オンラインゲーム殺人事件あなざーその1・魔王探偵の事件簿_14

こんなんありなのか?と、思わずぼ~っと見惚れてしまう。
まるでゲームのイケメンキャラをそのまま実体化したような青年。

ギルが自分を高校生だと言っていたから、トーニョもそうなのだろう。
自分より頭半分ほど背が高い。
…まあアーサーだってまだ中3なのでこれから伸びる予定ではあるのだが…。

茶色がかった黒髪の下、羨ましいほど健康的に日に焼けた褐色の肌がのぞく。
綺麗に整った眉。
キラキラと強い光を放つ深いグリーンの瞳。
整った鼻梁に笑みの形を描く形の良い唇。
ムキムキというわけではないが、しっかりと筋肉のついているのがわかる男らしい体躯。
男らしく精悍でいて、でも笑顔を浮かべているとどこか甘い。
それだけでなく、何か存在感というか、オーラのようなものを感じて少し気遅れのするアーサーに
「初めまして、やな。」
と笑いかけてくれる笑顔はゲーム内と同様温かく、緊張をほぐしてくれる。

そんなトーニョが側に存在してくれるだけでもう多幸感でいっぱいいっぱいになったアーサーだったが、トーニョはなんと本当はアーサーが殺人事件で心細い思いをしているだろうから昨日来てやりたかったと言ってくれただけでなく、怖い思いをしたであろうアーサーの慰めになればと、バラの花束までくれたのだ。

もうどこの少女漫画だっ…と心の中で絶叫しながら、でもその主人公の位置に自分がいるのが信じられない。
だって、たった昨日まで、この世で自分を気遣う人間なんて皆無だったのだ。
そう、よしんば自分が殺人犯に殺されたとしても、誰も気にもとめなかっただろうと思う。

そんな自分を気にしてくれた人がいる…。
それだけでなんだか胸がいっぱいになって、あろうことかいきなり泣き出してしまったアーサーに呆れる事無く、トーニョは黙って胸を貸してくれた。

ぽん、ぽん、と優しくなだめるように背を叩く手が大きく温かく優しい。
それになんだか慰められて、くすん、くすんと泣きやんでくると、そこできちんとプレスしたなんだか良い匂いのするハンカチで目をぬぐってくれる。

「…落ち着いたか?」
と、降ってくる温かな声。

ようやく涙が止まったアーサーがコクコクとうなづくと、
「ほな、目の腫れひいたら出掛けようか。」
と、優しい笑みを浮かべて、涙の残る目尻に口づけを落とされた。

うあぁぁああ~~と、あたふたするアーサーにトーニョが小さく笑う。
これが中学生と高校生の年の差による余裕なのか、アーサーがあまり友人がいなくて他人と近い距離に居る事に慣れていないせいなのか、トーニョだからなのかわからないが、いちいちすさまじく甘く甘く甘やかされている気がするのは気のせいか?
壮絶に恥ずかしい。
…でも少し嬉しい。

とにかくこうして家を出て商店街を抜け、電車で5駅の少し大きな街へと向かう。
その間も商店街まで出る道で、当たり前にアーサーの肩に手を置いて、自分の左側に誘導するトーニョ。

レディや子どもじゃないんだけど…とは思ったものの、アーサーもその言葉は飲み込んでおく。
高校生のトーニョからすれば中学生の自分は十分子どもに見えるのだろうし、実際子どもじゃないと言うなら、いきなり泣き出したりしないだろう。

改札を通る時も当然のようにアーサーを先に通し、階段では当たり前に手を取ってくる。

電車の車内はすいていたが、アーサーを座らせて自分はその前に立つので、
「座らないのか?」
と聞けば、これまた当たり前のように
「やって正面の方がアーティの顔見て話せるやん」
と微笑むので、もう顔が赤くなるのを隠せず、困ってしまった。

それが全て自然体なので、きっとトーニョにとってはスタンダードなのだろう。
思わず
「トーニョって…モテるだろ」
と顔を見られないままに言うと、
「否定はせえへんけど…大事なんはアーティだけやで?」
とクスクス笑う。
ああ、もう冗談なんだろうからここは一緒に笑うところなんだろうが、笑えない。
「…からかうなよ」
と、子どもじみていると思いつつ頬を膨らませると、
「あ、その顔も可愛えな。」
と、指先が伸びてきて頬をぷすりとつついた。



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