今確かに自分にむいているものの、まだふわふわと頼りないアーサーの気持ちをがっしりと掴むべく、得意料理のパエリヤをふるまうアントーニョ。
殻つきのエビはちゃんと剥いて口に運んでやると、ぱくんと小鳥のヒナのように口を開けるのが可愛い。
そんな和やかな昼食で少し気持ちが落ち着いたのか、もきゅもきゅごっくんと口の中の物を咀嚼して飲み込んだあと、アーサーはくりくりした丸い目をアントーニョに向けた。
「くだらない事だったらごめんな?」
という言葉には
「アーティの言う事にくだらない事なんて一つもないで。」
と当然のように返すと、ホッとしたように微笑むのも本当に愛らしい。
むしろアーサーの言う事をくだらない等と言う輩がいたら、永眠させてやる気は満々な勢いである。
そんなアントーニョに安心したのか、アーサーは
「アゾットの事なんだけど……」
と、話を始めた。
「名前がアゾットなのにプリーストなんてちょっと変わってるかなぁって思うんだけど…。普通そんな名前つけるなら攻撃系ジョブとか選ばないか?」
そんな名前…と言われてもまったく検討がつかない。
「有名な…名前なん?」
と首をかしげると、
「短剣の名前。」
とかえってくる。
「錬金術士が使ってた悪魔を封じ込めた短剣なんだ、アゾットって。」
なるほど…悪魔付きの短剣の名前なんか付けるなら、確かにシーフかウィザードあたりをやっていそうやんな…。
ウィザードはいまのところメグとエドガーと言う二人のプレイヤーがやっているから取れへんかった可能性はあるけど、シーフやったらギルちゃん1人やし、やろうと思えばやれるし…なんでよりにもよって聖職者なんやろな……。
考え込むアントーニョに、どうやら興味を持ってもらえたのだろうとアーサーが席を立って自室から1冊の本をもってきた。
「これ…な。」
と、挿絵つきのページを指差すのに目を向ければ説明文。
『アゾット剣…16世紀頃に活躍したドイツの偉大な錬金術士バラケルススが持っていた短剣。
柄頭に水晶が埋め込まれており、そこには悪魔が封じ込まれていたという…』
なんや…これほんまおかしいな……と思う。
しかし、そんな中、
「トーニョ、テレビっ!」
と、アーサーがつけっぱなしにしておいたテレビを指差すので思考が停止された。
とりあえずアーサーの話の方に注意を向けるとして、この件は脳内でギルベルトと相談する議題として留めておくことにする。
「なん?」
と言いながらテレビの方を見ると、ちょうどニュースでまた別の高校生が殺されたと言うニュースがやっていた。
被害者の名前は秋本翔太。
ゴッドセイバー以外の本名は知らないが、もしキャラがリアルの名前のもじりだとすると…
「これ…もしかしてショウだったりするのかな?」
と、蒼褪めたアーサーがまさに今アントーニョが考えていた事を口にする。
「ん~。その可能性もあるなぁ…。今日アクセス時間になったら本人にメッセ送ってみたらわかるんちゃう?
みんな毎日インしとるやろうし、返事かえってこなかったら、十中八九そうやな。」
と、答えつつ、アントーニョはまた皮をむいたエビをアーサーの口に放り込みながら
「ま、アーティは親分が絶対に守ったるから大丈夫やで。」
と、笑ってみせつつ、冷蔵庫に冷やしていたデザートを取りに、キッチンへと向かった。
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