オンラインゲーム殺人事件あなざーその1・魔王探偵の事件簿_13

それはまるで奇跡のような…(8日目)


――迎えに行ったるから家教えたって?
そう言ったのはアントーニョだった。


最初の出会いからずっと彼は強く優しい。
まずコウモリから助けてくれて、その後もシーフのギルが意地の悪い事を言うのに、優しくかばってくれた。
その後、ソロでよくわからず初期装備でいた自分にレベル相応の装備を買ってくれたのもアントーニョで、パーティーで狩りをすれば必ず守ってくれるし、いつもいつも気にかけてくれる。

今回、どうやらゲームの賞金目当てに殺人が起こった事だって、状況を教えてくれたのも、色々気遣ってくれたのももちろんアントーニョで、最後に1人暮らしの自分がこんな状況で1人で防犯ベルを買いに行こうとしていたのを心配して、上記のように申し出てくれたのも彼だけだ。

それは申し訳なさすぎる…と、いったんは断ったものの、結局好意に甘えることになってしまう。
それなのに、こんな状況なのにひどく喜んでいる自分がいた。

でも…しかたないじゃないか…と思う。
もともと誰かと出会いたくて、話したくてゲームを始めたのだ。

そんな願いがかなうだけでなく、その相手がトーニョなのである。
嬉しい…と思わない方がおかしいだろう。

すらりと背が高くて、健康的な小麦色の肌。
目はキラキラとエメラルドみたいで、いつも笑みを浮かべている。
そんなカッコいい外見で中身も優しい憧れのトーニョとリアルで会えるのだ。

もちろん実際はそんなゲーム上のイケメンキャラと同じとは思わないが、中身は間違いなくトーニョなのだし、好きになれると思う。


その夜はゲームのアクセス時間が終わっても心はふわふわと落ち着かなくて、しかしそんな浮かれた気分も、ガタっと窓ガラスを叩く風の音で一気に冷える。
ああ…そう言えば殺人事件…と、いまさらながら思いだし、初めて1人暮らしに不安を覚えた。
普通の学科だけではなく体育も含めてオール5ということで、アーサーも運動神経は決して悪い方ではない。
例えば俊敏さには自信があるので、身の軽さ、小ささもあり、追いかけられたら逃げ切る事も不可能ではないだろうが、自宅に押し入ってこられたら…と思うと、確かに恐ろしい。

音のした寝室の方のベランダの窓にそっと近づき外を確認をする…それだけの作業にすごくドキドキする。
カーテン越し、何かの気配を感じることはない。
おそるおそる少しだけカーテンを開いてみるが、やっぱりベランダには誰もなく、風の音だったことにホッとした。

こうなると今度は不安で眠れなくなってくる。
ああ、明日…というか、もう今日か、トーニョと初めて会うのに寝ぼけ顔は見せられない。
それでもそう思って、アーサーはベッドにもぐりこむと布団をかぶって無理やり寝ることにした。


そして翌朝。
あまり眠れたとは言えないが、眠気覚ましと身支度のため、さっさとシャワーを浴びて着替えておく。

家まで迎えに来てくれると言うのだ。
一応お茶くらいはいれて一休みくらいはしてもらった方がいいのかもしれない。
そう思って、それだけは自信のある紅茶を淹れる準備もした。

約束は11時。
時間がちかくなるとだんだん落ち着かなくなってくる。
そわそわとダイニングとキッチンを往復していると、11時ぴったりにドアベルがなった。
待ち切れずに駆け出して行く。

一呼吸おいてドアスコープを覗こうとすると、期待にたがわぬ耳心地の良い
「オーラ、親分やで。」
の声。
急いでドアを開けるとイケメンが立っていた。


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