即答えが返ってきたので、4人はメッセージに従う事にした。



4人が行くともう他に4人ほどが噴水の周りに集まってた。

「みんな…みんな殺されちゃった…。」
と泣くモーションをするイヴのキャラにぴったりと寄り添って
「大丈夫…これからは僕が出来る限り側にいて君を守るから。なんでも相談して?」
と言うアゾット。

これが…アゾット。
一見優しげなプリーストキャラだが、ギルベルトはアントーニョから聞いて自分でも色々調べた先入観から、非常に怪しく感じてしまう。
しかも…なんと繋がりがあれば…と思っていたイヴとぴったり寄り添っていて、ギルベルトは脳内で有罪判定と決めつけないように苦労する。

可能性が高いと言っても、決めつけてしまって違っていたら危険だ。
他の犯人を野放しにする事になる。

それでも…取り巻きの二人がいなくなった途端、あの女王様ぶりをすっかり隠して傷ついた乙女を装っているイヴにも非常に違和感がぬぐえない。

アゾットとイヴはグルで、アゾット剣の中の実行犯、悪魔はイヴなのか…。


他に集まっているのは…その二人の隣にいるウィザードのエドガー。

「ゴッドセイバーの場合…確かに実名言いふらしてたらしいからわかるんだけど…ショウは…どうして殺されたんだろうね?実名知ってたのイヴだけじゃないのかな?」
とてもとても冷静な口調でつぶやく彼に、アゾットは

「色々聞きたいのはわかるんだけど、彼女も本当に今日起こった出来事ですごく傷ついてるんだ。
せめて今日一日はそっとしておいてあげてくれないか?」
とイヴをかばうように二人の間に入った。

「でもさ、彼はメルアドすら教えてないんだよね?」
と、それでもさらに食い下がるエドガーに、イヴがアゾットの後ろから顔を出す。

「えと…ね、それに関してなんだけど…気になる事が…」

無理しないでいいよ、というアゾットに、
「大丈夫、今はみんなそのために集まってるんだし…」
と答えて話しだすイヴ。

「彼ね…メグちゃんにメルアド送ったって言ってたの。辞めるって話もしてないって。
なのに私の所にきたメッセージでは彼は辞める事になってたから、びっくりしてたわ。
他の誰かと間違えたか何か勘違いしたのかもしれないしメグちゃんに一度確認のメッセージ送ったから返事待ちって言ってた…」

え……

それを聞いてアゾットもエドガーも一瞬固まる。

「確かに…エドガー君が二人と仲良くて色々聞いてた私を疑うのももっともだと思う。
…でもね…私もホントに今怖くて怖くて震えが止まらないの…信じてもらえないかもだけど…」

そこでイヴの言葉は途切れた。

そんなイヴをかばうように、アゾットがまたイヴを後ろに隠す様にエドガーの前に立ちはだかった。

「仮に…僕が犯人だとしたら、真っ先に自分が疑われる様な殺し方はしないと思うな。
君もそう思わないか?」

まあ…それは確かに……と、ギルベルトも思う。
本当にアゾットがイヴを操って最終的に一億を取ろうとしているとしても、まだライバルはたくさんいる。

ウォーリアとベルセルクが1人ずつ脱落したとしても、トドメならウィザードやアーチャーにも刺せるし、シーフだって回避をしつつ地道に削ればいつかは倒せるかもしれない。

それより何より、攻守ともにトドメをさしやすい近接前衛としては、まだアントーニョが残っている。

ゴッドセイバーはともかくとして、ショウは実名とか言いふらしたりしてないのだから、普通は仲良くしててリアルを知ってる可能性が高いイヴが疑われるだろう。
はたして、そんな状態で自分が警戒されるようなやり方でライバルを殺したりするものだろうか…。

その言葉にエドガーもさすがにちょっと黙り込んで、それから_あたりを見回した。

「キーパーソンはメグって事かな。彼女に事情を聞けば少しは状況が見えるかも。
だけど…来てないな」

エドガーの言葉にアゾットはちょっと困った様にため息をついた。

「僕がインした時には確かにいたんだけどね…。何故だかログアウトしちゃったみたいだ。
送ったメッセージが届かない。明日事情を聞くしかないね」


ギルベルトがそんなやり取りに気を取られていると、
「やあ、そのキャラ可愛いね」
と、アーチャーのオスカーが何故かアーサーの横にぴったりと寄り添う様に立った。

まるで乙女ゲーにでも出てきそうな長身イケメンキャラだが、アーサーは元々人見知りな事もあって、スッと一歩引いて距離を取る。
するとまたオスカーが一歩近づいてくるが、そこで即アントーニョがアーサーを庇うように間に入った。

「自分、何しとるん?!アーティが嫌がっとるやろがっ!!やめんかいっ!!」

怒鳴られてオスカーは一瞬沈黙。
あ…ちょっとショック受けてるかと思えば、またいきなり

「アーティって呼び方可愛いなっ。トーニョってまさかアーサーのリア友?!!アーサーってリアルでもやっぱり可愛かったりする?!」
と、なんだか嬉しそうにまたピタっとアーサーとの距離をつめた。

それに怯えたようにアーサーはアントーニョの陰に回り込むが、オスカーは全くそんな空気を読む事もせず

「リアルもさ、そんな感じ?可愛い系?服とかどんなの好き?
体格は?やっぱり華奢なのかな?
制服は学ラン?ブレザー?アーサーのイメージだとブレザーって感じだね。
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」

すごい勢いでば~っと通常会話がスクロールしていく。
アーサーはおもいっきりひいてる。というか、リアルで怯えている気がした。

「自分、いい加減にせな怒るでっ!!これ以上しつこうしたら主催者に通報やっ!」
そこまで言ってようやくオスカーはアントーニョが本気で怒っているとわかったらしく、肩をすくめて離れて行った。



結局確信を握るキーパーソンのメグが来ていないので事情はまだ霧の中だが、とりあえずそれぞれの人物像はわかってきた。

生き残ってるのは12人中10人。

アントーニョ達4人を除くと、殺された二人と仲の良かった渦中の人イヴ。
メルアド交換を申し出たまま姿を消したメグ。
演技の可能性も高いが、一応怯えてるようなイヴを慰めてる癒し系の男プリーストのアゾット。
周りから情報を聞きまくって犯人を特定しようとしているらしい男ウィザードのエドガー。
アーサーを追いかけまわしていたアーチャーのオスカー。
そして……このゲームを始めて以来、他人と一切連絡を取ろうとせずメルアド交換すらスルーしてる謎のアーチャー、ヨイチ……

その日はとりあえずアゾットが音頭をとって、それぞれ自己紹介をして解散したが、みんなが微妙に全員を警戒している嫌な雰囲気だった。

ショウを殺した犯人がゴッドセイバーを殺した犯人と同一人物だとすると、犯人は恐らくこの中にいるのだ…。



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