オンラインゲーム殺人事件あなざーその2・魔王探偵の事件簿_5

今日で3日連続で通うマンション。
手の中には荷物の搬送などで何かあったら…ということで預かった合鍵がきらりん。
アントーニョはご機嫌でそれをチャラチャラしながら、エレベータを降りて目的のドアの前に立った。

一応チャイムを押してみるが、出てくる気配がないので、もしかしたらちょっと買い物にでも出かけているのかもしれない。
危ないから1人で出掛けたらあかん言うたのに…と、少し頬を膨らませて小さくつぶやくと、アントーニョは合鍵でドアを開ける。

しかし何故か玄関に靴がある。
もう10時なのでいい加減起きてても良い頃なのだが、珍しく寝坊でもしているのだろうか…。

「アーティ、入るで~」
と、本人が在宅なら、と、一応声をかけて入るが返事はない。
構わず奥に入ってまずバスルームやトイレを覗き、ダイニングやキッチンも確認するがいない。

じゃあやっぱり寝てるのか…と、寝室兼私室になっている奥の部屋に足を踏み入れると、床にへたり込んだままベッドにつっぷしている天使発見。

カーテンを開け放した窓から射し込む日差しに優しい小麦色の髪がキラキラ光っているのは美しくも温かい光景ではあるが、問題は横を向いた顔。
太い眉が寄せられて、頬にはそれとわかるレベルで涙の跡がある。
それを認めた時点でアントーニョは大股にアーサーに歩み寄った。


「アーティ?アーティ??」
ゆさゆさと肩を軽く揺さぶると、ゆるゆるとゆっくりとした動作で目が開き、今ひとつ視点が合わない潤んだペリドットがアントーニョを見あげてくる。

かっわええ!!と感動するレベルで可愛いのだが、潤んだ瞳と若干良くないように見える顔色、合わない視線が心配だ。

このところ色々が急だったし、そもそも周りで殺人事件などというものが起こっているしで、疲れて体調でも崩したのだろうか…。

そう思って見てみれば、自分より一回りも二回りも小さな身体はお世辞にも丈夫そうには見えない。

「アーティ、どっか具合悪いん?!医者呼んだろか?!」
と、そこで慌てて反転しかけると、左足に温かな感触。

「やだっ!いっちゃやだっ!」
と、アントーニョの足にしがみついて子どものように泣きじゃくる様子に、脳内が大爆発を起こしかけた。

な…んや、これっ!!!あかんっ!!これ、あかんやつやっ!!!
「堪忍っ!どこも行かへんよ。親分がずぅっと付いてるからなっ」
と、即反転してその小さな身体を引き寄せて抱きしめてやる。

腕に丁度よくすっぽりと収まる身体。
くすん、くすんと小さく上下する細い肩。
まるであつらえたように自分のために存在するような気がしてきた。

「…どないしたん?嫌な事、怖い事でもあったん?親分に教えたって?」
と、もうギルベルトやフランシスが聞けば大爆笑するか、もしくは天変地異の前触れかと怯えるかというレベル、今まで出した事などない感じで優しく優しく問いかければ、腕の中のアーサーはふるふると首を横に振る。

「…親分には言えへんこと?なぁ、親分絶対にアーティに悪いような事せえへんよ?
言うだけでも少し気が楽になったりせえへん?」

この子の悲しい事辛い事は全部知って、全て取り除くか自分が背負ってやりたい。

いまだかつてないレベルで強烈に強力に一目惚れしたこの相手は、一緒に過ごせば過ごすほど、アントーニョの心の奥底にぐいぐいと楔をたてて、離れがたくなっていく。

おそらく大伯父と同じく、かなり直感で生きているアントーニョが一目惚れしたということは、この子は自分にとって非常に大事な半身となりうる相手なのだろうと思う。
その大事な大事な相手が何かに悲しんでいるのを放置できるわけがない。

なおも口調は優しく、でも食い下がってみると、アーサーは小さな小さな声で

――…重すぎて嫌になるから………
と、呟くように言う。

あほやんっ、重すぎるなんて事あるかいっ!
と、自分の中の蜂蜜に砂糖をドバドバ入れて沸騰させたような甘いには甘いがドロドロに重い感情を思って、心の中でつぶやく。

「…親分の方が重いと思うで?
ネットで知り合って1週間、実際会うて3日しかたってへんのやけど…もう運命感じすぎてもうて、今アーティの事死ぬまで側に拘束したいとか思うてんねんけど……」

怯えられたら全力で…それこそフランシスでもギルベルトでも何でも使って引き留めようという前提で、アーサーが悲しさに泣いているままにするくらいなら…と、本音をちらりとちらつかせてみると、驚いた事に怯えも引きもしなかったらしい。

おそるおそる…と言った感じで顔をあげたアーサーは、

「…ほんとに…?ずっと一緒?」
と、もうこれどないしよ、死んでまうっ、親分きゅん死にしてまうんやないかっ?!!と悶え叫びまわりたいレベルの可愛さで聞いてくる。

アントーニョのシャツの胸元をぎゅっと握るアントーニョよりは一回り以上小さな白い手というオプション付きで…。

「ほんまやよ~。自分で言うのもなんやけど、親分、どうでもええもんはほんまどうでもええんやけど、気にいってまうと、めっちゃしつこい性格やねん。
大事にするよ?ほんま大事にするし、何不自由はさせへんけど、放してはやれへん。」

まるでプロポーズのようだ…と内心苦笑しつつ、相手の人生をまるごと抱え込んで拘束しようとしている時点で同じようなものか…と思う。

そして…普通なら裸足で逃げそうな執着心を打ち明けられた当の本人は、半分信じて半分信じてないような感じで小さく笑みを浮かべると、
――ほんと…だといいな。
と呟いた。

「で?何がそんなに悲しかったん?」
と、少し落ちつた様子のアーサーに尋ねると、アーサーはぽつり…と、

――トーニョ以外…父さんも母さんも誰も俺を気にしてはくれなかったから…。トーニョが俺を要らなくなったら、またずっと1人だなって思って……
と、告白してくる。


(ああ…もう神さん、ありがとうございますっ!ほんま感謝ですっ!!)
と、その言葉がアントーニョをどれだけ喜ばせたか、アーサーにはきっとわからないだろう。

親分がいなくなったら誰もおれへんて…最高やないかっ!!
と、心の中でガッツポーズを取るアントーニョ。
庇護欲と独占欲がぐんぐん満たされて行く。


しばらくそうやって抱きしめていたが、少ししてきゅぅぅ~と、可愛くなる腹の音に白い顔が耳まで染まる。

ああ、可愛えなぁとそれに小さく笑うと、アントーニョは
「今日はあらかじめマーケットで買い物してきてん。美味しい飯作ったるな。」
と、そこで初めてアーサーの身体を放すと、キッチンへと向かった。



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