懐の境界線(7~8日目)
毎年祖母の兄である大伯父と行く探検の旅。
強くて楽しい大伯父と数々のピンチを乗り越えて進める旅は楽しかったが、ある時聞いた事があった。
「なあ、おっちゃん。なんで俺ら二人なん?」
一代で日本でも有数の資産を稼ぎ出したこの大伯父には、直系じゃない自分を連れ出さなくとも自分の子どもも孫もいる。
なのに彼がその旅に連れ出すのは、決まってアントーニョ1人だった。
「ん~、おめえは俺に似てるからなぁ…」
と、大振りのナイフで当たり前に道なき道を切り開き、襲ってくる蛇やら猛獣を倒しながら、息も切らせず大伯父は進む。
「総帥なんて偉そうに呼ばれて畏まった場所で奉られてもよ、俺はたまにこういうギリギリの時間が恋しくなるんだよ。
野性が消えねえっつ~のか?
でも丁度おめえが生まれた頃か。一緒に無茶してくれる相方が死んじまってな。
無茶はしてえけど、1人は寂しい。
んで、だ、お供が欲しくなるわけなんだが、本当にギリギリになった時に絶対に守れるのは1人きりだからな。
それ以上は連れて行かねえ事にしてる。」
大伯父が大好きだった。
その唯一のお供になれるのは純粋に嬉しい。
彼を誰より間近に見て、彼の技術や感性を学び取る事はどんな資産にも代えがたいと思う。
そしてアントーニョは悟る。
人生において順位付けは絶対に必要で大切なものだ。
みんな平等になどということはありえない。
今回のゲームがアントーニョのところに届いた時、実はアントーニョは全くやる気はなかった。
それを今こうしているのは、ギルベルトが1人で危険を被ろうとしていたからだ。
悪友二人は大事…というと、我ながら気持ち悪いし、なんとなく違う感じがするのだが、今失ったら一番日常がつまらなくなるだろうと思う要因だ。
それくらいなら面倒なゲームにも少しばかり付き合ってやっても良い。
つまり始めた理由は悪友なのだから、今ゲーム内において優先するのは悪友二人だ。
ヒーラーに関して言えば、最初は万が一自パーティーから裏切り者が出るとしたら一番力のなさそうな奴が良いと思ってそれを外部から探す事にしたら、丁度出会っただけの相手だった。
正直キャラは小動物のようで可愛らしいと思う。
最初の出会いで相手を助けてやったという事もあって、ちょこちょこといつも自分のあとをくっついて歩くのも、まあ可愛い。
親分…と自称するだけあって、アントーニョは頼ってくる相手は好きだし、それが幼く頼りなさそうなものであればなお好きだ。
だが、所詮はネット内の事。
キャラがイコール本人に似ているかと言うと、下手をすれば性別すらあてにならないくらいではあるし、態度だって演じる事は出来る。
ゲーム内では協力はするし多少助けてはやるが、それだけだ。
優先順位はまず自分、その次に悪友達、そのはるか下くらいだろうか。
今回の事件でギルベルトに与えられた情報。
ギルベルトにとってプリーストのアーサーはすでに同等の仲間らしく、考えても見なかったようだが、自分で言ってて思わなかったのだろうか…。
今回殺されたゴッドセイバーの本名を聞いていたのは自分を除けばイヴとアーサーだ。
もちろんリアルで呼び出せるほどアーサーがゴッドセイバーと懇意になれる可能性は極めて低く、イヴが容疑者候補筆頭ではあるが、可能性として皆無とは言えない。
油断は禁物だ。
そのあたりアーサーに情が移ってしまっているギルベルトを下手に動かすと危険だと思う。
かといってフランシスも適任とは言い難い。
だから自分が動くしかない。
アントーニョはいつもなら8時から4,5分ほど遅れてインする事にしているのだが、その日は8時ぴったりにインをする。
場所も普段の寮長室のリビングではなく、自室の机だ。
いつも8時ぴったりにインするアーサーはやっぱり今日もインしていて、広場の噴水の脇に腰をかけていた。
「オ~ラ、親分やで。」
と、声をかけてやるとパッと顔をあげて立ち上がる。
「トーニョ、今日は早いんだな。」
と、駆け寄ってくるアーサーに即パーティの誘いを送って、アーサーが入ってくるとパーティ会話に切り替えた。
『今日はな、ちょおギルちゃん達は資金稼ぎするらしいし、親分ちょっとアーサーに話しておきたい事があるから、二人パーティな。』
そう言うと、少しコクっと小首をかしげたが、すぐウンウンと首を縦に振る。
『込み入った話やさかい長くなるしな、アーサーの好きな場所でええで』
と言うと、アーサーはじゃあっ!と、テテテッと城の方へと走って行った。
ひらひらとローブの裾を翻して走っていく後ろ姿を追っていくと、連れて行かれた場所は城の庭園。
花咲き乱れる庭の花に囲まれたベンチに座るアーサー。
『まだパーティ入れてもらう前、他のプレイヤーがいないかと思って街中を探していた時にみつけたんだ。』
と見あげる幼い感じのキャラは、花々に囲まれて大変可憐で可愛らしい。
まあ…実際こんな可愛らしい容姿をしていたら周りも放ってはおかないだろうし、リアルはおそらく似ても似つかぬ感じなのだろうが、男ならキャラを愛でる目的でこんな容姿にするなら女キャラにする気がするので、意外に中身は女なのかもしれない…と、アントーニョはそんな事を思いながらもその隣に腰をかけた。
『で?話って?』
と、特にいつもと変わった様子もなく聞いてくるところを見ると、どうやらゴッドセイバーの事については知らないらしい。
そう判断してアントーニョはまずゴッドセイバーの中の人間が殺された事と共に、このゲームの賞金が原因ではないかということ、ゲームをやめようにもやめられない仕組みになっている事などを説明する。
『殺人……』
アーサーはそう呟いたまま、しばらく黙りこむ。
まあ衝撃的な話ではある。
そして1,2分後、
『今ネットニュースを確認した。ちょっと待っててもらっていいか?戸締り確認してきたい』
と言うあたりは、まあおかしな反応ではないので、了承した。
そしてさらに5分後。
『ごめん、今戻った。』
との言葉。
『大丈夫か?』
と、そこで声をかけてみると、一瞬の間。
そして少しして
『…さんきゅ、だいじょうぶ』
と返ってきた。
『1人暮らしだから…一応鍵とか全部確認してきただけだから…』
と、動揺しているのか罠なのか、アーサーの方から明かされたリアルの一部に、アントーニョはつけこんでみることにした。
『1人暮らし?まさか大学生とかなん?』
と、踏み込んでみると、アーサーは首を横に振ってなんと
『いや、中学3年生』
と言うではないか。
これにはさすがのアントーニョも驚いた。
『中学で1人暮らしって…あかんのちゃうの?』
法的に問題があるんじゃないだろうか…さすがにフェイクだろうと思って言うと、アントーニョの事を欠片も疑ってないのか、飽くまで押し通すつもりなのか、アーサーはさらにプライベートについて話始めた。
『一応マンションの世帯主は父になってるから…。元々は母と一緒に住んでたんだけど中1の時に亡くなって、父親はすぐ再婚して別の家で新しい奥さんと住んでてマンションに来る事ないから。』
これ…嘘やろ?とさすがに思うが、嘘なら嘘で良い。
うまくすれば正体がつかめるかもしれない。
アントーニョは会話をさらに発展させる事にする。
『1人やと危なない?』
『…明日、防犯ベル買ってこようかなと思う。』
と、その発言にチャンスだ…と思う。
『こんな時期に危ないし怖いやろ。親分がついてったるわ。』
『…え?……でも……』
『守ったる言うたやろ?』
さすがに戸惑うアーサーに、アントーニョは押して行く。
『…どうして?』
『大事な仲間守るのに、理由は要らへんやろ?』
と、ガンガン押してみると、どうやら流されたようだ。
『…迷惑じゃないなら……』
と、了承する。
押しに極めて弱いタイプか、黒幕の罠か…。
まあ罠だったとしても、元々無作為に送ったのだとしたら、相手はせいぜいちょっとグレた程度の学生だろう。
まあ刃物までなら持っていても負ける気はしない。
そんな事を考えながら、アントーニョは
『じゃあ迎えに行ったるから家教えたって?』
と、さらに話を進めていった。
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