ちょこんとドアの陰から丸い金色の頭が覗く。
透き通るように真っ白な肌。
瞬きをしたらばさばさ音がしそうなほど濃く長い睫毛はくるんと綺麗にカーブを描いていて、それに縁取られた淡いグリーンの瞳は丸く、零れ落ちそうに大きい。
小さく整った鼻に柔らかそうな頬。
小さめの唇はまるで桜の花びらのように綺麗な淡いピンク色だ。
広い額で主張するやや立派すぎる眉毛がなければ、まるで少女か人形のようである。
その眉毛ですら、整えてないことでかえって幼さを醸し出していて、なんとも言えず愛らしい。
「……あ……トーニョ?」
おずおずと不安げに見あげてくる潤んだ目に、心臓を鷲掴みにされる。
「…おん、初めまして…やな。」
と、ニコリと笑いかけてやると、真っ白な頬が赤く染まって、見あげていた目が伏し目がちに下を向いた。
「…あ、あの…今日はどうもありがとう……」
小さな小さな蚊の鳴くような声でそう言うと、細い身体を少しずらして、アントーニョを中へと促す。
「おじゃまします。」
と、アントーニョが中に入ると、アーサーは鍵をかけて、トトトっと先に立って玄関を入ってすぐのダイニングへとアントーニョを招き入れた。
「ごめん、誰か来る事とかなかったから…。その椅子に座っててくれ。すぐ紅茶いれる。」
と、慌ただしく椅子をすすめられ、キッチンに飛び込んでいくアーサー。
(ほんまに…ほんまやったんか……)
どうやら罠とかではなく、話した事すべて事実だったらしい…と、ここでようやくアントーニョは納得した。
母親が亡くなって、父親には事実上捨てられた中学3年生。
いかにも人慣れない風な天使のように可愛らしい子が、こんな風に心細げに1人で暮らしているというのが信じられない。
――これは…もう運命やんなっ
非常に唐突に突然に思った。
この子は自分の手の内に保護されるために、神様が今まで他の人間を遠ざけていたのだ…と。
そして、ティーカップのトレイを手にアーサーが戻ってきた時には、アントーニョは固く固く決意していた。
――この子は親分のもんや。誰にも渡さへん。
「…これ…飲んで一休みしたら出掛けよう。」
ティーカップを自分とアントーニョの前に置き、少しはにかんだような笑みを浮かべる少年。
アントーニョは
「おおきに。」
と、カップに手を伸ばしながらも、アーサーを見つめる。
そして…静かに立ちあがった。
「目…少し赤いな。
昨日はあんま寝れてへんの?」
テーブルの反対側、アーサーの隣に回り込んで、目尻にツ…と指を伸ばす。
「可哀想にな…心細いやんな。」
と、少し身をかがめてつむじに小さく口づけると、アーサーが固まった。
(…ああ、かわええな……)
と、そんな反応が可愛くて、アントーニョは小さく笑みをもらす。
可愛さを満喫ついでに、他に手をだされたりしないうちに抱え込んでしまわなければならない…と、アントーニョは脳内で計算を巡らせた。
そして、ふと思い出して、自分が座っていた隣の椅子に置いていた花束を手にする。
「これな、大事な大事なお姫さんが少しでも気が紛れればええなぁって思うて、買うてきてん。受け取ったって?」
と、それをさしだせば、アーサーは大きな目をさらに大きく見開いて花束とアントーニョを交互に見比べた。
「…わざわざ……俺に?」
「おん。ほんまは昨日のうちにこっち来たろうかなぁって思うてんけど、初対面やしな。
親分はええけど、夜中に知らない奴相手にドア開けんの怖いかなぁって思うて、今日にしてん。
でも1人暮らしやって言うてたから、怖いやろし、心細い思いで一晩過ごしたんやろなぁって思うたら、何か安らげるもんでも持ってきてやりたくなったんや。」
本当は今考え付いた事なのだが、そう思いつけばだんだん最初からそうだったような気がしてきて、
「守ったるとか言うたくせに、心細い思いさせてほんま堪忍な。」
と、その黄色く丸い頭を引き寄せると、腕の中で堰を切ったように泣き出すアーサーが、おかしくなってしまいそうなくらい可愛らしく愛おしい。
これは守るべき相手…。
最優先で守るべき相手…。
DNAレベルでそうインプットされている気さえした。
懐どころか、身体の奥深く、胸の中の一番柔らかく温かい部分に入り込んでくる感覚。
ぐずぐずしとる場合ちゃうわ。
なんとか誰も文句言われへんように合法的に手の内に引き取れる方法を早急に考えて、保護者に手ぇ回さな……。
それ以前にあれか、この子自身もそうしたいって思えるように、一刻も早く気持ちつかまなあかん。
……勝負は今日、これからや。
そうアントーニョが思うのに、長い時間はかからなかった。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿